第46話 岩魔人


「あ、あれって!? ロックゴーレム!? 嘘だろ。もっと奥地にしか出なかったじゃん」


 人の形をとり始めた岩石の塊を見て焦っていた。なぜなら、あれは高さ5メートルほどになるロックゴーレムという序盤の強敵であり、今の俺達では苦戦を免れない敵であるからだ。


 ……ちぃ、はぐれ魔物か。それとも溶岩に乗って流れてきたのか……。あいつは固いし、魔術も通じ難いからあんまり戦いたくないが……。斃せない相手でもない。それにコイツの落とす【呪器】はゴーレム作れるから、門番作るのに欲しいんだよな。俺がちょっと痛い思いするかもしれないが、やってみるか。いざとなれば足は遅いから逃げられるし。


 ロックゴーレムが落とす【呪器】を手に入れるために、ちょっとだけ無茶をすることにした。多分、鉄製の装備を身に纏っているため、そんなにひどい事にはならないが、少しばかりは痛い思いをすると思われる。


「あいつを狩るよ。ルシア、ピヨちゃんは遠距離で援護して」


 ピヨ!!


「承りましたえ~」


「ルリはロックゴーレムの足元を凍らせるのに集中、攻撃は格闘だけだから、距離をとって」


「あ、はい」


「ハチは弱点の膝を集中的に狙っていけ、ぶん殴られるとちょっと痛えけど、男なら我慢だ」


「わかっとるがね~。おいらは男だで頑張る」


「俺がロックゴーレムを引きつけるから、みんなの援護頼む」


「「「はい」」」


 指示を出したように、まず距離を取ったルシアが炎の矢をロックゴーレムに向けて放つ。轟音とともに飛んで行った炎の矢はロックゴーレムに命中したが、傷を与えたようには思えず、僅かにロックゴーレムをたじろかせただけだった。


 左手に陣取ったルリも氷の息でロックゴーレムの足元を凍らせていくが、動きを止めるまでには至らず、行動を阻害するに留まってダメージを与えているようには見えない。


「ルリちゃん、見とるがね! おいらがこいつを倒したるがや」


 素早く駆け寄り、動きが阻害されているロックゴーレムの膝を爪で引き裂いていく。わずかに関節部と思われる岩石が欠けたが大きなダメージにまではなっていないようだ。


「ハチ! 諦めるな。こいつは膝を壊せれば後は楽に狩れる。攻撃を俺が受け止めるから、休まず膝を狙え。ルリとルシアは引き続き援護を頼む」


 ハチに攻撃を続けるように促すと、ロックゴーレムのヘイトを集めるため、盾を構えて攻撃範囲に潜り込んでいく。


 ビュッ!


 風切り音と共にロックゴーレムの腕が頭上スレスレを通り過ぎていく。当たると絶対に痛そうな奴だが、首がもげることは無いだろう。もし、本当に痛かったら逃げ出すことも考慮せねばならない。


 ビュッ! ガンッ!


