第29話 布団から何か生えた


 チチチ……チュン、チュン。


 鳥の声がさえずっているのが聞こえるが、瞼に朝の光が差し込んでいないことを思うと、今日は曇りなのかもしれない。


 朝だ……。今日で四日目か……何だか社畜仕事とゲームしているよりも充実した日々を送れているな。これが、リア充という生活かぁ……マジ、転生した俺は勝ち組。

 

 目を閉じたまま、ぼんやりと今日までのことを考えている。転生前は仕事と趣味に追われてあっという間に時間が過ぎ去っていたが、転生後は一日が長く濃く感じていた。これもルシアが一緒にいてくれているおかげだろう。


 さて、今日はハチとルリの装備や布系の衣服を作って、家の改築も始めるか。そのあと、近場の魔物でも狩ってこよう。今日も充実した日々を送れそうだ。


 本日の予定を決めたことで、目を開けると、目の前に白く艶めかしい太ももと革のパンティーが鎮座しておられた。


 ………………フォォオオオウゥンーーーーーー!? ルシアたんっ!! なんという寝相っ!! しかも、なんでズボンを脱いでおられるのでしょうかっ!! 嫌ぁああぁ! 尻尾まで出ていらっしゃるっ!


 はっ! 違いますっ!! 全国一千八百万のルシアたんファンの皆様! 餅つけ、いや落ち着きなさい! こらそこ、包丁を持つんじゃない! 冷静に考えろ! けして、俺は手を出していないっ! クールになれ、君達なら暴力が何の解決策にもならないのは分かるだろう。そうだ、いいぞ。包丁は地面に置いてくれ。グッド、君達とは良い関係が築けそうだ。


 ふにょん。ふにょん。


 下腹部につきたての大きなお餅のような感触が伝わってきた。恐る恐る、ふとももが生えている掛け布団をめくっていく。すると、その先には上着をはだけたルシアの胸が俺の下腹部に密着していた。


 フォオオッ!! ルシアたん!? なんで俺の足を抱いて寝てるのさっ!! しかも、ありえないくらいに胸がはだけているだなんて……。


 はぅ! 違う! 誤解だっ! みんな聞いてくれ! 俺は無実だ! こらそこ、バールとか金属バッドとか打撃武器は持ったらダメだ。そんな君等の姿をルシアたんが見たら嘆き悲しむぞ。そうだ、暴力は良くない。これは、事故だった。アーユーオッケー? よしよし、理解が早くて助かるよ。


「ふみゅう……ふあぁ…………」


 ルシアも目覚めたようだが、目が半開きのため、まだ寝ぼけていると思われた。しかも、布団をかぶってい寝ていてせいか、髪の毛がワシャワシャと寝癖だらけになっている。


 しばらく、寝ぼけているルシアを観察していたが、どうも俺の足を抱き枕と勘違いしてギュッと抱きしめているらしい。おかげで、白く艶めかしいふとももと可愛いお尻が俺の目の前に生えていたようだ。


「……非常に眼の毒……いや、眼福というべきか……でも、この状況では朝の狐耳のモフモフタイムが実施できないではないか……」


 ルシアの頭が俺の足側にあっては、朝の恒例儀式にしようと企んでいる狐耳のモフモフタイムが実施できないのだ。悲しい気持ちになった俺の目の前にフッサフサの毛に覆われた尻尾が左右に揺れて誘ってきていた。


 ……ちょっとだけ……先っぽだけなら……触ってもいいよね……


 揺れる尻尾に惑わされて、白い毛先の部分を軽く撫でてみた。フサフサの毛は触り心地が最高に良く、尻尾は別の意志を持っているようにビクンと跳ねあがった。


「ふあぁ……」


 一瞬、ルシアが目覚めそうになるが、再び寝息をたてはじめる。


 まだ、いける。


 悪戯をしているような気がしないでもないが、再び尻尾を触ってみる。今度は手櫛で毛を梳くように撫でてみた。ビクビクと尻尾が震えて反応を示していた。


 ……この触り心地……狐耳のモフモフもいいが、尻尾のフサフサも甲乙つけがたい……もう少しだけ撫でてみようか……。


「あふぅ……ツクルにーはん……そんなとこ触ったらあかんの……ふみゅぅ……あふぅ……」


 ルシアからの制止の声に思わずビクンと身体を震わせてしまったが、よくよくルシアの顔を覗くとまだ寝ている様子だった。


 ……もう少しだけ、触りたい。だが、これ以上触るのは非常にリスクが高い選択に思える。万が一、触っている最中にルシアが目覚めたら、絶対に怒って話をしてくれなくなるに違いない……それだけは、何としても避けなければ……。


