第三章 異国のチームと出会う
第71話 双子、英雄のあとをつける
1 双子、英雄のあとをつける
「ジニア様ってあまり私生活をお見せになりませんわよね」
「シショーは、いつも、いっしょだよ」
フォーサイティアの部屋にあるベッドは屋敷のものと比べるとかなり小さいが、それでも小柄な少女二人が寝そべるには十分な大きさがある。
その分、部屋に占める比率も高いので圧迫感があるのも事実なのだが。
「ローゼルは気になりませんの。ジニア様がどんな生活を送られているのか」
「んー、ローは、あんまり。ティアは、気になるの?」
「勿論ですわ! だってジニア様はわたくしたちのキャプテンなのですわよ。どんな場所がお好みなのか、どんな人とお知り合いなのか、どんなご趣味をお持ちなのか……気になることばかりですわ!」
「ふーん……」
いつものようにテンションが高い姉を見て、ローゼルは小首をかしげる。
「ティアは、シショーのこと、好き?」
「ええ。好きですわよ。ローゼルもでしょう?」
「うん。大好き。えへへ」
にっこりと微笑む妹を抱きしめる。
フワフワの金の髪からは陽だまりの匂いがした。
「そうですわ! せっかくの休暇なのですから、ジニア様がどのような生活をされているのか調べてみましょう」
現在、ダンジョンは封鎖されているので立ち入ることができない。
強くなった魔物が各所に出現しているのが確認されている。フォーサイティアたちも命からがら脱出してきたばかりだ。
ダンジョンにおける脅威度の調査をギルドが終えるまで〈
「どうするの?」
「ジニア様の後をつけるのですわ!」
「……おもしろそう」
「ええ、きっと面白いですわ!」
フォーサイティアは柔らかなベッドの上に立ち上がる。
「さあ、ジニア様追跡作戦を決行いたしますわよ!」
「おー!」
こうして双子の極秘作戦が開始された。
「シショー、どこへいくのかな?」
「しっ。見つからないように顔を引っ込めておきなさい」
雑踏を歩くジニアから少しだけ距離をとった二人は物陰に隠れている。
「昨夜は遅くまで飲んでいたようですわ。先ほどお会いしたジニア様からお酒のにおいがしていましたもの」
「うん。くさかった」
今のセリフをジニアが聞いたらショックを受けること間違いないだろう。
日が変わる頃に戻ってきたらしいジニアは、太陽が中天を過ぎた頃に起きだしてきて、身だしなみを整えると家を出て行った。
こんな時間からどこへ行くのか。
それを調べるのが今回のミッションである。
「この方向は……ギルドでしょうか」
「見て。だれかいる」
立ち止まったジニアは腰を曲げて何者かと話していた。
「少年のようですわね」
興奮しているのか、ぴょんぴょんと少年は飛び跳ねている。
最初は驚いたような顔をしていたジニアは、次第に優しい顔となり、最後は微笑んでいた。
それから少年の頭を撫でる。
「いいな。ローも、してほしい」
手を振った少年が雑踏に消えていく。
しかし残されたジニアの表情はこわばっているようだった。
「なにを話されていたのでしょうか」
距離が離れているし、人混みの中にあって会話を聞き取ることができなかった。
「シショー、いっちゃう」
「追いかけますわよ」
結局、ジニアはギルドに入っていった。
「探索者なのですからギルドへ来るのは当たり前ですわよね」
チームのキャプテンとして情報収集をしたり、交流をしているのだろう。
しばらく待っていたが、出てくる気配がなかったので今日の追跡はここまでにした。
翌日。
やはり太陽が天頂を過ぎた頃にジニアは部屋から出てきた。
リビングで会話をしているフリをしている双子はじっとジニアの様子を観察している。
「昨日も遅くまで飲んでいたようですわね」
「シショー、おさけくさい」
またもジニアが聞いたら立ち直れないかもしれないセリフをローゼルが口にしていた。
身支度を整えたジニアは家を出る。
「さあ。後をつけますわよ!」
ジニアは郊外へ向かっているようだった。
「昨日とは反対方向ですわね。つまり今日はギルドへ行く用事ではないということですわ」
「だれか、いる」
「隠れますわよ」
どうやら待ち合わせをしていたようだった。
相手は鏡会の制服を着た小太りの男性だ。
「見覚えのない方ですわね」
「ローも、しらない」
どうやら顔見知りのようだ。
二人は連れ立って軽食が楽しめる店へ入る。
「鏡会の方とジニア様にどんな関係が……」
「クアの知り合い、とか?」
「ああ、なるほど」
聖女であるササンクアは鏡会の人間だから、その関係者というのは考えられる。
結局、鏡会の男と会うだけでジニアは家へと戻った。
その日の夜。
ダンジョンが再開された後の予定がチームで話し合われた。
フォーサイティアのたっての希望で地下二層でしばらく過ごす計画が採用された。
長期滞在となれば相応の準備が必要である。
ジニアを説得し、翌日はチーム全員でショッピングとなった。
ショッピングを楽しんだ次の日。
前日によほど深酒をしない限り、ジニアは日が上がる頃には起きだしている。
今日は午前中のうちにジニアが家を出た。
「行きますわよ」
「うん」
今日は北西地区へ向かうようだった。
途中、手土産らしきものを購入し、住宅街にある家の前に立つ。
その前でしばらく逡巡したのち、ジニアはノックをした。
「お知り合いのお宅でしょうか」
中から出てきたのは少年だった。
「あの子、みたことある」
「ええ。この前、ジニア様と話していた方ですわね」
満面の笑みをたたえた少年はジニアの手を取って家へ招き入れる。
ジニアは恐縮しながらも後に続いた。
「あの少年はジニア様とお知り合いだったのかしら」
「だから、家へ、よんだ?」
ジニアは塔から戻った英雄だ。
長く探索者として活躍しており、知り合いも多いのだろう。
「そういえばこちらのお宅の雰囲気ですけれど、わたくしたちが暮らしているジニア様の家に雰囲気が似ていますわね」
エリアこそ違うが中心街から少し離れた静かな場所にあり、家族が暮らしていくには十分な広さがある。
しばらく待っているとジニアが出てきた。
その表情はどこか晴れ晴れしているようだった。
ドアの前で少年と話している。
少年はジニアをキラキラとした表情で見上げていた。
最後に少年の頭を撫でたジニアが家から立ち去る。
「どういう用事でこちらを訪れたのでしょうか」
「さあ」
結局、なにもわからずじまいだった。
その日の夜。
再びフォーサイティアの部屋のベッドで双子は横になっていた。
「ジニア様の後をつけてみましたけれど、なにもわかりませんでしたわね」
「シショーのこと、ぜんぜん、知らない。でも――」
ゴロンと転がってフォーサイティアの背中を枕替わりにする。
「シショーは、シショー。ずっといっしょ」
「……そうですわね」
きっと聞けばジニアは双子が知りたがっていることを教えてくれるだろう。
だが別にどうしても知りたいわけではない。
チームのキャプテンとして、一人の男性として信頼のおける人物。
それは変わらないのだから。
「明日からまたダンジョンへ潜るのですわ。ちゃんと準備はできているのでしょうね」
「うん。ちゃんと、ニアが、してくれた」
「少しは自分でやれるようにならなければいけませんわよ」
「んー、じゃあ、確認。いっしょにして?」
「仕方がありませんわね。背嚢を持っていらっしゃいな」
「うん!」
妹にお願いをされると弱いフォーサイティアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます