第148話 35 英雄、決勝の対戦相手が決まる
「ところでどうなんじゃ。今回は塔へ行けそうかの」
「キャプテンの俺が言うのもなんだが、大会で勝ち抜いてというのは厳しいだろうな」
「ほっ。謙虚じゃな」
「第三者から見てどうだ?」
コンコンと机を指で叩くのでお代わりを頼んでやる。
「よくぞトーナメントまで勝ち進めたものだと思っておるよ」
つまりそれより先は無理ということだ。
「優勝はどこだと思う?」
「メイズランナーのお嬢ちゃんのチームじゃろうな」
「本命だな」
「なんじゃ。お主も同じ意見か」
「正直、個人能力もチーム力も抜きん出ていると思う。さすがは聖古宮王国のメイズランナーだよ」
「対抗はマグノリア。あとはいけ好かないがボールサムのチームじゃろうて」
実際に手合わせをしたからマグノリアたちの強さはよく知っている。
シクモアたちがいなければド本命は彼らだ。
「急造チームをそこまで評価する理由はなんだ」
一人入れ替わったタンジーたちが大会への参加を見送ったように、大会で勝ち抜くにはチーム力を熟成させる必要がある。
いくら個々人が高い能力を持っていてもチームとしてすぐに動けるとは限らないのだ。
「聖人のヘリオトロープを安全圏に確保するので実質は三人のチームじゃが、あの殲滅力は侮れん。シュートアームドの三人は古い付き合いじゃから連携ができておる。しかもそれぞれの得意とする距離と戦い方が違っておって、しかもそれが噛み合っておるんじゃ。お嬢ちゃんたちがおらなんだら、あれが優勝してもおかしくはない」
これは予選の戦いをチェックする必要がありそうだ。
大会の様子は配信されているから、みんなで映像を確認しておくとしよう。
「お主の狙いは貴族推薦狙いか?」
「最初からそのつもりだったんだ。大会に参加したのはチーム力を試すためだったし。それに推薦なら目がありそうだしな」
「たしかに。この半年でもっとも目覚ましい成果をあげたのはお主たちで間違いないじゃろう。このところ貴族推薦で塔へ行くチームはなかったが、今回あるとしたらお主たちじゃろうな」
貴族からの指名依頼も達成しているし、強い影響力を持つと噂されるダフォダル様と面識も得てしまった。
あの方が私情を挟まれることはないと思うが、顔を合わせたのが不利に働くことはないだろう。
「じゃが、貴族も一枚岩ではないからの。最近、鏡会の一派が気勢を上げておるじゃろう。それに勢いを得てダンジョンに頼らない生き方を選ぶべきと主張する貴族もおる。なまじ地位があるから発言力も強くての」
「禁足派の人ならこの前の会議で見た。ダンジョンなど破壊してしまえと平気で言うんだな」
「賢人会議に参加していたのなら女傑として知らるアゼイリア・フルトハンザかの。貴族出身の重鎮じゃな」
弁が立つところや発言時の態度を思い出し、女傑と言われてなるほどと思う。
「ちなみに金の孔雀を持つと言われるポメグラネイトが禁足派に与する貴族たちの筆頭じゃ。例の四象とかいう一人じゃな」
クジャクといえば富と繁栄、そして開運の象徴だ。それに金と付くのなら特に富を持つと考えて間違いない。
「金持ちなのか?」
「うむ。ウンナン家は他国との交易を手広くやっておるからこの国で一番金を持っておる。王家ですらウンナン家の意向には首を横に振ることは憚られるという噂じゃ」
「国王ですら自由にできんのか。貴族社会っていうのは面倒臭いところだなあ」
「平民のワシらにはわからんが、貴族には貴族の苦労があるんじゃろうて」
貴族とは名ばかりで平民とそれほど変わらない生活をしている者もいるとは聞く。
タンジーのラウダ家やニモフィラのシーグル家は下級貴族で、生活水準は俺たちとそんなに変わらないと本人たちが言っていた
そういえばニモフィラは現国王の娘だったな。
どういう経緯で今の状況なのか俺には想像もつかないが、それなりの困難があったのだろうと思う。
「まずは大会で不甲斐ないところを見せぬことじゃな。あっさり負けてしまうと決まりかけていた貴族推薦もフイになってしまうかもしれんからの」
「肝に銘じておくよ。とはいえ、マグノリアたちから1ポイント奪えたし、決勝トーナメントでも一方的にやられることはないと思いたいんだがな」
後日。
トーナメント一回戦の相手が決まった。
「因縁の相手、ですわね。あれから成長したところを存分に見せつけてやりますわ」
「まけない」
「この一戦、全力を尽くしましょう」
俺たちの相手はボールサムの〈
英雄は塔を目指す~クビにされた俺は見捨てられた新人と塔に挑戦します。だから戻って欲しいと泣きつかれても、その、なんだ…困る~ さくら @sakura_uduki
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