 俺は考え抜いた結果、尻尾に触れるか触れないかギリギリのソフトタッチで尻尾を触ることにした。


 俺のソフトタッチに尻尾がビクビクしているじゃないかっ! なんというエロスっ!


「あ、あぅ……ふみゅぅ……ふあぁっ!! ふあぁぁあっ!! どないして、こないなことになってますのっ!」


 完全に目を覚ましたルシアが自分の状況を把握して驚いて叫んでいた。一方、俺はルシアが驚いて事態を把握するまでに尻尾から完全に手を離して事実の隠ぺい工作を行った。


「ふぁぁあぁっ! おはよう……なんだか、とっても素敵なお尻が、俺の目の前にあるんだけど……これは一体どしたものか……」


「ふぁっ! あかんの! ツクルにーはんっ! まだ、起きたらあかんのやわぁ!」


 ルシアが大慌てで飛び起きるといつの間にか脱いでいたズボンを履こうとしていた。慌てている様子で足が上手く裾の中に入らずにバランスを崩して転んでしまっていた。おかげで、可愛らしいお尻とフサフサの尻尾が丸見えになってしまっている。


「ルシア、大丈夫かい? 今ので怪我してない? とりあえず、目を閉じておくつもりだから、慌てないで服を着てくれ」


「怪我はしてまへん。ホンマに寝相悪くて、堪忍なぁ……あれだけ、昨日の夜にうちが言っとったのに、ツクルにーはんにあれだけふしだらな恰好で抱きつくだなんて……堪忍やわぁ~」


 ルシアは謝りながら衣服を整えていた。幸い、転倒での怪我はしていないようだ。


「いやあぁ、朝から素晴らしい光景で目覚めさせてもらったよ。今日は朝から俺のやる気が漲っているようだっ! うむ、眼福、眼福。脳内のルシアメモリーに永久保存完了」


「もぅ~、ツクルにーはんのいけず~」


 衣服を整えたルシアが、恥ずかしい恰好で自分が俺に抱きついていたことが、とても恥ずかしかったようで、ベッドで寝たままの俺のお腹をポコポコと叩いてきていた。だが、ルシアは俺が先に目覚めて尻尾に悪戯をしていたことを知らずにいる。


 少しばかり心苦しくもあったが朝から大量のルシア成分を吸収できたので、ヨシとしておこう。


「さぁて、俺も起きるとしよう。その前に恒例のモフモフタイムを……」


 顔を真っ赤にしてポコポコとお腹を叩いていたルシアの狐耳を優しくマッサージしてあげていく。尻尾ですでに大量のルシア成分を摂取していたが、ルシア中毒者である俺は過剰とも思える量を摂取しなければならなかったようだ。


「ひゃあぁ!? ツクルにーはん……あぅん、そこはあかんて……あぁ、優しすぎますからぁ……あぁ、いけず~。そこは弱いところなのぉ~」


 ベッドの縁で俺のお腹をポコポコしていたルシアに、不意打ちのモフモフタイム突入を告げて、大いにルシア成分を充足させていく。不意を打たれたルシアも嫌がる素振りは見せずに、狐耳のマッサージをウットリと受け入れてくれていた。


「ふぅ、モフモフタイム終了。さあ、今日も一日頑張ろうっ!! なんだか、やる気が漲るからちょっと作業してくるよ」


「うちもいっぱい、頑張りますぅ~。朝ご飯できたら、呼びにいきますわ」


「あいよ。それまでにお腹をいっぱいに空かしておくことにするよ」


 朝食の準備をするルシアと別れて、小屋の外に出た。

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