第31話 英雄、異変を報告する
ダンジョンから戻った俺は回収したグレーパックを映像と一緒に納品した。
その時に地下二層で俺たちが遭遇した巨大なディープアリゲーターについても報告し、映像も渡しておいた。
口頭だけでは見間違いや勘違いという可能性もあるが、映像があれば信じざるを得ない。
こうすることによりギルドを通じて魔物の状況が探索者たちに共有されるようになる。
「先日はありがとうございました」
受付に立つ俺にパチェリィが頭を下げる。
「こちらがギルドからの報奨金となります」
受け取った袋は思いの外重い。
「他の探索者からも同様の報告があったのかな」
「はい。どうやらあそこの遺跡から水があふれているようです。それが隣の森まで広がったのではないかということでした」
問題はディープアリゲーターが遺跡まで縄張りを広げているところにある。
水場を得意とするディープアリゲーターとは陸上で戦うのがセオリーだ。
それが遺跡まで水浸しになっていては相手の得意な場所で戦う羽目になってしまう。
「しばらくあのエリアに下級の探索者は近寄らないように指導していくことになりました」
「それがいいだろうな」
「しかしよくジニアさんたちはご無事でしたね」
驚いているパチェリィに笑いかける。
「三人ともランク以上に動けるんだ。ギルドのランク付け方法、ちょっと見直した方がいいんじゃないか」
ランクはダンジョンでの探索経験と戦闘能力で決定される。
だから両方が優れていれば上級のランクになるし、どちから片方だと下級に位置しやすい。
三人はダンジョン探索経験がゼロだった。
だから戦闘能力だけでの評価ということになる。
片方でしか評価されていないのに上級に位置しているのはよほど優れているアームドワーカーだと思っていい。
「とはいえ貴族の方はダンジョンに入りたがりませんし、一方で大会には興味がないという探索者も多いですからね。なかなか難しいんですよ。おまけにジニアさんはノービススーツしか使えてませんし……ギルドマスターも呆れてましたよ。あそこで大顎に手を突っ込むヤツなんていないって」
「ササンクアのシールドがあったからな」
尻尾で吹き飛ばされた二人もしっかり守っていたシールドなら大丈夫だと判断しただけだ。
「そんな判断ができるのはお前だけだって言ってるんだよ」
カウンターの奥からのっそり姿を見せたのはギルドマスターのオウリアンダだった。
元探索者だけあっていいガタイをしている。
胸板の厚さは現役のマグノリアにだって引けを取らないだろう。
「珍しいな。あんたがカウンターの中にいるなんて」
「誰かさんがダンジョンにまつわる報告をしてくれたからだよ。真っ先に対応しないといかんだろうが」
ダンジョンにまつわる報告は普段出現しない場所に魔物が出たとか、強さが変わったとか、未踏エリアを突破したという今後のダンジョン攻略において影響が出る報告のことだ。
今回で言えば地下二層にある遺跡が水没していること、ディープアリゲーターの生息位置が変わっていることが該当する。
「そっちの評価も貰えるんだよな?」
「当たり前だ。フォーサイティア、ローゼル、ササンクアの三名はそれぞれ一級ずつランクアップになる。問題はお前さんなんだが――どうしたもんかねえ」
禿頭を指でかきながらデカい溜息を吐く。
「アームドコートの召喚ができない俺を評価しようがないのはわかってるさ。だから俺のことはいい。むしろあの三人のことをきちんと評価してやってほしい」
ティアの機動力、ローゼルの攻撃力、ササンクアの防御力。
とても下級に収まっているレベルではない。
「わかっちゃいるが例外はあまり作りたくない。とりあえずはワンランクアップで納得してくれ。事実として彼女たちは探索者として駆け出しだ。むしろ一足飛びで上がるのはよくないだろ」
「そうだな」
探索者としての経験はこれから積んでいくことなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます