第131話 18 英雄、奥の手を出す

「真正面からやり合うことも想定になかったわけではありませんけれど、これは歓迎すべき展開なのかしら」


「ランク差を考えれば私たちのが不利です。それを承知の上でこの状況に持ち込んだあちらのが一枚上手だったということでしょうか」


「じゃあ、いくよ」


 これまでの訓練通りにローゼルが先頭に立つ。


 こうして正面から向かい合い、4対4で戦う想定もしてある。


 基本のフォーメーションは変わらない。

 前衛はティアとローゼル、後衛がササンクア。

 俺は遊軍として動く。


 対する〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉はライトアームドが三人いるから、これはまとまって動くと見て間違いない。


 つまり前衛の数は2対3。

 数の上では劣勢であり、この戦いが不利であることは明確だった。


 アームドコートを召喚できない俺が前衛に加わわれば数の上では互角になるが大勢に影響はない。

 それだけ能力とランク差があるのだから当然だ。


 チューベローズたちが先に動く。

 ライトアームドの機動力で走り回られると、動きの重いヘビィアームドのローゼルでは追いつけない。


 狙いはどこか?


「当然、俺だよなっ」


 ローゼルとティアを迂回しつつ、縦列になって迫ってくる。


 連続攻撃の初撃を左手で内側に払う。払った勢いのまま体を回転させ、腰を落として足払い。二人目が跳躍してかわす。

 三人目のチューベローズを――


「上です!」


「ちっ」


 二人目に隠れるように跳んでいたチューベローズの蹴りが頭上から迫る。

 振り切った足のつま先を立てて地面を捕まえ、前へ飛んだ。

 ほぼ同時に蹴りが地面を打ち砕く。


 チューベローズを中心に土砂が舞い上がるがそれを物ともせずにローゼルが距離を詰める。


「たああ!!」


 唸りを上げた拳が空を切る。


「やあ! えい! はああ!!」


 まるで流れる水のような滑らかな動きで、次々に放たれる拳をチューベローズはかわし続けた。


「鋭く迷いがない。いい攻撃ですよォ」


「むううううぅぅ!!」


 腰を落としたままのすり足で距離を詰めるローゼルは休むことなく拳を打つ。


 連続攻撃は無呼吸運動だ。

 ローゼルもどこかのタイミングで息を入れる必要がある。


「ふっ! はっ! てりゃ!!」


「よく、続き、ますねェ!」


 息が切れるまで攻撃し続ける作戦だった。

 チューベローズを他から引き離すのがローゼルの役割だからだ。


 ローゼルとチューベローズが一対一の状況になったところで、俺とティアは相手の後衛へと向かう。

 当然、ライトアームドの二人が俺たちの動きを邪魔するために走りだそうとする。


「行かせません! 防護壁ウォールオブプロテクション!」


 機先を制して不可視の壁が二人の前に展開される。


「なに!?」


「くそっ。魔法か!」


 シールドが個人に付与するのに対し、ウォールオブプロテクションは任意の場所に目に見えない壁を作り出す。

 設置する位置に加え、厚さや高さ、それに長さにはある程度の自由が利く。


 より厚く、より高く、より長い壁を構築するには膨大な魔力が必要になるが、今は薄いがそこそこ高くて長い壁を構築した。


 相手を分断するための魔法だ。

 少々の跳躍と移動では迂回できない高さと長さがあれば十分だった。


 シールドがある程度のダメージを受ければ効果を失うように、ウォールオブプロテクションを破壊することは可能だ。

 しかしライトアームドの攻撃力では時間がかかる。


 こうして空間を分けることで、相手のガードアームドは孤立した。


「っ!? いかせるかァ!」


 分断された仲間の危機を悟ったチューベローズが走る。

 対峙していたローゼルとの距離が開いた。


絶対防御障壁アンチガードシェル!!」


「これは……まさか!?」


 今度はチューベローズを中心として半球状の障壁が構築される。


「ぬゥああああああああァァァ!!!」


 連続して拳を打ち付け、何度も蹴りを見舞うが障壁はビクともしない。


 アンチガードシェルは物理攻撃ならば必ず防ぐことができる。

 そして術者が解除するまでは内側からも破壊することは不可能だ。


 ライトアームドの二人は左右に別れて壁のない場所まで回り込もうとしている。


「ティア、いって!」


「わかっていますわ!」


 〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉の構成を考えれば、この試合のリーダーは後衛のガードだろう。

 これを倒せば2ポイント。

 あとは残るライトのどちらかを倒せば勝ちだ。


 仮にチューベローズがリーダーだとしてもこのままアンチガードシェルを維持し続けて残る三人を倒せば勝利となる。


「ヒヨコどもが舐めるなよ!」


 ガードアームドの男がティアを迎え撃とうと構える。

 その腕に細いワイヤーが巻き付いた。


「な!?」


 俺の左手首にある多機能腕輪マルチブレスレットには文字通りさまざまな機能が搭載されている。

 時計や地図を表示する機能のほか、ワイヤーを射出し、アンカーとしても利用できる。


「ぐぐっ、腕が……」


 ワイヤーを巻き上げて一気に距離を詰める。

 今この時の移動速度はライトアームドのティアよりも速かった。


「くらえ!」


 右肘を相手のアゴ先に掠らせるようにして交差する。

 男は膝から崩れ、そのままうつ伏せに倒れた。


「ティア、右からだ!」


「わかりましたわ!」


 不可視の壁を回り込んでいた右側のライトアームドに標的を定める。

 ワイヤー射出を駆使した俺とティアに挟み込まれた男は抵抗も空しく倒れた。


『――それまで。勝者、〈星を探す者スターシーカー〉!』

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