第二章 英雄、指名依頼を受ける
第41話 英雄、三人の戦いを見守る
俺たちが初心者向けの配信をするようになって一カ月ほどが過ぎていた。
相変わらず配信は好評で再生数も伸び続けている。
聞いた話によると貴族からの反応も上々だそうだ。
立場上、貴族とも顔を合わせる機会が多いギルドマスターのオウリアンダが積極的にプッシュしてくれている効果らしい。
「というわけで、今回は地下一層南エリアのボスとのリベンジマッチをしようと思う」
勇ましい表情をした三人の周りをフェアリーアイが飛んでいる。
「いよいよですわね。腕が鳴りますわ。おじい様の本にこうありますの。『敗北は人を強くする。諦めるな』と。初めての挑戦のとき、わたくしたちはミノタウロスとは勝負になりませんでした。今回はちゃんと戦ってみせますの」
「ローも、がんばる」
「わたしがお二人をしっかりフォローします」
この一カ月、みっちりダンジョン探索の基礎を叩きこんできた。
罠の発見や解除、魔物に対する警戒、キャンプの準備などなど。
今では探索をメインにしている中堅チームにも匹敵する実力があると自信をもって言える。
その集大成として、かつて俺が一人で倒してしまったミノタウロスと三人だけで戦うところを生配信しようとしているのだ。
「わたくしとローゼルがミノタウロスを足止めいたしますわ。ササンクア様にはシールドが切れないように援護をお願いいたします。それからダメージを受けてしまった時のフォローもお願いしますわね」
「シールドは三撃まで確実に持ちますから攻撃に専念できるはずです。随時シールドの更新をしていきますから安心してください」
これまでに俺も含めた四人でミノタウロスは何度も倒している。
今回は俺抜きだから作戦の確認に余念がなかった。
「ローは、ちゃんとあてる。だいじょうぶ、こわくない」
「わたくしにヘイトを集め、ローゼルが着実にダメージを与えていく作戦ですもの。期待していますわよ」
「うん」
準備ができたのか、揃って俺を見上げる。
「もういいのか」
気合いの入った表情で三人が頷く。
「よし。フェアリーアイ、生配信を始めてくれ。これから〈
フェアリーアイが三人を順番に瞳に入れていく。
「今回の配信は俺抜きでの戦闘になる。彼女たちがどれだけ成長したかを見てやってほしい」
配信内容を述べた俺が頷くと三人が召喚を行う。
「
そこには見違える姿になった三人がいた。
初めて見せてもらったときは装腕率がまるで違う。
ライトアームドのティアはほっそりとしたシルエットはそのままだが、なんと脚部が装甲で覆われている。
アームドコートは上半身を中心に装甲を纏うという常識を打ち破っていた。
ヘビィアームドにしてはボリュームに欠けていたローゼルの上半身はがっちりとした装甲になっている。
握り締めた巨大な拳は頭ほどもあるだろう。攻撃力はかつての比ではない。
今ならもディープアリゲーターの硬い皮膚すら貫通させることができるはずだ。
唯一、見た目にそれほど変化がないのはササンクアのアームドコートだ。
だが彼女の使うシールドの強度は格段に向上していた。
ミノタウロスの大斧を三撃まで防げるのは実証済みだ。
「お二人にシールドをかけますね」
不可視のシールドが展開される。
向上した装腕率と相まって、生半な攻撃なら傷一つつけられないだろう。
三人が揃ってボスのいる部屋の扉に手をかける。
踏み込むと同時にティアが飛ぶようにミノタウロスへと駆けていく。
速い。
侵入者に気が付いたミノタウロスが大斧を構える前に接敵している。
「ふっ」
無防備な正面から攻撃すると見せかけて横へ跳ぶ。地面を蹴って前へ。そして後ろに回り込む。
ミノタウロスはティアの姿を見失っていた。
『ブモ!?』
大斧を持ち上げようとしている動作の途中で背中を蹴られてつんのめる。
二歩、三歩とたたらを踏んだミノタウロスの前に右手を引いたローゼルがいる。
「はー!」
柄を握る手を撃ち抜いた。
大斧が弾き飛ばされる。
『ブモモモモォォ!?』
その痛みと衝撃でミノタウロスが吠えた。
目の前に立つローゼルを睨みつける。
「どこを見ていらっしゃるのです!」
跳び上がったティアが後頭部にケリを入れる。
『ンモッ!?』
綺麗に頭を蹴られてバランスを崩す。
踏ん張ろうと膝を曲げ腰を落としたのが失敗だった。
「や!」
目の前にある右膝をローゼルが殴る。
『ブモモオオオオオオォォ!』
膝が砕ける音と悲鳴のような叫び声が重なる。
体を支えられなくなったミノタウロスの巨体が崩れ落ちる。
だが戦意は失われていないようで、巨大な左手を振り回してローゼルを殴りつけようとする。
「ですから、どちらを見ているのかと言っているのですわ」
低くなった背中を駆け上がったティアが手刀を振り下ろした。
『ンギィィ!』
立派な左角が音を立てて折れた。
痛みがあるかはわからないが、その衝撃で上体が折れ、頭を地面にぶつけてしまう。
そこにいたのはローゼルだ。
「よい、しょ」
ローゼルの腰の入った右正拳突きが炸裂する。
ズバンと小気味いい音と共にミノタウロスの頭が爆裂した。
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