第94話 英雄、再び訪問する

 ヒサープから貰った情報をギルドへ伝えると、ギルドマスターであるオウリアンダが直々に「然るべき対処をとる」と約束してくれた。


 探索者出身のオウリアンダなら資格のない者がダンジョンに入るのがどれだけ危険なのか知っている。必ず正しい対応をしてくれるだろう。


 現在、ダンジョンに潜っている者が戻り次第、ギルドは方針を打ち出すそうだ。

 それまではダンジョンへの立ち入りは禁止とされた。


 そうなればチームの活動も休止せざるを得ない。


「みんな順調に成長しているところだったんだがな」


 未踏破エリアの探索は、最後に転送トラップに引っかかってしまったとはいえよくできていた。

 俺が彼女たちと同年代の頃よりもいい働きをしているかもしれない。

 贔屓目なしでも、探索者としてなかなかのレベルにあると言ってもいいと思う。


 今が彼女たちにとって伸び盛りの時期なのだろう。

 可能な限り経験を積ませてあげたいが、肝心のダンジョンに入れないのだから仕方がない。


 だからこれはいい機会だと思うべきなのだ。


 探索者としての力量は着実に上がっている。

 次は探索者としての意識を高めるのがいいだろう。




「ちょっとみんなに会って貰いたい人がいるんだが」


 そう言って三人を連れ出した俺は北西地区へと向かっていた。


「ティア、ティア」


「なんですの?」


「この道、しってる」


「……ああ。そういえば」


「そうなのか?」


「え、ええ。そうでしたわ。この辺りにはちょとした知り合いが暮らしているんですの」


「そうか」


「ええと、今日はジニア様のお知り合いのお宅へお邪魔するのでしょうか?」


「実はそうなんだ。よくわかったな」


「あ、あはは。これは……そう。女のカンというやつですわ!」


 なぜだか引きつったような顔をしていた。




「ここだ」


 目的の家についてノックを三度する。


 扉を開けたストレリチアが俺の姿を見て喜色を浮かべた。


「ジニア! また来てくれたんだね!」


「ああ。約束しただろう」


「あれ? 後ろの人たちはもしかして……〈星を探す者スターシーカー〉の人たち!?」


「はじめまして。わたくしはフォーサイティア・アストライオスと申します。こちらはわたくしの妹のローゼルですわ」


 ティアの隣に立っていたローゼルがぺこりと頭を下げる。


「私はササンクア・インディゴと言います」


「ぼ、僕はストレリチア・リンデン! すごいや、本物の〈星を探す者スターシーカー〉だ!」


「フューシャはいるかい?」


「うん! ちょっと待ってて。ママー! ジニアたちが来てくれたよー!」


 玄関に俺たちを残してストレリチアが家の奥へと駆けていく。


「ジニアさん。説明をして貰ってもいいでしょうか」


「ああ、うん。そうだな。この家は俺が聖塔へ入った時のチーム、〈頂上へ挑む者トゥーザトップ〉のキャプテンの家族が暮らしているんだ」


 三人の顔になにやら察した様子が見えた。


「では先ほどの少年が息子さんなんですね」


「そうなる」


 ティアとローゼルは顔を見合わせている。


「ジニア。また来てくれて嬉しいわ。チームの方も一緒なんですって」


 ストレリチアに連れられたフューシャがやってくる。


「ああ。お邪魔してもいいかな」


「もちろんよ。さあ、入って。なにもないところだけど」


 リビングへ通されたところで三人を紹介し、持ってきた手土産を渡す。


「あら。そんなのいいのに」


「美味しいお茶だったから。君の口にも合ってくれるといいんだが」


「嬉しいわ。ちょっと待っていてね」


 フューシャが奥へと消える。


「シショー、あれは?」


「ローゼルがいつも飲んでるお茶だよ。ペチューニアに売っているお店を聞いて買ってきたんだ」


「ふーん」


「とてもお綺麗な方でしたわね」


「へへ。自慢のママなんだ!」


 ストレリチアが鼻の下を擦って、嬉しそうに笑っている。


「じゃあ、僕は上に行ってるから」


「いや、ストレリチアに話があって今日は来たんだ。だからここにいてくれ」


「そうなの?」


 落ち着かない様子のストレリチアはチラチラと俺たち――主に三人を見ている。


 しばらくするとお茶を淹れたフューシャが戻ってきた。


「またおもたせでごめんなさいね。せっかくジニアが美味しいって持ってきてくれたものだからご一緒にと思って」


 上品なカップに入った飴色のお茶からは馥郁たる香りが立ち上っている。

 口をつけたフューシャがふんわりと微笑んだ。


「ああ、美味しいわ。ジニアは昔から口に入れるものについてはうるさかったものね」


「そうか?」


「一度だけだったけど、ジニアが出してくれたお料理のことは忘れられないわ。だってどれもとっても美味しかったんだもの。あんなしっかり味付けされたお料理なんて食べたことがなかったわ」


「シショーのは、とってもおいしい。ローも、だいすき」


 自慢するかのようにローゼルが胸を張る。


「それで、今日はどんなご用事だったのかしら」


「一つは俺のチームメイトを紹介するためだ。もう一つは――」


 まるで借りてきた猫のようになっているストレリチアを見る。


「ストレリチアの素質を見るためさ」

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