第92話 英雄、ギルドへ報告する

 未踏破エリアの探索と転送トラップについての報告をしにギルドへやってきたのだが、相変わらずの人の多さだった。


「すごいな、これは」


 前に来た時よりも人が増えているのではないだろうか。

 探索者を志す人がこんなにも増えたのならば喜ばしいことだが、同時にどれだけ残るのだろうかとも考えてしまう。


 探索者は常に危険と隣り合わせにあるし、収入だって安定しない。

 これだけでやっていくのは実力と経験だけではなく、運も必要になる世界だ。


 どことなく殺気立った雰囲気があるようだがなにかあったのだろうか。


 とりあえず、ダンジョンから帰還した報告だけでもしておこうと列に並び、小一時間ほどして受付にたどり着いた。


 顔見知りの受付――スリフトの顔はげっそりとしていたが、この混雑具合であれば気持ちはわからないでもない。


「依頼のあった地下一層の未踏破エリア探索から戻ってきた。こちらがフェアリーアイの記録だ。あと今回の計画書にチェックを頼む」


「お疲れ様でした。……なるほど。北西外縁部をチェックしてくださったんですね。ありがとうございます。ほとんどの方が中央に近い部分の探索をされていたので助かります」


「実は転送トラップに引っかかってな。そのことについても話をしておきたいんだが」


「ジニアさんたちのチームもですか。他にもそういう報告があって、現在、情報を収集しているところなんです。どこからどこへ飛ばされたかはわかりますか」


「もちろんだ」


 テーブルに置かれた地下一層の地図に印を入れる。


「地下二層の地図を出してくれ」


「今回は地下一層の未踏破エリアの探索でしたよね?」


「ああ。だが転送された先が地下二層だったんだよ」


 受付は慌てて地下二層の地図を出してくれる。

 南にある遺跡に印をつけた。


「別の階層に転送させられて、よく無事でしたね」


「幸い転送先に有力なチームがいてな。そこで保護して貰ったんだ」


「チーム丸ごとの転送ではなかったんですか?」


「小部屋に入った一人が飛ばされた。たまたま俺が使っているブレスレットは今いる階層と上下一階層分の地図も表示できるから地下二層に飛ばされていたのがわかったんだ」


「そうでしたか……本当に無事でなによりでした」


「ありがとう。似た事例があったということだが、トラップの場所を教えて貰えるか」


「もちろんです。今は情報を集約している最中なんです。わかる範囲で転送先なども洗い出しているので時間がかかるのではないかと」


「それは仕方がないな」


「おまけにいろんなトラップの報告があって危険度の設定も見直しが必要そうなんです。ですからそれまではダンジョンの一時閉鎖を検討していまして……」


 なるほど。さっきから落ち着かない雰囲気だと思っていたが、それが理由だったのか。

 前回の閉鎖からそんなに日にちも経っていない。

 頻繁にダンジョンへの立ち入りを禁じられたら生活が成り立たない者も出てくるだろう。


「しばらくご迷惑をおかけすることになります。すみません」


「いや、君が謝る必要はないさ。探索者の安全を優先してもらえるのはありがたい」


「あ、あはは。みなさんがジニアさんみたいな方だと助かるんですけど……はあ」


 随分とお疲れのようだ。

 スリフトの労をねぎらってギルドを後にする。


 家へ戻ったらみんなと今後について相談をしようと考えながら歩いていると、前方から見知った顔がやってきた。


「やあ、ジニア様」


「ヒサープじゃないか。ササンクアに用事か?」


「いいえ。ジニア様にご相談したいことがありまして」


「わかった。じゃあ、その辺の店に入って話を聞こう」

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