 ロックゴーレムの反対の腕が盾に当たって鈍い衝撃を腕に伝えてくるが、耐えきれない痛みではない。


「さすが鉄の盾、固い」


 喜びも束の間、通り過ぎたロックゴーレムの腕が不意に下から現れて鎧の中央にヒットする。ドンと突き抜ける衝撃で胃が持上げられて胃液が逆流しそうになる。


「ゲフゥ、うぐおぉお。いてぇえ」


 痛みと驚きで思わず動きが止まってしまう。ガードが下がった俺にロックゴーレムのパンチが襲いかかってきた。


「ツクルにーはんっ!!! あんさん、うちの大事な人になにをしはるのっ!!! しばきたおしますよってっ!!」


 珍しく激高したルシアが、例の建造物破壊魔術を詠唱し、ロックゴーレムに向かい放つ。バリバリという音を伴った雷光がロックゴーレムの腕を見事に消し去っていた。


「ツクルにーはん、大丈夫どすか!?」


 ピヨちゃんを飛び降り、慌てて駆け寄ってきたルシアを制止する。


「ルシア、まだ来たらダメだ。俺なら大丈夫。でも、あとで殴られた所をルシアにはさすってもらえるとありがたいな」

「そんなん、イヤラシイこと言ったらあかんどすえぇ~。ほんまにうちは心配してしまったやないのぉ~。もう、ツクルにーはんのいけず~」


 俺の事を心配して駆け寄ってきたルシアが、手をブンブン振り回して怒っている。


 あぁ、カワイイ。怒ってもルシアたんは素敵なのだ。俺の事を本気で心配してくれる彼女がいるってスゲー幸せ。殴られてよかったぁ。


「さぁて、俺のルシアに心配をかけさせたけど、ルシアの声援を受けた俺をもう止められはしないっ!!」


 引き抜いた剣と盾を構えると、腕を失ったロックゴーレムに向かって吶喊していく。腕がなくなったことでバランスを欠いたロックゴーレムの膝にハチが更に集中攻撃を加え、ついに膝の関節部を砕くことに成功する。


「ツクル様、やったがや! 膝を砕いたでね!」


「よくやった。後は顔を砕けば動きを止めるはずだ。一気に行くぞ」


「まかせときゃーす」


 ロックゴーレムは膝の関節を砕かれてバランスを崩し膝立ちで地面に倒れ込んでおり、頭がちょうど攻撃しやすい位置にまで降りてきていた。ロックゴーレムの頭部に向けて鉄の剣を叩きつける。


 ガンッ!!

 

 固い衝撃が手首に返ってきて痺れが広がっていくが、構わずに何度も何度も剣を叩きつけていく。


 ガンッ! ガンッ!!


 ハチも一緒になってロックゴーレムの頭を爪で切り裂いていった。


 ウゴゴゴ、ウゴゴ。


「これでトドメだっ!!」


 かなりひびの入ったロックゴーレムの頭部に、最大の力を込めた鉄の剣を振り下ろす。バキンという鉄の剣が折れた音とともにロックゴーレムの頭部が粉々に砕け散って身体が崩れ去っていった。すると、皆が光の粒子に覆われてレベルアップしていた。


 >LVアップしました。


 LV4→5


 攻撃力:24→28 防御力:23→27 魔力:13→15 素早さ:13→15 賢さ:14→16


「きゃぁ、ツクルにーはん……カッコイイどすぇ。惚れ直してしまいますよって……やっぱ、にーはんはうちの運命のひとやわ~」


 ルシアからの愛の告白に耳が思わずダンボになってしまう。


 うんうん、そうだとも。俺とルシアはこの地で出会うことが運命づけられていたのだよ。ルシアからのぶっとい赤い糸で繋がっているのだとも。


 折れた鉄の剣を溶岩に中に捨てると、素材化した【呪器】をインベントリにしまう。これで、【ゴーレム生成器】を作り出せれば門番として色々なゴーレムを配置できるようになるだろう。


「ふぅ。イテテ、さすがにロックゴーレムのボディーパンチは効いたなぁ」


「ツクルにーはん、すぐ鎧脱いでくれはりますか? 骨が折れてへんか確認せな、うちは心配でねられまへん」


 駆け寄ってきたルシアが、鎧を脱がして殴られた箇所を隅々まで確認していく。そして、前言通りに殴られて打ち身になっていた腹部をひんやりとした手でナデナデしてくれた。とりあえず、お返しに俺もルシアの狐耳をモミモミと揉みしだいてあげる。


 しばらく二人でそうしていたら、ピヨちゃんに頭を小突かれた。


「はぅ! あ、ああ。ルシアもう大丈夫だ。だいぶ良くなったよ。さて、目的も達したことで、後は【大豆】と【小麦】を採取して家路につくことにしようか」


「ええなぁ、ツクル様は……おいらも頑張ったけどなぁ……」


 ハチが俺も頑張ったアピールをルリに送っていた。


「フフ、分かってるわよ。今日のハチちゃんは凄いカッコよかった。お家に帰ったら一緒に毛繕いしましょうね」


「ほんときゃー!!! やった!! ツクル様! 早う帰ろみゃー!! 置いてってまうよ」


 ルリに毛繕いしてもらえると知ったハチが急いで駆け出していった。


 こうして、帰路に【小麦】と【大豆】の自生している場所によって素材化と苗化させると日が暮れる前に我が家に向かい帰ることにした。

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