第118話 溺死
意地の悪いトラップを何とか潜り抜けると、ホッとする間もなく、お出迎えの魔物が現れた。精霊を模した言われるウンディーネとウォータースライムの集団がこちらに向けて集まってきていた。
「ツクル様! おいらが先に行って牽制しておきます」
「おう、ハチ。任せるぞウォータースライムだけには取り込まれるなよ。取り込まれると溺死する可能性があるからな」
「わかっとりますわ。あいつらには触れさせませんよ」
ハチが駆け出していくと、続いてイルファとタマも装備を整え直してあとに続く。
「ワシ達がハチの援護をするからニャ」
イルファも槍を取り出して凶暴な笑みを浮かべると、ハチが攻撃して乱したウンディーネの中に槍を持って踊り込む。ウンディーネ達は口を膨らますと勢いよく水弾を吐き出して、イルファの周りに水柱をあげていた。
「アタシがその程度で当てられるか!」
「ワシが援護してやるから構わず突っ込めニャ」
「了解ばい」
自身に目がけて飛んできた水弾を槍で打ち払うと、タマが火球をウンディーネの集団に向けて撃ち出す。着弾した爆風で地面を浸していた水が蒸発し通路内には水蒸気が立ち込めてきた。視界が悪くなったことで、敵の動きが見えづらくなり、先行したハチとイルファ達の姿が見えなくなった。
「ツクルにーはん、これじゃあ、援護できませんよ」
「あ、ああ! もう少し前に近づくことにしようか。この距離じゃ二人の姿が見えない」
「そうですね。私が先頭で近づきます。ツクル様とルシア様はうしろから付いて来てください」
ルリが列の先頭に出ると、水蒸気が立ち込める通路内をハチ達の方へ向けてゆっくりと近づいていく。タマの放った火球によって発生した水蒸気は少しずつ晴れて、前線で戦う二人の姿がボンヤリと見えるようになった時、ソレは俺に飛び込んできた。通路の水に擬態していたウォータースライムは突如、足元から俺の身体を這い上がると全身を包み込んでいき、身体の動きを封じてきた。なんとか引き剥がそうともがいたが、抵抗虚しくウォータースライムの発生さえた液体が俺の口内を占拠して酸素を奪い取っていった。
「ツクルにーはん!? ルリちゃん! ツクルにーはんが!」
「ツクル様!? ウォータースライムに取り込まれている。で、でも凍らせるとマズいですよね」
ルリが俺の身体にまとわりついたウォータースライムを凍らせることを逡巡している間にも、ドンドンと液体が口内に流し込まれていき、体内の酸素濃度が急低下していく。俺は必至でルシアに対して俺ごと火柱で燃やしてくれるようにジェスチャーを送っていく。
「ツクルにーはん!? ど、どうされるんですか!? 『お、俺を燃やせ』って、そんなのできるわけないでしょう」
ジェスチャーを読み取ったルシアが明らかに動揺した顔でこちらを見ているが、いいかげん俺の酸素残量も残り少なくなってきており、このままでは溺死させられてしまうのでルシアに対して手を合わせてお願いをした。
「ルシア様、このままだとツクル様が溺死しちゃいますよっ!」
「で、でも。ツクルにーはんが怪我したら……」
「その前に死んでしまいますよ。怪我ならタマちゃんが直せますし、回復薬もあるんで、さっさと燃やしてあげて下さい」
ルシアを背中に回ったルリが急かすように背中を押している。意を決したルシアが火柱の魔術の詠唱を始めてくれた所で俺の意識が遠のいていった。
「……にーはん……にーはん」
「ルシア様、これは人工呼吸をしないとマズいのでは」
「ひゃあ!? うちがツクルにーはんとするんですか!? そ、そんな心の準備が……」
意識が戻ったが、眼は閉じたままで事の成り行きを見守っている。何だか、このままいくとルシアに人工呼吸のチューをして貰えるような気がして眼を閉じたままで事の成り行きを見守っていた。だが、そんな俺の邪まな思惑は鳩尾に発生した痛烈な打撃によって粉砕されることとなった。
「ぐへえええぇえ、ゴフッ、ゴフ」
目を開けると、ピヨちゃんのくちばしが俺の鳩尾に目がけて勢いよく振り下ろされる間際だった。思わず落ちてきたくちばしを両手で支えて鳩尾への急襲を防ぐ。
「あぶ、あぶないからっ! ピヨちゃん、俺は大丈夫だって」
心配そうに俺を見つめていたピヨちゃんであったが、どうやら心臓マッサージを施そうとしてくれていたらしい。だが、あの威力で心臓マッサージをされてしまうと、そのままあの世に逝ってしまいかねないのである。
「ツクルにーはんっ! 良かった! 間に合わなかったと思ったんですよ。痛い所はありませんか?」
目が赤く腫れていていたルシアが心配そうに顔を覗き込んでくる。俺にまとわりついていたウォータースライムは討伐され、ハチやイルファ達も魔物の討伐を終えて戻ってきていた。
「ああ、ピヨちゃんにド突かれた鳩尾が痛いだけであとはどうってことはないよ。あそこでウォータースライムに急襲されるとは油断したね。レベル的には一蹴できる相手だったけど、油断を突かれるとこういった事態に陥るいやらしいダンジョンだというのがよく理解できた」
「すまんニャ。ワシが火球で視界を奪ったのが悪かったニャ。反省」
タマはイルファの胸の中で小さく縮こまっていた。
「タマ君にはお風呂でイルファに辱められる形に処す。このダンジョンから帰ったら、即実行だからね。覚えておくように」
「はっ! なんでニャ! ちゃんと反省しているニャ! それだけは勘弁してくれニャ!」
刑の宣告をしたタマがアワアワと慌てているが背後のイルファは涎を垂らさんが如くしまらない笑顔を浮かべているのであった。それにしても、このダンジョンは今までのダンジョンよりもいやらしいトラップや敵が多い。この分だとボスも一癖ある奴が配置されているに違いない。あんまり、油断していると思わぬところで足元をすくわれかねないようだ。
二度に渡る危険をなんとかくぐり抜けて、俺達はダンジョンの深部に向けてさらに歩を進めていくことにした。
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