第26話 我が家にベッドイン?
作業台に移動した俺は念願のベッドを作成することにした。
ベッド無し生活で夜を迎えていたが【綿毛】と【羽毛】を手に入れたことにより、快適なベッドライフを楽しめることができるようになったのだ。
そう、ベッドがあれば、ルシアたんとも正式な朝チュンを……嘘ですっ! 全国一千五百万人のルシアたんファンの皆様、お願いですから刺殺だけは勘弁してください。
イケナイ方向へ思考が流れそうになったので、ベッド作成に集中することにした。作業台のメニューから【フカフカベッド】を選択して作成する。
【フカフカベッド】……フカフカの寝心地を体験できるベッド 消費素材 羽毛:2 綿毛:5 木材:5
ボフッ!
ダブルサイズのベッドが作業台の上に飛び出した。寝具も一緒についてきたようで、二人分の枕と掛け布団も付属している。
「うむ、小屋にはちょっとサイズが大きいかもしれないけど、改築の際に部屋を広げればいいだろう」
問題はルシアの寝相の悪さだが、とりあえず、本人に言ってベッドから落ちないようにと、理由を付けて同衾させてもらおう。嫌だと言われたら、ベッドはルシアに譲って俺が地面で寝ればいい。
「なんの音でゃー。おいらビックリしてまったわ」
生成の音でびっくりしたルリとハチが作業台の方へ来ていた。二人ともついさっきまで無かったベッドを見て眼を丸くしている。
「さっきまでこんなベッドなかったよね? あたし、夢でも見てるのかしら……ハチちゃん」
ルリがガブリとハチの尻尾を噛んでいた。
「ぎゃひいんっ!! いだいっ! 痛いがね。ルリちゃん、痛いのは勘弁してちょう」
「ハチちゃんが痛がるということは夢じゃないんだね。まさか、ツクルさんの力ですか?」
ルリとハチが目をぱちくりさせてベッドを見ている。
「言い忘れていたけど。俺はビルダーなんだ。とりあえず、大概の物は自作出来ちゃうし、即完成させることができるのさ。さっき二人が見た土の防壁も俺が半日程度で完成させたものだよ」
二人がギョッとした顔で周りの防壁を見渡す。その間に完成した【フカフカベッド】をインベントリにしまい込んだ。
「……ツクル様、どえりゃー凄いがね……伝説のビルダーなんだぁ……こんな力があるだなんて魔王様が聞いたら卒倒してまうでね」
「……ハチちゃん。これは完全にお口にチャックをしないといけないことだわ。下手にみんなに知れ渡ると、ツクルさんやルシアさんが魔王様に狙われちゃうのよ。そうなると、あたし達の住む所もなくなっちゃうわけ。だからこれは内緒にしないと」
ルリは意外と頭が回るようだった。彼女の言ったとおりに僻地に住んでいるとはいえ、人が来ないとは限らない。そんな時にベラベラと喋れると困った事態に陥るので、二人にはしっかりと覚えておいて欲しかった。
「ルリの言う通りだ。なんでベラベラ喋っちゃだめだよ。ちなみにルシアは知っているから大丈夫だ。そうだ、ルリとハチにも寝床を提供しないとね。【干し草の寝台】でいいかい?」
「住まわせてもらうってお食事まで頂くのに……寝床まで提供して頂くわけには……あたし達は外で大丈夫ですから……お気遣いは無用です」
ルリは遠慮をしているが、これから共同生活を行う仲間だから、専用の部屋を設置してあげようと思う。
「大丈夫。二人の愛の巣は直ぐに作れるさ。任せといて」
二人の返事を待たずに作業台のメニューから【干し草の寝台】を選択する。
【干し草の寝台】……干し草を敷き詰めた寝床 消費素材 干し草:5 木材:5
ボフッ!
