第5話 ルシアと冒険
街を追放されたルシアを仲間に加え、更なる食材の調達と素材収集を続けることにした。
「ツクルにーはんっ! 危ないどすえ~!」
チッ。
ルシアが放った魔術で作られた火炎の矢が耳の先を掠めて、目の前のウサギの魔物を焼き尽くしていた。
「ふぅ~~。危ないところどしたなぁ~。ウサちゃんも不意を打たれなければ案外どうもないですね……」
主にこっちの身が危ないとこどした。君の放った魔術が掠った揉み上げが少しだけ、焦げてしまっているのだ。
「あら、ツクルにーはん……大変、揉み上げが焦げてしもて……堪忍なぁ」
ルシアがチリチリになった揉み上げを指でなぞって謝罪してきた。
カワイイ、ルシアたんのためなら、揉み上げの一つや二つは焦げてもオールオッケー。ノープロブレムだ。カワイイは正義。
できることなら、謝罪の代わりにルシアたんの狐耳をモフりたいが、あまりやって逃げられでもしたら、立ち直れないほどのダメージを負いそうなので、頭をポンポンするだけに留めておいた。
「ルシアさんは意外と強いね。この角ウサギは序盤では結構強い敵なのだけど、一撃で燃やしちゃうなんて凄いよ」
「そないに褒められたら、照れてしまいます~。本当なら魔術の発動体である杖があれば、もっと威力を出せるんどすけどなぁ~。追放された時に財産と言える物は全部取り上げられてしもたんで」
「そうだ。どうせならルシアさんの杖も作っちゃいましょう。確か、もう少し奥の森に行けば【樫の古木】をドロップする敵がいたはず。俺とルシアさんなら余裕で退治できますよ」
「ホンマに? ホンマに【樫の杖】作れるの? 欲しいけど、ワガママ言ったらあかんし……」
「問題ないよ。食料と当座に必要な素材はだいぶ収集できたから、ルシアさんの杖を作ろうよ」
遠慮を見せるルシアの手を引き、目的の素材をドロップする【さまよう木】がいる霧の大森林へと歩き出していった。
◇
霧の大森林はその名の通り、常時霧に覆われた森林地帯で、通り抜けようとする者を間違った方向へ導き、森の中で遭難させて、木々の栄養にしているとゲームの設定集には書かれていた記憶がある。
確かにミルクのように濃密な霧が立ち込めており、隣にいるはずのルシアの顔さえも見えないほどであった。
意外と霧が濃いな。ゲームの時はそれほどまでに感じなかったが……。
濃い霧に包み込まれたことで、はぐれないようにとルシアが腕を絡ませてきていた。
「ツクルにーはん……何や霧が濃くてこわいトコどすなぁ……一人にされたらかなわんで腕を放さないでおくれやす。本当に一人にされたらかなわんわ~」
ルシアは霧に包まれたことで不安を感じており、腕を絡ませただけではなく、身体も密着させてきていた。
ポヨン、ポヨン。
歩く度にルシアの大きな胸の膨らみが、二の腕に至福の感触を伝えてきていた。
あぁ、生きててよかった。ルシアたん……サイコー……この感触があれば、あと十年は戦える。
「だ、大丈夫。ここも敵はそんなに強くないし、【樫の古木】を三つ手に入れたら俺の小屋に帰るとしようか」
「ツクルにーはんにお任せします。うちをこの森に置いていかいないでおくれやす」
ルシアは不安そうな声音で絡ませた腕にギュと力を込めていた。
カワイイ、今すぐに小屋にお持ち帰りして、ルシアたんの狐耳を猛烈にモフりたいっ! だが、お楽しみは取っておくべきものだ。クールになれ。焦れば、大魚を逃すことになる。クールに知的にルシアたんを攻略していくのだ。
「俺がルシアさんを置いていくわけがないでしょう。大丈夫、すぐに敵を退治してみせます……ブホッ!」
「きゃあっ!」
ルシアを励ましながら歩いていたら、突如として壁のような物にぶつかり、勢い余ってルシアともども、転倒してしまった。
ふにょん、ふにょん。
転倒したことで地面に身体をぶつけるかと思ったが、とても柔らかい物体が顔面を地面に強打する危機から救ってくれていた。心なしか、ドクドクと大きな鼓動が聞こえてもきている。
「ツクルにーはん!? そないトコに顔を置かれたら、うち恥ずかしくて死にそうになるんですけど~。早う、顔をどけてもらえまへんか!?」
