第126話 13 英雄、大会に挑む

 いよいよ大会が始まった。


 俺たちはHブロックに割り当てられている。

 4チームが総当たり戦をして、上位2チームが決勝トーナメントへ進出することができる。


 今のところ俺たちのチームはこのブロックの三番手と見なされていた。


『――さあ、いよいよ注目のHブロックの試合が始まります!』


 控室に設置されたボードから各チームを紹介する声が聞こえてくる。


『――まずは優勝候補の一角。火力こそすべて! 四人のヘビィアームドで対戦相手はまとめてなぎ倒す! 〈筋肉がすべてを解決マッスルソルバー〉です!』


 マグノリアを中心とした四人のプロフィールが紹介されている。


 彼らは3大会連続決勝進出という圧倒的な実績、安定感を誇る。

 当然、今大会でも有力視されておりHブロックの一番手と目されている。


『――続いてはこのチーム。探索者としての実績は超一流。今回は対人戦闘技術も磨いてきました。塔へ行くのは俺たちだ! 〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉!』


 以前、転送トラップの混乱があったときに救助チームとして活躍したチューベローズ・グレノーキーたちも今回の大会に参加していた。


 これまではダンジョンの未踏破エリアを中心に探索を行っていたのだが、どういう風の吹き回しだろうか。


 探索メインの一流チームは戦闘能力も低くないのが一般的だ。

 彼らがこのブロックでは二番目の人気だった。

 そして俺たちの初戦の相手でもある。


『――実力は未知数。しかしここに立つ以上は負けることは許されない! 〈闇の警戒者ビーウェアオブダークネス〉!』


 同じブロックなので調べてみたのだが、チーム登録されて間もないこともあり、ほとんどなにもわからなかった。


 個々人も探索者としての実績を持たないが、全員が貴族であることからアームドワーカーとしての実力はあると見るべきか。

 波乱を起こすかもしれない不気味なチームだ。


『――そして最後はこのチーム。塔から戻った英雄が再び挑戦します。刮目せよ! 英雄は何度でも蘇る! 〈星を探す者スターシーカー〉!』


 俺たちは最後に紹介される。

 紹介コメントに思うところがないでもない。

 このチームのメインは俺ではないのだ。


 わずかな期間だったがタンジーたちと模擬戦を繰り返すことでみんな著しい成長を遂げた。

 段位ランクこそ6級のままだが、俺が見る限りとうにそのレベルは超えている。


 もしも塔から戻った俺しか見えていない相手なら、この注目のされ方を利用させて貰えるだろう。

 俺を囮にして、成長した三人が相手を圧倒する展開だってありえた。


 だが同ブロックのうち2チームは互いの顔だけでなくある程度までの力量を知っている。

 これもくじ運が悪いというのだろうか。


「どうしてでしょか。前の時よりも緊張している気がします」


 事実、ササンクアの表情はしゃちこばっており、顔は白いし、唇は乾いているし、呼吸は小さく浅いし、体は小刻みに震え続けている。


「それは武者震いではないな」


「……そうですよね」


「大丈夫ですわ」


 ティアがササンクアの手を取る。


「わたくしたちは毎日毎日、厳しい訓練を積んでまいりました。これからそれを発揮するだけです。いつも通りのことをするだけなのですから難しく考える必要はありませんわ」


 二人の手の上にローゼルが自分の手を乗せる。


「大丈夫。クアは、とってもつよい。いつもみたいに、すればいいよ」


 それから三人が俺を見上げる。


 重ねられた小さな手の上に俺も手を置く。


「みんな、これまでよく頑張ってきた。ノービススーツの纏い方から、ダンジョンでの探索方法、それから対人戦闘まで。短い期間だったけど、とても濃い時間を送ってきたと思う」


 三人とも頬が紅潮している。

 充実感が表情に現れていた。


「俺と出会った時は駆け出しそのものだった。でもこの数カ月でたくさんの経験をして成長した。胸を張っていい。君たちは誰よりも努力してきた」


 緊張していたササンクアにも落ち着きが見える。


「さあ、塔に登るために前へ進もう。これは俺たちの目的を果たすための第一歩だ!」


「はい!」

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