飛び出した【干し草の寝台】を片手で持上げると、小屋の前に設置して周りを土のブロックで囲っていき天井も土ブロックで埋めていく。とりあえず、外との出入りには【木のドア】をはめ込み、外気の侵入を阻止しておいた。完成した小屋を見た二人はポカーンとしていた。
番犬というのは名目に過ぎないから、二人にも温かい寝床で寝てもらうことにしよう。
「とりあえず、こんなものだ。近々改装するから手抜きで申し訳ないけど。夜の寒さは二人で一緒に寝ればしのげるはずだよね?」
【干し草の寝台】はルリとハチの大型犬クラスの二人が横になっても余るくらいの大きさがあり、仲良く一緒に寝られるようにしておいた。
「ツ、ツクル様……ルリちゃんと一緒の寝台はまずいですわ。野宿の時も寝る場所だけは別々だったんだでさー」
「あ、あたしは別に大丈夫だけど……ハチちゃんはあたしと一緒じゃ嫌なの?」
「そんなことにゃー。一緒がいいけど、そのあのルリちゃんと一緒の寝台で寝るってことはさー。ルリちゃんが本当においらの嫁になってもいいってことだと思ってまうわけであって……」
「一緒に駆け落ちしているんだから、あたしはもうハチちゃんの嫁になったの。ハチちゃんは違うの?」
「いや、おいらもそのつもりだった。でも、本当にいいのかなとも思う。不甲斐にゃー男でごめん。ルリちゃんはおいらが幸せにするがね」
お熱い二人が一緒に寝れば、寒くて風邪を引くことも無いだろうと思われる。今日は俺もルシアと一緒に寝て心まで温めてもらうことにしよう。
ルリとハチの部屋を小屋と棟続きにするため壁を打ち抜く。打ち抜いた壁の先にはルシアが夕食を作っていた。
「あら、ちょうどいいトコどした。夕食がでけたさかい呼びにいこうと思っててん~。ルリちゃんもハチちゃんもいい部屋作ってもらはったね。おやまあ、二人一緒のベッドどすか。温かそうでよろしおすなぁ」
夕食の準備を終えたルシアが、ルリとハチの部屋を覗いてベッドが一つなのを見て顔を赤らめていた。
「ルシア、実はルシアのベッドも作ったんだ」
「本当ですか!? さすがに床に寝るんはしんどかったんで、助かりますわぁ~」
小屋の奥の部屋にインベントリにしまっていた【フカフカベッド】を取り出す。設置されたベッドは奥の部屋ギリギリいっぱいの大きさだった。
「いやに大きなベッドどすなぁ? はっ! まさか、これってうちとツクルにーはんはんが一緒に寝るベッドどすか?」
驚きの反応を見せてこちらに振り返ったルシアにコクコクと頷いていく。その瞬間にルシアの顔がボッと真っ赤に染まって茹でだこのようになったかと思うと、革のワンピースの裾を持ってモジモジとし始めた。
ファウァーーーーー!? ルシアたん! 大事なおパンツが見えてしまっているよっ!! これは罠か! 罠なのかぁ!!
ルシアのパンツがチラついたことで、大きく動揺してしまった。深呼吸をして一度落ち着くことにする。今から、もっと重大なことをルシアに伝えなければならないのに、邪な気持ちが前面に出てしまえば、拒絶される可能性が高くなるからだ。
落ち着け、俺。紳士的にいくんだ。お前はキッチリとクールにミッションをこなせるスーパーエージェントだろう。クールに決めようぜっ!
「るしあ殿、何卒それがしと共に同衾してくれませぬか? るしあ殿の許可が出る迄は絶対に手は出しませぬ。夜分のるしあ殿の寝相の悪しさにて布団から落ちないように、それがしかと捕まえておき候、何卒願いたもうぞ」
ブゥウウーーーー!! しまったぁ!! なにゆえに武士風!? 口の野郎がまたしくじりやがったっ!!
「ツクルにーはん……」
「ツクル様」
「ツクルさん」
三人の憐みにも似た同情の目が貫いていく。心に三連コンボの大技を打ち込まれたことで、心のライフ残量はゼロ付近を指し示していた。
オフゥ……大事なところでミスるなんて……ありえねえぞ……これじゃあ、ルシアたんもドン引きだぜ……。
照れたように顔を真っ赤にしたルシアが、燃え尽きかけていた俺の耳元で囁く。
「……ええですよ……うち、ホンマに寝相が悪いんで、ツクルにーはんに捕まえといてもらしまへんと落ちてしまうと思うさかい……ちゃんとギュッと抱きしめといてくれますか。ほんでも、まだ一緒に寝るやけですからね。エッチなことはしちゃあかんの」
「ホント!? マジで!? エッチなことなんて絶対にしませんっ!! ルシアと一緒に同衾できるだけで大丈夫ですっ!!」
真っ赤な顔でうにゅうにゅと恥ずかしがっているルシアを思わず抱きしめていた。
God Has Descended!! 神が降臨した!! ブラボーー!! ヒャッハーー!! ルシアたんと合法同衾できるぜ~!! イヤッホー!!
「ツクル様もルシア様と仲良うされとられるなぁ。おいらもツクル様みてゃーに大事な人を養っていける立派な男にならなあかんな。もっと頑張ろにゃーとあかんな」
「ハチちゃん期待しているからね。でも、あたしも一緒に頑張るから、あんまり無理しちゃ嫌よ」
ルリもハチも俺もルシアもイチャイチャタイムだった。自分の大事な人とイチャイチャできる時間はどんなことをしている時よりも楽しいし、嬉しい気持ちでいっぱいになる。
人生ニ十三年、恋人という存在なく生活してきたが、転生後にルシアと過ごした三日間が一番充実しているかもしれなかった。
転生万歳!! ビバッ!! 転生生活!!
テレビもネットもパソコンもゲームもない世界だけれども、今までもっともリア充な生活を送れていることを俺は実感していた。
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