第27話 夕食タイム
ベッドインの約束（エッチなし）を取りつけてルンルン気分で夕食タイムが始まった。
「今日の夕食は何だい？」
「『カモ肉のロースト、クレソン添え』と『牛肉のたたき』です。お好みでネギやワサビを添えて召し上がられはるとよいですよ。あと、デザートに『アイスクリーム』を作りたいんでルリちゃんの【氷の息】で手伝ってもらえるとありがたいわぁ」
アイスクリーム！？ 甘味スイーツ！？ ルシアたんはマジでプロ級っすか！！
アイスクリームと聞かされてテンションが上がった。スイーツは別腹なのだ。異世界でアイスクリームを食べられる幸せに頬が緩む。
「あたしの【氷の息】で良かったら、いつでもお手伝いします！！」
ルシアにお手伝いを頼まれたルリが張り切っていた。
フェンリルの【氷の息】をアイス製造に使うのは異世界ならではといったところか。
「夕食を食べたらお手伝いしてもらいはるから、まずは夕食を食べましょうかぁ～。いっぱい、作ってますから、どんどん食べてくださいね」
ルリとハチも木皿に小分けされたルシアの料理の前に行儀よく座った。
俺も小分けされた木皿に前に座り、ルシアの料理に手を合わせる。
「頂きます」
一人暮らしの時は絶対に言わなかった言葉が、自然とこぼれだす。料理を作ってくれた方が目の前にいるので、感謝の気持ちが溢れ出していた。
「おあがりやす～」
ニコニコとほほ笑んでルシアが食事をすすめてくれる。まず、カモ肉のローストを一切れ口に入れた。塩、胡椒で下味を付け、焚き火でじっくりとローストされた鴨の香ばしい肉の香りが舌の上に色彩豊かな絵を描く。
……カモ肉ってこんなに美味しかったのか……高級品だと思ってたけど、案外食べやすいなぁ……。
付け合わせに炒められていたクレソンも一口食べてみる。
ちょっとの苦味とちょっとの辛味。子供時代なら食べられなかった味かもしれないが、先程食べたカモ肉の脂をさっぱりとリセットしてくれ、再びカモ肉を食べたくなった。
「ルシア、美味いよ。素晴らしい料理だ。とても、あの食材と調味料で作られたとは思えないね」
「ルシア様！ このカモ肉は凄い美味いですわ。おいら、こんなうんみゃーご飯を食べたのは産まれて初めてだて。うみゃーな。ルリちゃん」
「ホントに美味しいですね。村では生肉か干し肉ばかり食べてきていたんで、舌がびっくりしてますよ」
ルリもハチも木皿に盛られたカモ肉のローストを器用に口の中に放り込んでいた。オオカミと犬にとってみてもルシアの料理は止まらなくなる味付けになっているようだ。
「そんな褒められたら恥ずかしいわぁ～。この出来じゃあ、おばーさんに出したらめちゃ怒られはる味やわぁ」
自分の分の食事を食べながら謙遜するルシアだったが、確実に店に出せるレベルの食事になっていた。
「えっ！？、これで怒られるの！！ マジかぁ……ルシアの死んだおばーちゃんが納得するレベルの料理を食べさせられたら、他の人の料理は食べられないかもしれないなぁ……」
「【醤油】と【お酢】、それに【味噌】と【油】が手に入ると、もっともっと美味しいご飯が作れますよってに……まぁ、他にも欲しい調味料はぎょーさんあるんですけどなぁ」
ゲームの『クリエイト・ワールド』も大量の調味料アイテムが存在していたが、西洋風の世界観でも、開発会社が日本だったため、日本の調味料が多くラインナップされていた。
この転生先の世界も日本でなじみの調味料の名前がルシアの口から飛び出していた。
調味料系はゲーム攻略にさして重要じゃなかったから、ほとんど作成しなかったが、ルシアの料理がバージョンアップすると分かれば、優先度を上げなければならない。たしか、発酵系調味料は【発酵樽】を作成すれば作れたような気がした。発酵元になる豆類なども手に入れないといけなかった。
