第117話 大冒険


 翌日、改めて第三の修練のダンジョンの前に集合し、装備の確認を行っている。皆一様に緊張した顔をしていた。二度のダンジョンはともに命に関わりかねない敵や罠が多数仕掛けられた意地が悪い仕様のダンジョンであったため、油断をすれば死が待ち受けているのだ。


「ツクルにーはん、修練のダンジョンは何があるか分からないから、気を付けていきましょうなぁ」

「ああ、ルシアも気を付けてくれよ。ハチ。先導を頼むぞ。お前の鼻が頼りだからな。魔物の匂いがしたら直ぐに教えてくれ」

「わかっとりゃーす。危険を感知しても教えますし、魔物の匂いは逃しませんわ」


 ハチもやる気を漲らせていた。ハチの鼻は幾多の魔物を見つけ出して俺達の危険を回避に役立ってきていたので、今回も期待をしている。俺は中州の中に設置された修練のダンジョンの入り口に入る決意をした。


「よし、行くよ」


 俺は入り口であるダンジョンの扉を開くと、地下へ続く階段を皆と一緒に降りていった。



 ダンジョンの中は今までと同じように黒い岩を削り出して作られており、さきほどまでいた中洲の地下とは違う空間に繋がっているようで湿り気は全く感じられなかった。もちろん、俺達が入った所で入り口のドアは閉まり転移ゲートの使用は不可能になっている。


 今までなら、すぐに魔物のお出迎えがあったのだが今回はそれらしきお迎えをハチの鼻も探知していなかった。


「ツクル様、今までとはちょっと違うみたいですね。ハチちゃんの鼻も魔物の存在を感じられないみたいですから」


 ルリが真っすぐと続くダンジョンの奥の通路を見ながら首を傾げている。通路自体は魔術の光でぼんやりと映し出されてるため、松明や光源を持つ必要はなかった。通路の中をハチが先頭に立ってゆっくりと周囲に注意しながら通路を進んでいく。魔物や罠の気配は全く感じられなかった。


「ツクル様、何だか水の匂いがするんだけど……上にある川の水の匂いかな?」

「ん? 水の匂いがするだって。ここは別空間になっているはずだけどなぁ……」


 ハチの指摘に疑問符が浮かんだが、その時にはすでに手遅れであった。入り口の方から大量の水が流れ込み、通路の上を水で濡らし始めていた。


「ツクルにーはん!? 水が流れ出してきてますよっ!」

「おわっ! マジか! 入り口はもう出られないから、先に行くしかない! ハチっ! 先導してくれ! みんな突っ走るぞ!」


 足元に流れ出してきた水を視認すると、俺達は通路の先に向って走り出していく。背後からは水量を増した水がドンドンと流れ込んできており、一生懸命に走っているが水のスピードの方が速かった。


「俺等を確実に殺すつもりか! クッソっ! お出迎えがなかったのはこのためかよ!」


 足元で水量を増す水に足を取られて、移動の速度が極端に低下していく。そして、向かっている先の通路の天井から俺達を締め出そうとする扉が徐々に降り始めていた。


「おい! ツクル! 天井が降りてきているニャ! 閉じ込められたら溺死するニャ!」


 イルファの胸元で騒ぐタマが指摘したとおり天井から降りて来ているため、このまま閉じ込められてしまえば、俺達全員が溺死するという最悪のパターンが訪れてしまう。


「分かっている。みんな、急げ!! ルシア、ピヨちゃん。先に行って!」

「ツクルにーはん!!」


 ルシアが戸惑いの顔を見せるが、ピヨちゃんのお尻を叩いて先に行かせた。扉はすでに半分ほど降りてきており、迷いを生じれば締め出されてしまう可能性があった。ハチが素早く扉をくぐり抜けると続いてイルファ、ルリ、ピヨちゃん、ルシアもギリギリとで潜り抜けていった。残されたのは俺だけであったが、すでに水量が腰を越えており極端に移動速度が落ちて間に合いそうになかった。


「ツクル様、予備の鋼の剣ばアタシに投げ渡してくれんか!」


 イルファが急に剣を寄越せと言ったので、走りながらインベントリにしまってあった鋼を剣を取り出すと、イルファに向けて投げ渡した。すると、受け取ったイルファが腰の部分まで降りていた扉につっかえ棒のように差し込んでいく。ギギギという音により扉の降下が止まる。だが、閉まろうとする圧力は鋼の剣の強度以上に思える。


「ツクルにーはん! 早くこちらへ来てくださいっ! 早く!」


 ルシアも心配そうに俺を見ているが、イルファが差し込んでくれた鋼の剣のおかげでギリギリ間に合いそうであった。半ば溺れるように腰下まで溜まった水を掻き分け、扉に到達すると大きく息を吸って、水没した隙間を潜り抜けた。その瞬間、耐えに耐えていた鋼の剣が扉の圧力に負けて、ぐにゃりと折れるとドスンと扉がしまっていた。


「あぶねぇえ! 間一髪! イルファ助かったよ」

「にーはんっ! ウチだけ生き残ってもしょうもないっていつも言っているやないですか! ばか、ばか! ツクルにーはんのいけず~!」


 ルシアが俺に飛び込んできて頭を抱えて泣いていた。一歩間違えれば閉じ込められて溺死する寸前であったが、今はルシアに抱きかかえられてホッと安堵できていた。まったく、クソ魔王はえげつない罠を仕掛けやがる。やっぱり、一瞬でも気を抜けば命を奪われるダンジョンであると再確認されていった。何とかトラップを潜り抜けたが初っ端からひやひやとさせてくれる場所である。


「ごめん。ルシアだけは絶対に生きて逃がそうと思って……次からはちゃんと俺も生き残るようにするよ」


 何とかルシアを宥めたことでダンジョンの探索を進めていくことにした。

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