第67話 英雄、打ち合せをすませる
崩れ落ちた壁によって塞がれた通路の状況を、慎重にタンジーが確認していた。
封鎖した通路から出て大広間に踏み込まなければならないが、瓦礫をどかすのにモタモタしていればゴーレムに気づかれ囲まれてしまう。
できれば一気に取り除いてしまいたいところだ。
「これをお前がやったのか」
「うん」
後ろにくっついているローゼルが頷く。
左右の壁に連続して拳を打ち込み、崩れ落ちた瓦礫で封鎖している。
身内贔屓ではないが、なかなかに上手いやり方だったと思う。
「ここに梁がある。だからこの通路は崩れにくい。短時間で封鎖しなければならない時は壁ではなく天井を崩した方がいい。もちろん自分が巻き込まれないようにする必要はあるがな」
「うん」
タンジーの指摘に素直に頷いている。
それどころか、メイン組になってからタンジーの後ろにずっとくっついている気がする。
「タンジーは、シショーの、デシ?」
「ししょー?」
ローゼルが俺を指差す。
「……そうだな。そう言えるかもしれん」
「ふーん」
ローゼルが小首をかしげる。
「つまり、シショーのデシで、ローの、センパイ」
「そうなるか」
「ふうん」
不思議なものを見るようにローゼルはタンジーを見上げている。
それから手を伸ばしてタンジーの服をぎゅっと握る。
「なんだ?」
「タンジーは、ローの、シハン」
「しはん? ああ、師範か。……そうなのか?」
「うん」
「そうか。じゃあ、ローゼルは師匠の言うことをしっかり聞くんだぞ。それが師範に教えられるただ一つのことだ」
「うんっ」
タンジーって女の子受けするタイプだったのか?
クソ真面目で口数も多い方ではないんだが。
「へえ、足元にまで装甲がついてるなんて珍しいね」
「そうなんですの?」
ニモフィラとティアは互いのアームドコートを見比べている。
二人ともライトアームドだが4級であるニモフィラの方がティアよりも装腕率は高い。
「少なくともわたしは見たことないな。ジニアはどう?」
「アームドコートは召喚者が必要としている形になると言われているから、ティアがそう望んでいたんじゃないかと思うんだが」
「装甲が足にあって邪魔じゃない?」
「むしろ足を捻ることがなくなりましたの。全力で走っている時に別のアクションをすると体のコントロールが難しくなりますよね。急に止まったり、方向を変えたりしますし。そんな時でもわたくしの体を適切に支えてくれているとでも言えばいいのでしょうか」
「あ、それは助かるよね。ライトアームドって飛んだり跳ねたりが多いから、足回りのダメージがバカにならないもん。そっか。いいなあ。わたしのもそういう変化してくれないかなあ」
メイン組である二人はこれから巨大ゴーレムを相手に立ち回る必要がある。
そのために互いの動きについて情報交換をしていた。
「じゃあ、ササンクア。ティアたちを頼んだ」
メイン組のサポート役となるササンクアに声をかける。
「わかりました。シールドが途中で切れてしまわないように注意します。作戦開始前にはジニアさんたちにもシールドを付与しますが、あまり無理はしないでくださいね」
「わかってる」
「わかっている男の顔には見えませんね」
手足の長いボールサムを縄で縛っているキャトリアが笑っていた。
「男を縄で縛りながら笑うとはなかなかいい趣味をしてるじゃないか」
「あら。それを命じたのはどこの誰だったかしら」
うん、俺だな。
ボールサムを背負う際に手足がブラブラしていると俺がバランスを崩しかねないので、なるべくコンパクトになるように縛ってもらったのだ。
正直、荷物以外の何物でもない。
「これでいいんじゃないかしら。あとはジニアの背中に括りつけるだけよ」
「わかった」
レプリケーターを使って運搬用の道具を生成してある。
これにボールサムを乗せて俺が背負うわけだ。
「よし。準備はできたな」
瓦礫の前に陣取ったタンジーが頷く。
「では、あとは作戦通りに。フェアリーアイ、生配信を始めてくれ」
かすかな羽ばたき音がするとフェアリーアイが浮遊する。
「〈
それからフェアリーアイにはタンジーたちメイン組の動きを追うように指示を出す。
すべての準備を終えて頷く。
腰を落としたタンジーが気合一閃。
「ふんっ」
巨大なヘビィアームドの拳が瓦礫を吹き飛ばした。
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