第144話 31 英雄、相手の分断に成功する
マグノリアは真っ直ぐに歩を進めて大木の前で右拳を引いた。
他の三人はマグノリアの動きを妨げないだけの距離を取って左右と背後を固めている。
「まずはそこから降りて来てもらいましょう!」
宣言後に力強く踏み込む。
その時、大木の根本からマグノリアの足元までの地面がすっぽりと崩れ落ちた。
「なっ!?」
驚きの表情を張り付けたマグノリアが奈落に飲み込まれる。
傾きつつある大木にしがみついたまま、俺は右手のワイヤーを下に飛ばす。
「マグノリア!?」
慌てたラークスパーが声をかける。
バランスを失った大木が〈
眼下の状況を確認しつつ右手のワイヤーを巻き上げ、左手のワイヤーを近くの木に向けて射出する。
腕一本で
「木が倒れてくるぞ! 一旦離れるんだ!」
ミーゾリアンの声に他の二人が反応する。
幸いなことに俺たちのことは彼らの意識から外れていた。
右手のワイヤーに二人がぶら下がっているのを確認してから、大木を蹴って左手のワイヤーを巻き上げる。
「ぐうぅぅ……」
ずっしりとした重みを右手に感じる。
男たちは左右に散り、倒れてくる大木から逃げていた。
ズズーンと鈍い音を立てて大木が倒れ、マグノリアが落ちた穴を塞いでしまう。
「いかん! マグノリアを助けるんだ!」
今の声は大木のこちら側に避難したファレノプシスのものだ。
「させない!」
ワイヤーから手を離して飛び降りたローゼルが孤立したファレノプシスに一対一を仕掛ける。
「ど、どこから!?」
振り向きざまに放たれた裏拳を体を沈めてかわす。
一歩。もう一歩。深く踏み込む。
大きな動きは必要ない。
溜めた力を一瞬で放出する。
最小限の動きで最大限の結果を出す。
「ふぅ――」
距離も位置も申し分ない。
踏み込んだ左足が地面にめり込む。
しかしその分だけしっかりと下半身を支えることができる。
よく見る。
相手は上級のヘビィアームド。装甲が体を覆う面積が多い。
腰を捻りながら右手を伸ばす。
わずかな隙間を狙い澄ます。
「――
衝撃が森を走った。
ドゴンという鈍い音。
側面を晒していたファレノプシスはローゼルの拳に触れた瞬間に吹き飛ばされ、大木に衝突した。
「がはっ」
深い角度で大木に当たったために弾かれることなく衝撃をもろに受けて男は気を失った。
「一人、やっつけた!」
隙をついたとはいえ格上を一撃で戦闘不能にしたのは称賛に値する。
「マグノリアは押さえたな?」
右手に繋がるワイヤーにしがみついているササンクアに確認する。
「はい。アンチガードシェルに閉じ込めました」
「よーし。狙い通りだな」
あらかじめ大木の下に落とし穴を掘っておき、その上にササンクアのウォールオブプロテクションを展開させておいたのだ。
表面は自然に見えるように俺が土を被せて偽装しておいた。
そこにマグノリアたちを誘い込み、タイミングを見計らってウォールオブプロテクションを解除する。
今回はマグノリアの強い踏み込みでウォールオブプロテクションが解除されたようだが結果は同じだ。
落ちたマグノリアと入れ替わりに落とし穴に身を潜めていたササンクアとローゼルをワイヤーで引き上げる。
最後に穴に落ちていく相手を落とし穴の底に足をつく前にアンチガードシェルで閉じ込めるというのが作戦だった。
結果、マグノリアを落とし穴とアンチガードシェルに閉じ込めて分断し、地上に残った相手を一人倒すことができた。
おそらく考える中で最良の展開と言っていいだろう。
倒したファレノプシスがリーダーであれば残った二人のうち、どちらかを倒せば俺たちの勝利。
閉じ込めたマグノリアがリーダーだとしても二人を倒せば俺たちの勝ちだ。
勝利をぐっと辿り寄せたと言っていいだろう。
「まさかこんな初歩的な手にハメられるとは……しかし! アンチガードシェルは半球状の障壁だったはず。それならば!!」
穴の奥からドカドカドカと拳を叩きつける音が聞こえてくる。
「こ、これは……そんな、まさか!」
「たしかにアンチガードシェルは半球状の防御障壁が展開する。だが空中で展開させれば全球状態になるんだよ」
「くそ! くそおおぉぉぉ!!」
いくら上級のヘビィアームドと言えど、物理攻撃を完全に無効化するアンチガードシェルの前には無力だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます