第37話 ピヨちゃんの秘密
日暮れ前に我が家に帰りつくと、ルシア専用の騎獣となったピヨちゃんにもう一度だけ、我が家でのルールを確認することにした。
「ここが、我がマイホームなのだが、ピヨちゃんに今一度、我が家でのルールを説明させてもらう」
ピヨヨ。
ピヨちゃんはルシアを地面に降ろし、ビシッと羽を器用に動かし敬礼をする。人語を解するのは実に楽でよい。この一点がなければ、怖くて飼えない魔物だが、意思の疎通ができれば、不幸な石化事故も未然に防げるだろう。
「よろしい。まず、基本的に畑を荒らさない」
ピヨ、ピョ!
大きくうなずき理解したことを告げてくる。
「二つ目、毒のブレス、石化ブレスを習得した際は俺か、ルシアに必ず申告すること」
ピヨヨ、ピヨ!
羽でドンと胸を叩いて『任せてくれ』とでも言いたそうにしている。
「三つ目、室内には出入り自由だが、物を破損した場合は俺に申し出ること。以上三点を守れるかい?」
ピヨヨ、ピヨ、ピョヨッヨ!
背筋を伸ばし、大きくうなずき『必ず守りますので、よろしくお願いします』と言いたそうにつぶらな瞳で俺を見つめてきていた。
くっそ、カワイイじゃねえか……実は俺もちょっとだけピヨちゃんに乗ってみたいんだぜ……ちくしょうめ。
「よろしい。ようこそ我が家へ」
「ピヨちゃん、良かったどすなぁ。これでうちと一緒に生活やわ~。ツクル兄はんは優しい人ですさかい、不便なことがあったら教えとくれやすね~」
ルシアはホワホワの産毛に覆われたピヨちゃんを抱きすくめると、頬ずりをしていた。
……抱き枕として一緒に寝ると言いだしかねないが……まぁ、俺もホワホワは嫌いじゃないぞ……ちょっとだけ添い寝させてくれ。
こうして、家に帰りついた俺達はルシアが夕食を作る時間までを自由時間として過ごすことにした。
ルシアは装備を着替えると、自らのお城であるキッチンスペースに陣取り、夕食の支度を始め、ルリとハチは装備を脱がしてもらい、二人でイチャイチャタイムに興じていた。その様子を見届けた俺はピヨちゃんを引き連れて、新たに手に入れた薬草類やハーブを植えるのと、畑の水やりを行った。
水やりの途中に、ピヨちゃんが植えていない畑を突きたそうに見つめるので、許可してあげると、ワームをほじくり出して自らの餌にしていた。
ピヨちゃんがワームをごっくんしてしばらくすると、口からボフンと白煙があがり、素材化した肥料がドロップされる。
……全自動肥料発生装置だな……コカトリスにこのような機能があったとは……ピヨちゃんマジ有能。
肥料は栽培により劣化していく畑の状態を回復させるアイテムであり、栽培をするに当たっては重要アイテムになっている。『クリエイト・ワールド』では、ワーム掘りが面倒で栽培を挫折したプレイヤーも多数に上ったとも囁かれていた。
ピヨちゃんにより肥料のストックを自動で行えることが判明し、畑の栽培ローテーションの目処が立った。
水やりを終えると、ピヨちゃんと共に作業スペースへ行き、ピヨちゃんの装備と広くなった屋敷の中を明るく照らすための灯火類を作ることにした。
「さて、ピヨちゃん。君にも装備を作ってあげようと思うのだが、とりあえず君はルシアの騎獣兼護衛ということでよろしいだろうか?」
ピヨヨ、ピヨピヨ!
そのつもりらしい。親であるルシアを全力で護りたい気持ちが前面に出ている。子供なのに見上げた根性だ。さすが、コカトリスだけのことはある。
「よろしい。ちなみに、ちょっとだけ君の羽毛を触ってもいいだろうか?」
ホワホワの産毛の魅力に抗えず、ちょっとだけ触らして欲しいと聞いてしまった。
ズビシュ!
ピヨちゃんの渾身のくちばしが俺の額を直撃していた。
「イデぇええ!! なぜっ! ルシアが良くて、俺が何でダメ! えこひいき反対!!」
ピヨオ! ピヨヨ!!
ピヨちゃんは身振り手振りで『女だから無理なの~』と言いたそうにしていた。
……女子……だと……馬鹿な……。そういえば、ルシアが卵云々とか言っていたな……そういうことだったのか……。
ピヨちゃんが雌だという衝撃事実が判明した。
女の子に男子がベタベタと触るのは頂けない……ピヨちゃんの怒りはもっともだ。だが、あのくちばしでの一撃はヒジョーに痛い。頭蓋骨に穴が開くかと思い、軽くトラウマになりかけている。
「……分かった。ノータッチ、オッケー! 穏便にいこうじゃないか。HAHAHA! ピヨちゃんが雌と判明したので、カワイイ装備を作ってあげよう」
ピヨヨ! ピヨオ!
とりあえず、カワイイ装備を作ることでピヨちゃんの機嫌の悪化は防げたようだ。作業台のメニューから装備を見繕っていく。
【革の騎乗鞍】……防御力+10 付属効果:一名騎乗可能 消費素材 なめし革:3 革ひも:2
【鉄のトサカ】……防御力+20 付属効果:なし 消費素材 鉄のインゴット:3 銅のインゴット:2
【鉄の脚絆】……攻撃力+30 付属効果:なし 消費素材 鉄のインゴット:2 銅のインゴット:2
ボフッ! ボフッ! ボフッ!
作業台の上に生成された装備が飛び出していた。飛び出てきた装備を見たピヨは飛び跳ねて喜んでくれているようだ。
ピヨロ! ピヨ!
「あーはいはい。とりあえず着けてあげよう」
ピヨちゃんは装備がかなり気に入ったようで、早く着させて欲しいと催促してくる。【鉄の脚絆】、【革の騎乗鞍】、【鉄のトサカ】と装着していく。
やべえ、何だこのラブリーな生物は……クッ、乗れるルシアが羨ましくなんかないんだからな……。
ピヨちゃんに乗れるルシアに羨ましさを覚えたが、くちばしで額を貫かれては命に関わるので、我慢することにした。
「う~ん、いいね。サイズもちょうどいいし、似合っているよ」
ピヨヨ、ピヨロオオ!!
ピヨちゃんも褒められて嬉しいようで、装備を付けた自分の姿を舐めるように見回していた。
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