第28話 彼氏の匂い、彼女の匂い
夕食後、日が落ちて暗くなっていたが寝るまでに時間があったので、畑に今日収集してきたハーブや野菜を植えることにした。畑で栽培する方法は作物が枯れた時にできる【種】から栽培する方法と、自生しているものをスコップで掘り起こして植える【苗】からの二種類ある。今回は自生していたものを植えるので【苗】からの栽培パターンになる予定だ。
どの作物も複数の【苗】をゲットしていたので、一部は枯らして【種】にする予定だ。
インベントリから作物の【苗】を取り出して次々に植えていく。自生していた作物を植え終わると、畑のメニューを開き作付け状況を確認する。
畑の作付け状況
畑40×40マス 240/1600マス
ジャガイモ×10マス サツマ芋×10マス エゴマ×20マス ニラ×20マス ネギ×20マス 胡椒×20マス クレソン×10マス ミント×10マス バジル×10マス カモミール×10マス 薬草×30マス ヒーリングリーフ×20マス 綿の花×50マス
作付け一マスで素材が一~三個手に入る仕様となっているはずなので、主要穀物や野菜のなどを植え付ければ、食料の自給体制にある程度の目処が付けられるはずだ。
素材収集で出かけた際には穀物やハーブなど、スコップで苗化して持ち帰ってくることを予定している。
俺が作った畑では、多分通常よりも何倍も早く作物が生育し、三日ほどで完全に収穫可能になるはずなので、【種】にする作物以外は素材化していこうと思う。
「よし、今日の仕事はこれで終わり」
本日の仕事を終えて小屋に帰ると、ルリとハチは自分達の部屋に戻って、二人で仲良く寝息を立てていた。まだ、幼いヘルハウンドとフェンリルであり、しばらくの間荒野を彷徨っていたので、疲れが溜まっているのであろう。
「お帰りやすぅ~。ルリちゃんもハチちゃんもぎょうさん疲れておられた様子。お腹が膨れてベッドに横にならはったら、すぐに寝息が聞こえてきはりましたわぁ~」
「あの子達もまだ子供だからね。それに飲まず食わずでさすらっていた疲労もかなり蓄積してるんだろうさ。ところで、なんで囚人服に着替えてるの?」
食器の後片付けを終えたルシアが以前の囚人服に着替えていた。
「出かける前に洗っておいたのが乾いとったさかい、寝間着にしよかと思いまして。ツクルにーはんのも一緒に洗ってありますよ~」
ルシアは洗い替え用の衣服として昼食後に出かける前に水洗いをしておいてくれていたようだ。さすが、嫁にしたいNO1のルシアたん。よく気が利く。
着たきりで過ごすのは気持ち悪いもんな……明日には残っている【綿毛】から【糸】を作って、布系の衣服を生成してみるか。そういえば、【洗い布】も欲しかったな。
「ルシアはよく気が利くな……ありがとういつもお世話になっております」
「うちがこうして生きてられるのも、ツクルにーはんのお陰やし、色々とワガママ言わしてもろとるのは、うちの方なんで遠慮せんで欲しいわぁ~」
「でもさ、俺はすげえルシアに感謝してるよ。記憶がなくて、あのまま一人で暮らしていたら、孤独に耐えられずに発狂していたかもしれないからね。そう思うと誰かと一緒って素敵なことだよね。それが、自分の一目惚れした子かと思うと、とっても素敵なことだ」
「ひゃぁ!? ツクルにーはん!?」
ルシアをお姫様抱っこすると、頑張って作成した【フカフカベッド】に向けて歩き出した。急に抱っこされたルシアはアワアワしながらも抵抗はしなかった。
「今日はもう遅いから寝るとしようか。これが、俺とルシアの初同衾ということでいいよね?」
同衾という言葉を聞いたルシアの顔が真っ赤に染まる。心なしか、いつもはピーンと立っている狐耳もパタパタと落ち着きなく動いていた。
「……ツクルにーはん……その……あの」
「ん? 何?」
何かを言い淀んでいるが、ルシアが言いたいことは大体分かっている。が、ちょっとだけ意地悪したくなったので、気が付かない振りをする。
「……その……あの……」
「ん? 何だい?」
「……エッチなことは絶対にしちゃいけまへんよ。したら、うち泣いてしまうかもしれまへんし。それで、ツクルにーはんがショック受けてまうかもしれへな思うと胸がしんどうなるんやわ~」
ルシアたん……カワエエェ……もう、それだけでお腹いっぱいです。大満足です。エッチなんてものは飾りだというのが、偉い人には分からんのですっ!