ルシアの肌からは、晴れた日の日向のようないい匂いが発散していて、鼻孔から入った匂いが脳を揺さぶってくる。
あぁ……ずっと嗅いでいられるなぁ……なんでこんないい匂いがするんだろうな……
「ツクルにーはん! 敵どすえっ! しっかりしておくれやす」
「ご、ごめんっ! 悪気はないんだっ! 事故だよ、事故。敵の攻撃は俺が引き受けるから、ルシアさんは魔術で援護してくれると助かるよ」
ルシアのおっぱいに埋もれていた顔を名残惜しく引き出すと、目的の魔物であるさまよう木に向かって石の剣を引き抜き挑みかかっていく。
「外でこないなことは、したらあきまへんよ~。お部屋の中でなら考えへんこともあらしまへんやけど……せやかて、そないなことをしていいんのは、ツクルにーはんだけどすからね……」
最後方はゴニョゴニョして聞き取れなかったが、部屋の中でならおっぱいの匂いを嗅いでいいと知覚した脳が、一気にアドレナリンを放出して猛烈なやる気を発揮する。
「うぉぉおおおぉっ!! ファイトー―ー!! おっぱーーーいっ!!」
ズビシュッ!
さまよう木に当たった石の剣から、会心の一撃のような手ごたえが返ってくる。見事に身体を横に両断されたさまよう木が地面に二つ折れになって倒れると白煙が上がり、古臭いごつごつとした木材に早変わりした。
「ホンマにツクルにーはんは、本能に忠実な方どすなぁ……男の方だからしょうがあらしまへんけど……」
「ふぅうううううっ!!」
おっぱいのおかげにより、アドレナリンが放出されまくっていることで、猛烈なやる気に晒されていた。一体のさまよう木を倒したことで周りにいたさまよう木達が一斉に動き出してこちらに向かってきていた。
スビシュッ! ズビシュッ! ズビシュッ!
驚くべきアドレナリンパワーで三連続の会心の一撃が決まる。こちらに向ってきていたさまよう木達は、なすすべなく素材にされてしまっていた。
おっぱい、おっぱい、おっぱーーーーいっ!
「あら、このままやと、うちの出番はなさそう気がしますなぁ……魔力を温存できてうれしいどすけど」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……ざっとこんなものさっ! 大丈夫って言ったでしょ。さぁ、早く【樫の古木】を拾って……」
ドロップ品の【樫の古木】を拾おうとしたら、身体が光に包まれていた。
>LVアップしました。
LV1→2
攻撃力:12→16 防御力:11→15 魔力:5→7 素早さ:7→9 賢さ:8→10
レベルアップしたことで、また新たなレシピが解放されていった。
「おめでとうさん。ツクルにーはんがレベルアップしたんで、今日はお祝いせんとあかんどすなぁ~。そないや、今日だけ特別に一緒に添い寝してあげましょうか~?」
唐突なルシアの申し出に、アドレナリン中毒になりかけていた脳がパニックを起こす。
ふぁっ!? そ、添い寝!? ど、どどどうしようっ! 心の準備がぁ!
ルシアの発言により一気に挙動不審者になった。完全に動揺を表に出してしまっている。
慌てるな、俺! 冷静に! クールな大人の対応をするんだ。『フッ、ルシアさんにはまだちょっと早いよ』と気障なセリフで軽く受け流すのが大人の男。
「ぜ、是非、ど、どど同衾していただけるとありがたしっ!」
口が脳からの指令に反逆した。しかも、ドモったうえに、なぜか武士言葉という醜態つきだ。
ルシアも冗談で言ったようで、こちらが本気に取るとは思っていなかったようだ。おかげで二人して顔を真っ赤にして硬直している。
先に硬直を解いたのはルシアの方で、耳元に近づくと囁くような声でいった。
「ツクルにーはん……うちと同衾するのは、もう少しお互いを知ってからにしましょう。ウチもツクルにーはんのことは、嫌いやありません。もう少しだけ時間をおくれやす……」
ルシアのかわいいお願いで頭のネジが吹き飛び、煙が噴き出してオーバーヒートしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます