第45話 火山地帯
東に一時間程度歩くと、遠くに溶岩と噴煙が怒涛のように天高く噴き上げる標高の高い火山が見えてきて、麓まで赤い筋が流れ出て近く湖に流れ込んでいた。
「火山性ガスが出ているから、白い噴煙が出ている所にはあまり近づかないようにね。下手すると意識喪失して死んじゃうから」
ハチとルリは鼻が利きすぎるので、火山性ガスに顔を背けていた。火山はまだだいぶ先だがこの辺りの地下にもマグマが通っているようで、剥き出しの岩場から白い煙が噴出している箇所が幾つもあった。
「ツクル様、ここの匂いは凄い匂いですぎゃー。たまらのう臭い。魔物の匂いがのうなってまうわ」
「ハチちゃんの言う通り凄い場所どすなぁ。火山地帯があるとは聞いた事がおましたが、ここまで凄いとは」
ルシアもピヨちゃんに騎乗したまま、遠くに見える火山を見ていた。とりあえず、火山性ガスの噴出口付近で結晶化している【硫黄】を叩いて素材化させた。【硫黄】は【黒色火薬】の原料や【マッチ】の原料等、いろいろな用途に利用できる素材なので多めに採取しておくことにする。
その後、近くを捜索すると、溶岩が冷えて固まった【安山岩】も露出していたのを見つけたので、防壁の外装飾りに使う石材として採取しておくことにした。採掘を終えると、更に奥に進んでいく。溶岩が通った跡と思える苔が生えた岩場にたどり着くと、身体に苔を生やした苔猪豚が餌となる苔をムシャムシャと食べていた。
「今日の夕食はお豚はんにしましょうかね。丸々と太って美味しそうですなぁ」
ルシアの言葉で、急に目の前の苔猪豚がごちそうに見えてきた。ルリやハチ達も一様に苔猪豚を獲物として認識したようだ。
「いいね。今日は豚か」
「ルシア様の手料理……じゅるり」
「ハチちゃん、よだれ、よだれ……じゅるり」
「ルリちゃんもハチちゃんも気張っておくれやす。豚はんの夕食はおいし作りましょう~」
鉄の剣をゆっくりと引き抜くと、目標の苔猪豚の群れに近づいていく。俺達の接近に気付いた一匹の苔猪豚が殺気を感じとったようで、ブヒブヒと鳴き声をあげて逃げ出し始める。
ハチが素早く駆け出すと、苔猪豚の逃げ道を塞ぐように前に出ていった。
「諦めて、おいら達の夕飯になるんだわ」
ハチが先頭を切って走っていた苔猪豚に飛びかかり、首筋に爪を突き立て絶命させていった。先頭を倒された苔猪豚達は逃げ惑い、俺達の方に向かってくるものもいた。
「悪いが、こちらに来ても食材になってもらうのだよ」
構えた鉄の剣を向かってきた苔猪豚の首元に叩きつけた。
ザシュ。
首元に叩き込まれた鉄の剣が苔猪豚の首を叩き落していくと、苔猪豚が絶命し白煙を上げると【豚肉】と【苔キノコ】を落としていく。
ルシアもピヨちゃんに乗ったまま魔術の詠唱を始め、てんでバラバラに逃げ出そうとしている苔猪豚に向かい炎の矢を放ち、焼き豚を大量生産していった。
「堪忍どすえぇ。美味しいご飯にしてあげるさかい、ほんま堪忍やわぁ~」
「あたしの出番はなさそうね……」
ルシアが一気に焼き豚を大量生産したため、仕事にあぶれたルリが暇そうにしていたが、近くのガス噴出孔から赤い色をしたスライムがウネウネと湧き出てきているのを見つけていた。
「ちょうど、ルリの仕事ができたようだ。あの赤いのは火属性に強くて、氷属性に弱いレッドスライムだから、ルリの氷の息で凍らせてやれ」
「良かった。お仕事しないとご飯食べるのも気が引けるものね。お任せください」
ルリがウネウネと漏れ出してきていたレッドスライム達に向けて氷の息を吹きかけては、カチコチに固めると、鉄鎖が生き物のように飛び出していきレッドスライム達を綺麗に砕いていった。そして、白煙とともに【火結晶】がドロップされていた。
この【火結晶】は、水を温水化させる【火山石】を作り出す重要な素材の一部であった。後は【溶岩燃料】を生成するための【溶岩】を手に入れれば、晴れて混浴温泉の完成に至る所まできていた。
「よしよし、【火結晶】はじゃんじゃん拾ってくれたまえ」
ルシアを乗せたピヨちゃんが、器用にくちばしで【火結晶】、【豚肉】、【苔キノコ】等のドロップした素材を拾い上げてルシアに渡していた。まだ、この辺りの敵は強くないのでノーダメージの完封勝利だった。
「ツクル兄、ここらへんは調味料になりそうなハーブや野菜生えてへんとこですなぁ。さっき来る途中に大豆や小麦自生しとった場所があったさかい早めに溶岩手に入れて、そちらを手に入れにいきましょう」
火山地帯で所々から火山性ガスの噴出口がポッカリと口を開けている荒れた岩場には、さすがに食材になりそうな野菜や果物などは自生しておらず、食材ゲットに命を燃やしている様子がうかがえるルシアにとっては不毛の地に思えるようだ。
ルシアたんの言う通り、とっとと【溶岩】ゲットして混浴温泉を作成できる目処を立てたら【小麦】、【大豆】をゲットして帰ることにしよう。
「ルシアの言う通りだね。ここは火山性ガスも多いからあまり長居しない方がいいしね。よし、もう少し奥に行けば【溶岩】が湖に流れ込んでいる場所があるはずだから、そこで採取することにしようか」
「ツクル様、はえーとこ【溶岩】とってかえろみゃー。鼻がわやになってまうがねー」
ハチは風向きを敏感に感じ取ってガスの風下に入らないようにウロウロと辺りを歩き回っていた。
「わかった、わかった」
ハチに急かさせるように湖の方へ近づいていくと、モクモクと水蒸気をあげる箇所に近づく。所々に穴の開いた中には、まだ固まっていない溶岩が赤いままドロドロと流れており、猛烈な熱気を吹き出していた。
本当なら熱くてとても近づけない場所であろうが、鎧の効果か、異世界の法則なのか、少し熱い程度であった。
ドロドロと流れている溶岩を鉄のバケツですくうと、白煙とともに素材化された【溶岩】がインベントリに収納される。どうして鉄のバケツが溶けないか、わからないがビルダーのトンデモ能力のお陰であると思われた。
ガララッ!
【溶岩】を大量に手入れると、背後で岩が崩れる音が聞こえてきた。気になったので音の方へ振り返ると、崩れた岩石がフワフワと浮き始めて人の形を形成し始めていた。
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