「分かってる。同衾とは一緒の寝床で寝ることだからね。エッチなことは無し。俺もルシアに嫌われたら生きていけないから、約束は守るよ」
ルシアをダブルサイズのフカフカのベッドに寝かすと、ちょっとだけ隙間を開けて背中あわせで俺もベッドに潜り込んだ。すると、ルシアが俺の背中に身体を寄せてきていた。
「ツクルにーはん……同衾は身体を寄せ合うもの。それに、うちはツクルにーはんの身体をギュッと、しとかなベッドから落ちてまうんやわ。だから、身体をギュッとさせてな」
「……いいよ。ちゃんと俺にしがみついといて」
背中全体にしがみついたルシアの温かさを感じていく。人の温かさというのは、かくも心地よいものなのかと思わせてくれた。
一人っ子で幼い時から仕事で忙しかった両親と一緒の布団で寝たことなど、数えるほどしかなく。人生の大半を独り寝で過ごしてきた俺にとってほとんど経験がなかったことだった。
「……ツクルにーはんが居てくれてよかった。おばーさんが亡くなってからの独り寝はほんまにさびしかったさかい……誰かと一緒に寝るのは楽しいわぁ~」
「俺で良かった?」
「ツクルにーはんで良かったです。それに、にーはんの匂いはえらい安心できて落ち着くんやわぁ」
抱きついていたルシアが俺の首筋の匂いをクンクンと嗅いでいた。
いつか忘れたが、『彼氏の匂いを嗅ぐと落ち着く理由』というネット記事に書かれていたことで、本当に彼氏を愛し、大切に思っている女性は、「彼氏の匂いなしではやっていけない」というくらいに、彼氏の匂いに愛着を示すそうだ。
『彼氏の匂いを嗅ぐと精神的に落ち着く』というくらいのレベルになると、自分のDNAが彼氏を伴侶として強く求めているという証拠だとも書かれていた。
女性は『この男性とだったら、自分の子孫をしっかり残すことができる』と本能的に察知しているようで、肉体的に免疫が強く、子孫を残すことができる力を持つ男性は、彼女に対して嫌な匂いを発することはないらしい。
なので、ルシアが俺の匂いを嗅いで安心できるというのは『自分の子孫を残すために、この男性が必要』と本能的感じ取って、自分のいるべき場所に戻ってきたような落ち着きを感じているのかもしれない。
「そう言ってもらえると、ありがたいね。俺もルシアの匂いは大好きだよ」
特に身体から発せらせるルシアの匂いは石鹸を使っていないのに、不快な匂いはなく、むしろ甘酸っぱい匂いがして癖になりそうな匂いだった。
いや、もうすでに癖になっている。というか、中毒化していると言って過言ではない。一日中嗅いでいいと言われればずっと嗅いでいられる匂いなのだ。
ちょっと変態チックになったが、それほどまでに好きな人の匂いは強烈な中毒性を獲得するのを、身を持って感じていた。
「嫌やわぁ……今日、沐浴したけどまだ匂ってはります?」
「とってもいい匂いがするよ。別に臭いってわけじゃない。とっても落ち着く匂いさ」
「ホンマに? 一週間以上、身体を綺麗にしてへんかったさかい、匂うとったらどうしましょう」
「ルシアの匂いだったら、むしろ凝縮された方が……」
「アカンどすぅ~! そんなんしたら、絶対にツクルにーはんに嫌われてしまいますよって」
ルシアがポカポカと背中をマッサージしてくれた。今日は畑の開墾もやったので少しばかり、腰も痛かったのでちょうどよい刺激であった。
「むぅ、残念……」
しばらく、ルシアが恥ずかしがってポカポカと背中を叩いてくれていたが、その心地よさが俺の眠気を誘って、そのまま眠りに落ちていった。
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