第119話 天井の刺客


 二度の罠を潜り抜けてダンジョンの奥に進むと、小部屋に設置されていた宝箱から新たな【転移石】を発見したり、レアな素材を幾つか発見した。やはり、ダンジョンは通常の宝箱よりもいい物がしまい込まれているようで、屋敷のパワーアップに必要な物も何個が作れるようになれる目算が立った。


「それにしてもツクル様、カビの匂いが強すぎておいらの鼻が使えないんだわ。魔物の匂いを追えないんで、みんなで固まってた方がいいと思うわ」


 ハチが鼻を前足で盛んに掻いているが、俺の鼻にもカビ独特の匂いが届いていた。すでに、ダンジョンの深部に入ってきているが、黒い壁が途切れ天然の岩を繰り抜いたような壁と床に変わっており、歩く度に地面に生えた草のような物から胞子が吐き出されていた。今のところは誰にも影響は出ていないが、有毒性のあるカビの胞子だと危ないので、手早く移動していくことにした。


「オッケー。固まっていこう。あんまり長居するのも余り身体には良くなさそうな気もするからね」


 小部屋の探索を終えると元の通路に戻り、かび臭い中を奥に進んでいく。やがて、天井が低くなってきて、ピヨちゃんに乗って移動していたルシアも降りて歩くことになった。


「ちょっと狭くなってきましたね。このまま、行き止まりということはないんやろか?」


 ルシアが心配そうに通路の奥を見ているが、特にまだ先が行き止まりになっているということは無さそうであった。しかし、しばらく歩くと魔術の光が通路の先が無くなっていることを照らし出してきた。


「行き止まりか? それらしい道は無かったけどなぁ……」


 天井からは湿気のせいかピチョン、ピチョンと滴が垂れて装備を濡らしていた。ハチと一緒に行き止まりの壁を調べてみるが、どこにも壁を動かすような装置もなければ、横道の痕跡も見当たらなかった。全員の視線が壁の方に注がれていた時に、ソレは予想もしない場所から落ちてきた。ドチャリという音と共に天井からルシアの身体に目がけて粘度の高い液体が降り注いだかと思うとジュウジュウと焼け焦げた匂いが充満していく。


「ひゃあぁあ!? ツクルにーはん!! この魔物、鎧だけ溶かしてくるんです。ああ、うちの真銀の胸当てがぁ!」


 天井から降りてきた未確認粘液生物がルシアの胸元を押さえ込んでいた真銀製の胸当てを徐々に溶かしているのが目に飛び込む。むむ、けしからんっ! けしからん不埒な魔物め! いいぞ、もっとやれ。おっと違った。このままだとルシアが危ない。(主におっぱいが)


「待ってて、今引き剥がすから」


 オレはルシアの胸にまとわりつく粘液生物を引き剥がそうと引っ張るが、ぬめぬめとして滑り引き剥がせないでいると、ルシアの胸を守っていた胸当てが跡形もなく溶けてなくなった。そして、オレの眼がルシアのおっぱいに釘付けになるとルシアの背後からピヨちゃんが目を光らせて、オレの記憶を飛ばしに来たところで意識が途絶えた。


 

 目が覚めた。先ほど溺れかけた時のように再びルシアが膝枕してくれていたようで、頭の後ろは柔らかな感触に包み込まれている。


「ツクルにーはん、眼が覚めたみたいやわ」

「ああ、さっきの魔物はどうなった?」

「ああ、あの魔ものでしたら、ピヨちゃんがくちばしで咥えて地面に叩きつけて成敗してくれました。なんだかとっても怒ってたみたいですわぁ。うちも胸当て溶かされてしもたし」


 荷物の中にあったと思われるタオルを胸元に巻いた格好であったが、膝枕から見上げるとそれはそれで乙な恰好をしていた。だが、これをピヨちゃんに察知されると今度こそ確実に葬られてゲームオーバーをしてしまいかねないので、そっと視線を外してインベントリから予備の胸当てを差し出した。


「代わりにこれ装備しておいて。それにしても、天井からあんなのが降ってくるとは……ハチの鼻が利かないのは痛いな」


 ルシアに膝枕された格好のまま、周りを見渡すと行き止まりだった壁が綺麗に消えて奥に続く広間がチラリと見えた。


「あれ? 通路が開いた?」

「さっきの粘液生物が開閉装置みたいだったニャ。金属装備を喰わせるとこの扉が開く仕様になっていた見たいニャ。それにしてもイヤラシイ開閉装置ニャ。あの魔王の考えそうなことニャ。ワシのイルファがそんな辱めにあったらギタギタにしてやるニャ」


 タマが一人でいきり立っているが、イルファのおっぱいに陣取っている時点であまり説得力がないように思える。だが、それにしてもこれまではとは違い、色々とあの手この手で戦力ダウンを図るダンジョンの罠が仕掛けられていた。下手をしたら、ここまでに三名ほど脱落していた可能性もある。


 そう思うと迷宮の最深部であると思われる広間で待つダンジョンマスターがどんな奴か、ルシアの膝枕の上で小一時間は考え込みたいと思った。だが、風紀委員長の視線が厳しいので諦めて立ち上がると、もう一度皆で装備の確認をし合うことにした。

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