第51話 修羅場回避術
「ただいま。庭園の手入れにちょっと時間がかかってね。遅くなった」
屋敷に帰り着き、ダイニングの床にイルファをドサリと投げ出していく。ダイニングにはピヨちゃんを始め、ルリやハチ達もルシアの夕飯を待っており、皆の視線が縛られたまま床に投げ出されたイルファに集中していた。
おっと、これは誤解を生む前にルシアにちゃんと説明をしたほうがいいな。
「実は、庭園の手入れをしていたら迷い人がいてね。どうも、知り合いとはぐれたらしく困っていたようで、うちに招待したのさ。お名前はイルファ・ベランザールさんというらしい。しばらく、うちに逗留するらしいからよろしく頼むね」
興味を持ったハチがクンクンとイルファの匂いを嗅いでいる。ピヨちゃんもイルファに興味を持ったようで、縛られて強調された大きな胸をツンツンと嘴で突いて感触を確かめていた。
ピヨちゃん、君は女の子ではないのかね……だが、いい仕事をした。グッジョブ!!
イルファが困ったような視線を俺に向けているが、助け船を出すつもりは毛頭なかった。あまり、イルファに構っていると、ルシアたんが怒ってしまう可能性があるからだ。だから、イルファには必要最低限しか干渉しないことを自分の中でルール化した。
「あら~、えらいべっぴんさんやね~。ツクルにーはんもさぞかしお気に入りになられはったんでしょうね~」
料理を作っているルシアの笑顔が何だか非常に怖い。完全に作り笑いを顔に張り付けたような笑顔でいつもの素敵なルシアではなかった。
あかーーーん!! 完全に勘違いされている!! ち、違うんだよ。この子は魔王軍の手下で逃がすとえらいことになっちゃうんだって!!
っとルシアに説明したかったが、街を追放されているルシアを不安がらせるわけにもいかず、ドス黒いオーラが立ちの昇るルシアに近づくと誤解を解くために耳元で囁く。
『実はあの子も魔王軍に追われる身らしいんだ。なんでも、魔王様に不敬を働いたらしくって、お尋ね者として追われてこの僻地まで逃げ込んできた可哀想な子なんだ。俺達も魔王軍から身を隠しているだろ。何だか同情しちゃって家に招待しただけさ。別にカワイイから連れてきたわけじゃない。俺が好きなのはルシアだけなんだからさ。もしかして焼きもち妬いてくれていたのかい?』
耳打ちを聞いたルシアが料理の手を止めると、顔がボっと赤くなる。完全に焼きもちを妬いてくれていたようだ。
はくぅ、カワイイ。ルシアが焼きもち妬いてくれるなんて、俺最高に幸せだわ。
『そ、そーどしたんか……うちはてっきり、カワイイ子やからツクルにーはんが気に入って、この家にご招待したのかと思ってしもてん……こんな子イヤですやろ……うち、ツクルにーはんに嫌いになられたらと思ったら、心から笑えなかったんよ』
ルシアが泣きそうな顔で俺に耳打ちをしていた。やはり、イルファを見て何かを勘違いしていたようだ。
ルシアたん、何という……もうその言葉だけで俺はお腹いっぱいです。ムハー、誰かにここまで想ってもらえるなんて素晴らしいことだね。その想ってくれている人が自分の大好きな人だと思うと、それだけで心がほっこりと温かくなっていく。
転生前の世界では学生時代も休みの日でも、誰とも喋らず会わずにひたすらゲームに打ち込んで、ぼっち生活を送っていた俺にとって、ルシアやこの家の仲間の存在は急速に心の大部分を占めていく大切な物になり始めていた。
『ルシアが焼きもち妬いてくれるなんて……幸せだなぁ。でも、俺はルシアが大好きなんだよ』
『ツクルにーはんのいけず~。そないな恥ずかしいことを真顔で言うたらあきまへん~』
このまま、抱きしめてイチャイチャとしたいが、ハチどころかルリもジト目で見てきていたので、咳ばらいをして再度イルファのことをルシアに頼むことにした。
『とりあえず、うちでイルファを匿っていいかい?』
『当たり前です。そないな可哀想な子を外におっぽり出すのは、ツクルにーはんらしくないわぁ~』
ルシアはすっかりどす黒いオーラが身を潜め、いつものカワイイ笑顔に戻って料理作りを再開していた。
うん、いつものルシアに戻ったな。さて、次はイルファにもきちんと事情説明しておかないと……
床に転がされて、ハチからの匂い嗅ぎ攻撃とピヨちゃんのおっぱい突き攻撃に晒されて、半泣きのイルファに近づいて耳元で囁く。
『イルファ、とりあえず。最高権力者の許可が出た。この家のヒエラルキーの最上位はあそこで料理を作っている妖狐族のルシアだ。この家では彼女が最高意思決定権を持っている。誠心誠意心を尽くして仕えれば、命までは取られないだろう。頑張れるか?』
『ツクル様よりもルシア様の方の権限が強いんか……分かった。誠心誠意、ルシア様のためにお仕えするけん、なんとか助命ばしていただくるよう頼む』
『ああ、大丈夫だ。下働きとしてこの屋敷に住むと伝えてあるので、色々と手伝いを頼むぞ。それと、一緒に暮らしている仲間だが、さっきから匂いを嗅いでいるのが、ヘルハウンドのハチ。おっぱいを突いているのが、コカトリスのピヨちゃん。そして凍てつく目でハチを見ているのが、フェンリルのルリだ。みんなこの家の住人であるので、死にたくなかったら仲良くするように。いいか?』
俺の申し出にイルファが凄い勢いでコクコクと頷いていた。
この分なら、脱走する様子はなさそうだな。とりあえず、ルシアには結局の所、イルファが魔王軍の逃亡者だと伝えることになったが、何とか丸く収まりそうで助かったぜ。
イルファの縄を解くと、ちょうどルシアの夕飯も仕上がったようで椅子に座るように促すと、イルファも含めて歓迎晩さん会が開始されることになった。
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