第130話 17 英雄、理由を聞かされる

 腕を組んで俺たちを見下ろしていたのは〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉のキャプテン、チューベローズだった。


「あれでうっかり溺れるような間抜けな探索者なら戦闘じゃなくて救助活動をしなきゃいけないところでしたよ。少なくとも間抜けではないのがわかったのはめでたいことですなァ」


 素早く周囲を確認する。

 ここにいるのはチューベローズだけだった。


 もしかしたら隠れているのかもしれないが、少なくとも気配は感じとれない。


「盛大な歓迎に感謝いたしますわ。危うく死んでしまうところでしたけれど!」


「カカッ。威勢のいいお嬢ちゃんだ。ですがね、この程度の罠で死んでるような探索者が塔に登ってやっていけるんですかねェ」


「ローたちは、死んでない、もん!」


 立ち上がったローゼルが殴りかかろうと構えをとる。

 しかしチューベローズは両手を胸の前であげて敵意がないフリをした。


「こんな狭い場所で戦うつもりはないんですよォ。あのトラップを無事にクリアできたんですから、ちゃんと戦って互いの実力を示しましょうや」


 ついてこいと言いたげに後ろを向き、部屋を出ていく。


「どうしましょうか? また罠があるかもしれませんけど……」


 困惑したような表情の三人が俺を見る。


「自分から姿を見せたんだ。もう罠はないと思っていいんじゃないかな。ああ言っているんだし、ついていこう」


 建物を出たところにチューベローズはいた。

 彼の後ろには仲間の三人も揃っている。


「ここからは小細工なしの平手でやり合いましょうや」


「その言葉を素直に信じろとおっしゃりたいんですの? わたくしたちをあのような危険な目に遭わせておいて随分と調子がいいではありませんの!」


 口角を上げたチューベローズが右手の人差し指を立てる。


「まず建物の入口をチェック。何者かが侵入した痕跡あり。そのまま入るか? ノー。屋内で待ち構えられていることを想定して入口以外からの侵入を決行。選択したルートは壁伝いに屋上――実を言うと、この時点でこちらの想定を上回ってたんですよォ」


 人差し指の次に中指が伸びる。


「二つ目。全員が屋上から侵入後、上から順にチェック。ここまでは合格でした。驚きでしたよ。ダンジョンに入るようになって日の浅いチームができることじゃありませんでしたからねェ」


 伸びていた二本の指が折られる。


「悪かったのは安全確認したのに地下でモタモタしていたこと。目標が見つけられなかったのなら速やかに撤収すべきでしたなァ」


「なるほど。地下室の壁に細工してあったんだな。それが崩れて水浸しになったわけか。そこまでは気が付けなかったよ」


「時間をかけてよく調べれば気が付けたんでしょうけどねェ。今回は対人戦闘が中心というのもあってそこが隙になったというあたりですかなァ」


「私たちの行動を逐一観察していたということですか」


「いい趣味とは言えませんわね!」


「そこは許していただけませんかねェ。なにしろ、私たちが大会に出場した理由はまさにそれだったんですから」


「どういう、こと?」


 チューベローズの顔に張り付いていた笑顔が消える。


「英雄ジニアが育てたチームがどこまでやれるのかを見てみたかったんですよ。探索面の実力はわかりました。あの時、救助チームに選んだギルドマスターの判断は正しかった。高められるところはいくつもありますが、地下新五層から生還したのも納得できます。短期間でよくぞここまで鍛え上げたと驚きました」


「それはベテラン探索チーム〈危険な快楽デインジャラスプレジャー〉から合格点を貰えたと思っていいのかな」


 チューベローズの口元が緩む。


「次は戦闘面の実力を見せて貰いましょうか。本来、大会の趣旨はそれですからね」


 意外に澄んだ瞳が俺を見ている。


「わざわざそのために大会に出場するとは、あんたも変わり者だな。同じブロックに入ってなかったらどうするつもりだったんだ」


「塔から戻った英雄がまた塔に挑戦するほうがよほど変わっていると思いますがねェ」


 チューベローズの口調が元に戻っていた。


「先ほど言ったように、ここからは小細工なしでやらせていただきますよォ。普通に考えればそちらが圧倒的に不利。どう覆すか楽しみにしていますからねェ」

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