「よし。調味料は優先的に作っていこう。美味いご飯が食べられると分かれば、作る気も起きるってもんだ。こっちの牛肉のタタキも美味いんだろうな」
カモ肉のローストをあっという間に平らげると、今度は牛肉のタタキに箸を進めていった。霜降りの入った牛肉は表面に焼き色がつけてあり、中は軽く火が通ったミディアムレアな状態だった。
まずは塩だけ付けて食べてみる。焼き色を付けた表面は香ばしく、中身はしっとりした舌触りで、牛肉の脂が口内の熱で溶けだし、しっかり熟成された肉独特の複雑で深みのある味が広がった。
……肉ってこんなに美味いの……俺が喰ってた肉っていったい……
新たに新しい一枚を箸ですくうと、ネギを添えて口に運ぶ。固くはないがしゃっきりとした歯触りでネギの香りと、肉の脂が混じり合い、濃厚な味を脳に送り込んでくる。
……止まらない……今度は、ワサビを付けて食べてみよう。
もう一枚のタタキにワサビを付けて、口内に放り込む。スーッと鼻が抜ける辛みの後にさっぱりとした肉の旨味が際立つ癖になりそうな味であった。
ルリもハチもルシアが準備してくれたタタキを一心不乱に頬張っていく。
「……ルシアおかわりを頼む。早急にお願いだ」
見る間に自分の木皿に盛られていた肉が消え去っていった。しばらく、皆が無言で肉を喰らっていった。
「ふぅ、喰った。喰った。肉うまかったなぁ……」
腹がいっぱいに膨らんだをさすっていた。ルリもハチもお腹の辺りがありえないくらいに膨らんでいた。
「さて、アイスクリームをつくる準備をせんと……」
ルシアが鍋に卵黄と卵白に分けて、卵白に砂糖を加えて泡だて器で泡立て始める。しばらくしてメレンゲになると、卵黄を加えてまた混ぜ始めた。
「ルリちゃん、ちょいとこのお鍋を氷の息で冷やしてもらえるかしら」
「こんな感じでいいんですか？ フゥウウ」
ルリが鍋底に向かって息を吹きかけると、銅鍋の底に薄っすらと霜がつく。すると、牛乳を加えていって更に混ぜ始めた。しばらく、混ぜているとひんやりと冷えたアイスクリームが完成していた。
「こないな感じでええ、よろしいわぁ。ツクルにーはんに味見してもらいましょうか」
木皿に盛られたアイスクリームをルシアが差し出して来た。木のスプーンで一口分すくって口に運ぶ。
口に入ったアイスクリームは、舌の上でまるで淡雪のようにさらりと溶ける。濃厚なミルクの味と甘味が口内いっぱいに広がっていく。
「うまいっ！ それ以外なんも言えねぇ……美味いよ」
あまりの美味さに頬を涙が伝っていた。それほどまでにルシアの作ったアイスクリームは美味しかったのである。市販のアイスクリームでは出せない、愛情をたっぷりと注いであるので、世界で一番おいしいのであった。
「ツクル様、おいらも一口食べてゃー」
「ハチちゃん、あたしの分も残してね」
「みんなにちゃんとお分けしはりますから、安心して下さいなぁ。うちもこないな僻地でアイスクリームを作れるとは思っていなかったから、喜んでもらって嬉しいわぁ」
均等にそれぞれの皿にアイスクリームを盛っていくと、ルリとハチはものすごい勢いでアイスクリームを舐め始めた。
「ルリちゃん……おいら、もう村の食事に耐えられんかもしれんよ……こんなに美味い食事が世の中にあるだなんて思いもせなんだぎゃー」
「ハチちゃん……ツクルさんとルシアさんのお役に立って、美味しいご飯にありつこうねっ！！ あたしも頑張る」
ルリもハチもルシアの料理によって胃袋をガッチリと握られたようだ。ちなみに俺の胃袋はすでに完全にルシアに掌握されてしまっている。そのため、自分で生成した食事を食べても砂を噛んでいるのと同じであろう。
アイスクリームを平らげると、ルリとハチの歓迎会を兼ねた夕食会は終わりを告げた。
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