第93話 制服の有用性


 クライットの口利きもあり、領主ハクライとの面会は滞りなく進み、多少の袖の下を渡すことになったが、フェンチネルでのクリエイト商会の営業許可を貰うことができた。家人を務めているといったクライットは、ハクライからの信頼は絶大であり、今回は新たな交易路の開拓の予備調査としてラストサン砦方面の村々を回っていたらしい。そこで、魔王軍の略奪に巻き込まれる形で行き倒れていたのを俺が救ったことをいたく感謝してくれたようだ。


 さらに、クライットは街の有力者とも交際しており、交易都市であるフェンチネルの一等地に近い場所に格安の賃料で元食堂兼酒場だった物件をすぐに見つけてくれていた。本人は命を救われたことをとても感謝しており、これだけのことをしてくれてもまだ物足りないようで、困ったことがあればいつでも声を掛けて欲しいと言ってきていた。彼が見つけて来てくれた物件はこじんまりとしていながらも、大き目の地下食糧庫や調理場スペース、二〇人ほどの客席を備えた食堂に、一〇席程度のバーカウンターが併設されていた。


「ツクルにーはん……うちがこっちの食堂スペースで飲食店やってもええですやろか? これだけ、立派な立地やったら、繁盛店になると思うんだけどなぁ~」


 クライットの紹介で借り受けた物件の食堂を見てルシアの中に流れる料理人の血が騒いでいるらしく、非常にやる気を見せていた。確かに昨今充実しつつある食材をルシアが本気で調理すれば、この界隈の飲食店に壊滅的なダメージを与えられることになると思われた。癖になる料理の中毒者を拡散することになるかもしれないが、城門前でたむろっていた難民のうち伝手がない者はすでに我が家にご招待しており、その彼らの仕事場としてルシアの食堂を手伝わせてみるのもいいかなと思っていた。


「ルシアがやりたいなら、飲食店をやってもいいけどさ。ルシアはレシピと味のチェックだけにしておいてくれよ。この前、お迎えした人達の中に本職の『料理人』の人がいたから、彼に調理は担当させるからね。補助で何名か食堂スタッフをしてもらうし、ルシアは表に出ちゃダメだからね。俺達はいつ命を狙われてもおかしくないからさ」

「にーはん……分かってます。うちは店のメニューの開発をできれば満足です。でも、ちょっとだけ、ウェイトレスとかしてお客さんの反応とか見たいかな……」


 ……ルシアたんのウェイトレス姿だと……ハッ! しまった! そんな嬉し恥ずかしイベントを危うくスルーするところだった! これはマズい! 早急に店の制服を仕立てさせなければっ! 某ファミレス系の制服をルシアたんに着てもらうチャンスではないかっ!


 ルシアのウェイトレス発言により、俺の中ではミニスカートで胸を強調するデザインの某ファミレスの制服が脳裏をよぎっていく。フェンチネルは交易都市であるため、染料なども入手できると思われ、難民の中にいた『裁縫士』に自家製の制服を作ってもらおうと決意した。


「あー、ルシア君。なら飲食店の制服のモデルになってもらいたいのだが、よろしいだろうか?」

「飲食店の制服ですか? 別にええですけど……エプロン付ければええんちゃいます?」


 ルシアの中では普通の服の上にエプロンを着用すればいいと思っているようだが、それは違うのだっ! 制服は清潔を保つためにあり、飲食物を扱う店にとっては生命線なのである。よって、屈むとちょっとお尻が見えちゃったりとか、胸が強調されすぎちゃったりとかするかもしれないが、それは清潔を保つための犠牲なのだ!


 俺がルシアたんの制服姿を妄想していると、視線に曝されていることに気付いた彼女は顔を赤らめていた。その姿に、ハッと気付いたことがあった。


 ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! ルシアたんの制服姿を一般公開してしまうことになるではないかっ!! いかん、いかんよ。これは非常にマズい案件だっ! こんな子を世間が知れば偶像崇拝アイドル化案件確実ですよっ!


 ルシアの制服姿を見たい心と、その姿を公衆の面前に晒したくなく気持ちがせめぎ合って悶絶していたが、やがて制服姿を見たい心の方が勝っていた。


「ルシア、制服は必要なのだよ。クリエイト商会の運営する飲食店には制服が必要なのだよっ!」

「そ、そうですか。ツクルにーはんがそう言わはるなら、必要なんでしょうな」


 とりあえず、飲食店は制服を採用することにしたが、どうせなら商談スペースに改装するつもりのバーカウンターに配置する受付嬢も制服を統一してしまおうか。海千山千の商人たちが女性の制服程度で財布の口が緩くなるとは思えないが、ルシアの料理を用いての会談なら色々とレアな素材の調達や不要物資の売却に色を付けてくれるかもしれない。


 そういったことを期待しておくことにした。


 店の改装とクリエイト商会としての看板を付け終えると地下の食糧庫の一部を改造して屋敷に通じる常設の転移ゲートを設置していく。これにより、俺は交易都市フェンチネルにクリエイト商会の支店と飲食店をもつことになった。


 数日後には、制服も仕上がり、オレンジと白の胸を強調したエプロンドレス型ミニスカートの制服を着たルシアを見た瞬間、迸る激情を抑えられずに、朝から長めのモフモフタイムを取ったり、癒しの耳かきイチャイチャタイムをとっていた。ルシアも恥ずかしがりながらも意外と制服を気に入ってくれたようであった。けれど、このお姿を一般公開するのは刺激が強すぎると思われたので、俺が楽しむだけとしておき、店に出る時はオーナー夫人としてお淑やかなドレスを着用してもらうことにしておいた。


 ルシアのレシピを忠実に再現した食堂は、俺のデザインした制服による女性店員の接客とルシアのプロデュースした料理が大当たりして、昼時には行列のできる繁盛店にまでなっていた。接客の女の子目当ての男性が多いかと思ったが、朝早い時間から営業しているため、むしろ料理の味に虜になった歓楽街で働く女性のお客が多くを占めることになっていた。


 ルシアの料理は中毒性があるからなぁ。それにしても、凄まじい威力だ。数日で繁盛店になるとは思ってなかったな。


 こうして、クリエイト商会は美味しくて、綺麗な娘が接客してくれる飯屋としての認知度がフェンチネルに広まっていくことになった。一方で当初の目的だった交易都市での素材の調達はクライットの顔の広さに助けられ、新興商会としては破格の扱いを受けて、フェンチネルに支店を置く、色々な商会と面識を持つことができて、探しているレア素材の供給先も見つかることになりそうだった。

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