第51話 英雄、個室で話を聞く
引っ越し作業でバタバタしていたのでギルドに顔を出すのは久しぶりになってしまった。
「こんにちは、ジニアさん。引っ越しは無事に終わったみたいですね」
「流石に耳が早いな」
「ええ。ここはいろんな情報が入ってくるところですから」
パチェリィはいつものすまし顔をしてみせる。
「チームキャプテンとしてはこれで一安心ってところでしょうか。むしろ別の問題が発生しているなんてことはありませんよね?」
「しないな」
そんなことになったら、その、なんだ……本当に困るからな。
しないぞ。本当だぞ。
「それはよかったです。ところで指名依頼の件は検討していただけましたか?」
「ああ。とりあえず話だけでも聞いてみようってことになった」
「わかりました。では詳しい説明をしますから個室までお願いできますか」
ギルドには面談に使うような小さな部屋がいくつかある。
そういえば三人にノービススーツのことを話したのもこういう部屋だったな。
テーブルに向かい合うように座ると、パチェリィが説明を始める。
「ジニアさんたち〈
ふむふむ。アーティファクトの入手か。それについては問題ない。
だがスクリーンは地下三層から入手できるようになるもので、そこまで高難易度の依頼というわけではない。中堅以上のチームならばこなせるはずだ。
わざわざ俺たちのような駆け出しに毛の生えたようなチームに依頼する内容ではないだろう。
「ジニアさんを除いた三人が6級になっていますから地下三層に入るのは問題がないと思います」
確かに地下三層に入るのは6級からと考えられている。
だがあそこからは敵の種類や強さが大きく変わるので、安全に探索するのなら5級は欲しいところだ。
それにもかかわらずギルドが依頼内容に問題なしと判断したのは、三人の実力が相応にあると認めているからだと考えられる。
「この依頼が指名依頼の理由はスクリーンをなるべく多く……できれば10個以上入手してほしいからです。ちなみに納期は受注から10日以内となっています」
「……そりゃまた結構な量と微妙な納期だな」
スクリーンは長辺が10メートル以上にもなる。
恐らくティアのストレージでは一つが入りきるかもわからないだろう。
しかも10日という期間はかなりシビアだ。
一度の探索で一つのスクリーンを見つけだし、それを十回も繰り返すとなると厳しいと言わざるを得ない。
この納品数と期間なら、できれば一度の探索で持ち帰りたいところだ。
「なるほど。だから俺のいるチームに指名が来たってわけか」
「はい。塔から持ち帰ったストレージはケタ違いの容量を持つという噂でしたからね」
俺が塔で入手したアーティファクトのうち、便利で使い勝手のいいものは国へ納めずに俺が個人所有している。
大容量のストレージもその一つだ。
「確かに俺のストレージなら一度に複数のスクリーンを持つことは可能だな」
「いかがでしょうか。引き受けていただけませんか?」
「いや。この場で即答はできんよ。みんなにも相談をしないといかんからな。しかしなんで受注から10日なんだ。もう少し期間に余裕があれば指名依頼にしなくてもいいだろうに」
「あー、それはたぶんですけど……」
パチェリィが言い淀む。
「依頼を受けるかどうかの判断材料としたい。言ってくれ」
「うーん……これはあくまで予想ですからね。外れていても責任はとれませんからね」
「そんなことは言わないから安心してくれ」
「じゃあ言います。今ってダンジョンの生配信の数がすごく増えているんです」
「知ってる。びっくりするぐらい増えたよな」
「ええ。間違いなくジニアさんたちの配信の影響だと思うんですけどね。それで、今回の依頼主はダンジョンでの探索の様子をより多くの人に見て貰いたいんじゃないでしょうか」
「今でもあちこちにスクリーンはあるだろう」
王国内のいくつかの場所には巨大なスクリーンが掲げられているし、ギルドや食堂のような人が集まる場所にも大型のボードがあって配信を見ることができる。
それなりのお金を積めば個人で小さなボードを買うことだって可能だ。
「だからもっとたくさんのスクリーンを設置して、より多くの人の目に触れるようにしたいんだと思います」
視聴者が今より増えて探索者が報われるのだとしたらいいことだが、そういう意図ではないような口ぶりだ。
いまいちパチェリィの言いたいことがわからない。
「えーとですね、これは完全に個人的な推測ですからね?」
了解したと頷く。
「今回の依頼を出した方は貴族推薦をしやすいように動かれているんじゃないかなーと。探索者の活躍が多くの人に知られることで、半年に一度選ばれる聖塔探索士の候補を増やしたいと思っている方がいらっしゃるんじゃないかなあって」
「そういう裏が本当にあるのなら、確実にスクリーンの数を増やせるように納期に余裕を設けたほうがいいような気もするが」
「それだけ依頼先のチームが期待されているんでしょうねえ」
言いながらパチェリィが俺を見る。
「……なるほど」
期待されているのなら応えたいところだが、さて、みんなはどう反応するだろう。
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