第56話 英雄、キャンプの準備をする
「幸先がいいな」
照明に浮かび上がるスクリーンを見て思わず顔がにやけてしまう。
大きさは10メートルを超えているから問題ない。
最初のポイントで手入できたのはラッキーだった。
「大きいですわね。こんなものが本当にストレージに収まるのかしら」
「問題ない。なにしろ俺のストレージは塔で見つけたものだからな」
手にしたスクリーンをストレージに放り込むと綺麗さっぱり収まった。
「シショー、すごい!」
「俺じゃなくて、俺の持ってるストレージがすごいんだ」
「ローも、ほしいな。ストレージ」
「次にストレージが見つかったらローゼルさんがもらってください。その方がきっとチームのためになりますからね」
「うん。ほかの、みつかったら、クアのだよ」
「ふふ。ありがとうございます。なにが見つかるか楽しみですね」
初日にして一つ目のスクリーンを入手できたのはついている。
今日はここまでの移動もあったので無理をせず、早めにキャンプを張るのがいいかもしれない。
「少し早いがキャンプができる場所へ移動しよう」
「それがよいかと思いますわ。やはり体の動きがぎこちなくて落ち着かないんですの。おじい様が『休みたい時に休むのではない。休める時に休むのだ』と書いていましたものね」
ブレスレットの地図をローゼルと共有する。
「一番近い場所だと……ここだな」
南東に200メートルほど移動した場所に印を入れる。
「ここなら水場も近くにあるし、魔物も出現しないはずだ」
スクリーン探索の拠点とするにはポイントから外れているが、そちらへの移動は明日以降でいいだろう。
「よし。移動をしよう」
部屋を出て少し進んだ通路でのことだった。
「待て」
停止の指示にみんなが足を止める。
同時に各自のフラッドライトの光量が落とされた。
一人だけ先行し、小さな鏡を手にして通路の角の先を確認する。
暗いがシルエットは確認できた。
高さ1メートルほどの円筒状ゴーレムだ。
数は一体。
目と思われる部分は見えないから背中をこちらに向けている。
どうやら先に気が付けたようだ。
「この先にゴーレムがいる」
報告に三人の表情が引き締まる。
「人型じゃなかった。通路を定期的に巡回するタイプのゴーレムだ」
あのタイプは一定の動きを忠実に守ろうとする。
出会いがしらでかち合ったのでなければ、静かに様子を見ているだけで戦闘を避けることが可能だ。
その旨を説明して息を入れる。
俺の様子を見て、三人も緊張を緩めたようだった。
ぼんやりとした暗闇に沈黙が落ちる。
音に敏感なタイプではないので会話ぐらいは問題ないのだが、近くに他のゴーレムがいる可能性を考えて口は閉じておく。
少し待って、もう一度通路の様子を確認する。
ゴーレムの姿は見えなくなっていた。
「よし。大丈夫だ。先へ進もう」
「ここが今日のキャンプ地だ」
そこそこ広さのある区画に到着した。
出入りできる場所は二カ所あり、さらにすぐ近くには飲料水にできる水場がある。
「はあああ……ここまでとても緊張しましたわ。道具類の消耗はありませんでしたが、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積していますわ」
「たしかにいつもより疲れましたね」
「ロー、ごはん、たべたい……」
そうして座り込む様子は初めてダンジョンに挑戦した時のようだった。
「食事は俺が用意するから、誰かその先にある水場から水を汲んできてくれないか」
「私が行ってきます」
「わたくしもお手伝いいたしますわ」
「ローは……」
二人を見上げてから俺を見る。
「シショーの、おてつだい」
ダンジョンでのキャンプも慣れたもので、自然とそれぞれの役割をこなせるようになっていた。
もっとも食事係だけはいつも同じなのだが。
「シショー、これ、つかって」
ローゼルが背嚢から出したグレーパックを差し出す。
「いいのか。大切にとっておいたんだろう」
チームでただ一人ストレージを持っていないローゼルは背嚢を背負っている。
軽くてあまりかさばらないとはいえ、グレーパックをそれに入れて持ち運んでいたのだ。
「うん。ここまできた、ごほーびに。みんなで、たべる」
「そうか。じゃあ、ありがたく頂戴しよう」
食事はレプリケーターですぐに用意できるが、火はそうもいかない。
落ちている石を集めてかまどを作る。
ローゼルが適当な大きさの石を拾い集めてくれたので、俺は火を起こす準備を進めた。
「ここの水はかなり綺麗なんですね」
「たくさん汲んできましたわ!」
「ああ、ありがとう。さて、今日の食事だが、なんとローゼルが秘蔵のグレーパックを提供してくれた。みんな、感謝するように」
「いいんですの?」
「うん。みんなで、たべよ」
「ありがとうございます」
レプリケーターからできた料理をみんなに配る。
「んー、いい香りですわ。今回のお料理はブイヤベースですのね。滋味が体の隅々まで行き渡るようですわ……」
「やっぱりジニアさんの料理はおいしいですね」
「俺が作っているわけじゃないけどな」
レプリケーターに材料を入れているだけだ。
なにができるかは使っている俺にだってわからない。
「はうー。やっぱり、おいしい」
最後に食器を回収してレプリケーターで魔核に戻しておいた。
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