第95話 英雄、三人娘を先生にする

「僕の素質って?」


「決まってるだろ。探索者としてやっていけるかどうかさ」


「……ホントに!?」


 ストレリチアが立ちあがる。


「じゃあ、僕をジニアのチームに入れてくれる!?」


「残念だがそれは無理だ。もう四人揃ってるからな」


「そっか。そうだよね。でも素質か……まだアームドコートの召喚もできないんだけど。そのやり方も教えてくれる?」


「ここに先輩が三人もいるんだ。大丈夫さ」


「三人って……」


「もしかして、わたくしたちのことでしょうか?」


「ローも?」


 困惑した表情で三人が俺を見ている。


「これまでやってきたことをストレリチアに教えてやってくれ」


「そうおっしゃりましても……」


「まずはそうだな。どうして探索者になろうと思ったのかを話してくれないか」


「うん。聞きたい!」


 目をキラキラさせながらストレリチアが三人を見つめている。

 双子のすがるような視線に耐えかねたのか、ササンクアが口を開いた。


「私は聖女として鏡会に招かれた時に聖なる塔のことをいろいろと教えてもらいました。その時に、一度でいいから行ってみたいと思ったのがきっかけだったと思います」


「わたくしとローゼルはおじい様の影響ですわ。ストレリチア様はわたくしたちのおじい様のことをご存じかしら?」


「もちろん知ってるよ! 『ダフォダルは如何にして聖塔で90日間を生き延びたのか』を書いた人でしょ。名前はたしか……ジェレイニアム・アストライオスだったかな?」


 ストレリチアの返事を聞いてティアが微笑む。


「その通りですわ。おじい様が見た塔をわたくしたちも見てみたいと思って探索者を志すようになったんですの」


「塔の星、みたいから」


「それって『塔の中には上り下りする星があった』って本に書いてあったやつのこと?」


「ストレリチア様はよくご存じですのね」


「この子はね、みなさん〈星を探す者スターシーカー〉のファンなのよ。生配信もよく見ているわ」


「ジニアは? ジニアはどうして探索者になったの?」


「俺は塔の頂上に行ってみたかったんだ。あの塔が世界を支えているっていうのなら、そこに世界ってものがあるはずだろう? それがなんなのかを知りたかったんだ」


「そういえばジニアさんが最初に塔に登ろうと思った理由を聞いたのは初めてかもしれません」


「そうだったか。まあ、今の目標は塔に残してた仲間たちに再会して戻ってくることだからな」


 話を聞いていたフューシャが透き通るような優しい顔で俺を見ていた。


「ストレリチアさんが探索者になりたい理由はなんですか?」


「僕はマミーみたいになりたいからだよ! それでできれば……僕がマミーを助けたいんだ……ねえ、ジニア。マミーはまだ生きてるよね!?」


「当然だ」


 自信をこめて頷く。


「塔に残った三人の力量は俺よりも上なんだ。生きていないはずがないだろう」


「シショーより、つよいの?」


「ああ」


「それはシクモア様ぐらいお強いということでしょうか?」


「アームドコートの相性もあるからなんとも言えないが、単純な殴り合いでライトアームド相手なら三人ともまず負けないだろうな」


 それだけ塔での経験っていうのは貴重で価値のあるものなのだ。

 探索能力だけでなく戦闘能力だって高めなければ生き残れない場所なのだから。


「ストレリチアには悪いが、塔に残った三人と一緒に戻るのは俺たちだぞ」


 ニヤリと笑いかけてやる。


「僕だって負けないさ! アームドコートの召喚をできるようになって、探索者として経験を積んで、大会で優勝して塔へ行くんだ!」


「よし。じゃあ、まずはそのアームドコートの召喚からだ。三人を先生だと思って教えてもらうんだぞ」


「お願いします!」


 ストレリチアが頭を下げる。

 彼の想いを知ったからだろうか、三人の表情はさっきまでとは違っていた。


「わかりました。私たちでよければ、できる限り協力させていただきます」


「ローも、おしえてあげる」


「こういうのも敵に塩を送るというのかしら。なんともジニア様らしいことだと思いますけれど」


 ティアは半分呆れるような、残りは喜んでいるような表情で俺を見ていた。


「わたくしたちのレッスンは厳しいですわよ? ついてこられるかしら」


「できるさ!」


「結構なお返事ですわ。とりあえず場所が必要ですわね。この辺りにあまり人が来ることのない広い場所はあるのかしら」


「僕がいつも特訓に使っている場所があるんだ。そこへ行こうよ!」


「わかりましたわ。案内してくださいませ。よろしいでしょうか、ジニア様」


「ああ。今の俺だとアームドコートの召喚は教えるのが難しいからな。三人に任せるよ。いいよな?」


 一応、フューシャに確認しておく。


「ええ。よろしくお願いします。みなさん」


「では早速向かいますわよ!」


「こっちだよ。ついてきて!」


 四人がリビングから駆けていくのを笑顔で見送った。

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