第116話 第三の修練のダンジョン発見


 おやつを終えると、近くにあると思われる修練のダンジョンの入り口を示す祠を皆で探し始める。コンパスは赤色で点滅し川の方を指し示しているがそれらしき祠は見つけられなかった。


「ツクル様、おいらが思うにあの中洲に祠があるんじゃないですかねー。こっち側にはありそうな場所を探し尽くしていますがね。おいらがひと泳ぎして川を渡って見てきますわ」


 そう言ったハチが勢いよく駆け出して行き、水量の多い川の中に飛び込み水面から顔を出してスイスイと犬かきを披露していく。


「ハチは意外と水泳が上手いなぁ。結構な流れの速さがあるから流されないようにするのも大変だと思うが」

「ハチちゃんは村にいた時から泳ぐのは得意でしたよ。最近はダイエットのために、たまに水堀で泳いでますし」


 ルリが泳いで中洲へ渡っているハチの姿を見てポツリと呟いていた。ぽっちゃりヘルハウンドになりつつあるハチが陰でコッソリと水堀で水泳をしてダイエットに励んでいたと聞かされると、自分のお腹の肉を確認するように摘まんだ。


「むむ、俺も水泳を始めるべきか……」

「ツクルにーはんが水泳されるなら、うちも一緒にしましょうかね。お屋敷にプールとかあるとみんなで遊べてよろしいですなぁ」


 ファッーーーーー!! そ、そんな水着でイチャイチャできるプールを作ったら、毎日通って泳いでしまいますがよろしいでござろうか!


 これは、早急にプールの建設工事を開始せねば。そう、みんなで使う公共施設とすれば俺の目論見も見破られる訳ではないはずだ。


「んんっ!! そういうことなら、住民の健康促進のためにプール施設を作ることにしよう。それがいい、誰でも自由に使えるようにしておくことにしておくよ」


 不意に背後に殺気を感じた。振り返るとピヨちゃんが俺を疑惑の眼差しで見つめている。そんな、俺はみんなの為を思ってプールを作ろうと純粋に思っているだけなんだぞ。そんな目で見ないでくれ。


ピヨ……ピピピ。


「あら、ピヨちゃんもツクルにーはんが作るプールで泳ぐ?」


 風紀委員長の疑惑の視線曝されて冷や汗を流していた俺を救ったのは、ルシアたんの一声だった。ルシアにピヨちゃんも一緒に入ると聞いてくれたおかげで、たちどころに疑惑の視線は消え、むしろ喜んでいる様子が見て取れた。


 一緒に入りたかったのか、それならそうと言ってくれれば、余計な冷や汗をかかずにすんだのに。このツンデレめ。だが、これで最大の難関である風紀委員長の許諾を得たはずなので、色々と終わった後はプール建設に邁進することにしよう。完成したらルシアたんと……。


 俺の頭の中がルシアとのプールでイチャイチャに支配されていたころ、中洲にたどり着いたハチが背丈の高い草に覆われた中に消えていった。そして、しばらくすると出てきた。


「ツクル様ー!! この奥にあったがやーーー!! 次の修練のダンジョンの入り口はここにある!!」


 第三の修練のダンジョンは川の中州に隠れるように設置されていたようだ。つまり、みんなで濡れながら中洲まで渡らないといけないことが判明した瞬間であった。


「ありゃーー。これはみんな濡れるね。仕方ない行くか……」

「ワシは濡れるのは勘弁して欲しニャ」

「タマちゃんはアタシば胸に隠れて」


 ルシアはピヨちゃんに跨り、俺はイワン、タマとイルファも乗馬に跨り、ルリを先頭にゆっくりと川を渡っていく。さすがに水深は深く、ピヨちゃんや馬たちもギリギリ足が届くくらいで、顔を上に向かせて何とか呼吸をさせていた。


「ギリギリだな。マジで危ないかも」

「ツクルにーはん危ないっ!!」


 急に後ろをついて来ていたルシアが警告を発すると、川上から流木が流れてきていた。咄嗟に避けようとイワンの手綱を引くが、溺れそうなイワンが嫌がり流木の流れてくる方へ歩みを進めていく。


「イワーーン!! ストップ!! このままだと俺等二人が流木にぶつかって流されるって!!」


 尚も強く手綱を引いたが早く岸に上りたいイワンを制止することはできずにいた。そうこうしている内に目の前に迫った流木が回避できない位置にまで来ていた。思わず持っていた盾で身を守ろうとした瞬間、目の前にタマが放った火球が着弾し、流木を吹き飛ばすと派手な水しぶきを上げていた。


「た、助かったぞ。だが、全身が濡れ鼠のようにビショビショだけどね」

「文句を言うニャ。あのまま、流木と一緒に流されて水死体になりたかったのかニャ? 鎧は水に沈むニャ」

「……ごもっともです。本当にありがとうございました」


 タマの言う通り、この深さで水に転落すると下手したら体勢を直せずに溺れ死ぬ可能性もあった。そういったことを考えれば感謝をしておかねばなるまい。危なく水死体になる危機を脱した俺達は中州にたどり着いた。そして、ハチの先導で中洲の奥にある修練のダンジョンの入り口を示す祠に示されたレベル表記を確認した。推奨レベルは二〇~二五レベルと表記されているが、百獣平原でバリバリと魔物を狩り尽した俺達は平均で四〇レベル近くまで上昇していたことと、クリエイト商会の販路拡大によって手に入れられる素材が増えたことで装備も一段と強固なものに変わっていた。


 このまま、修練のダンジョンに突入しても良かったが、さっき全身に水を被ったことと、日暮れが近づいていたので、転移ゲートが壊されないようにしっかりも囲っておき、屋敷に一旦戻ることにした。

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