第76話 ラッキースケベ特異日

「ツクルにーはん……イルファはんと何をされてますの……」


 泣き出すかと思ったルシアの眼に嫉妬の炎が揺らめいて見えた。絶対にイルファと何かしていたと勘違いしていると思われる。その後ろにはルシアよりも更に目立つ陽炎を纏ったピヨちゃんの姿まであった。


 ヤバイ……ルシアもヤバイがピヨちゃんはもっとヤバイ。俺の頭蓋骨に穴が開いて脳が漏れ出してします……。何とか言い訳しないと。


 風紀委員長であるピヨちゃんの姿を見たことで、頭蓋骨貫通の恐怖が頭をよぎった。


「ちが……ち……ちがうん……イルファが……やって……」


 必死で俺の肩口の傷から毒を吸い出していたイルファもルシアの姿を見つけると、唇を傷口から離してルシアに向って弁明の言葉を伝えようとした。


「ル……ルシア様……これ……ちが……あれ……アタシ……痺れ……」


 弁明の言葉を伝えようとしたイルファも口が上手く動かないようで、モゴモゴと口ごもっている。


 ファッーーーーーー!! イルファ、お前まで麻痺毒に犯されてどうする! 容疑者二人とも麻痺で口が聞けないと有罪判決がぁ!


 口ごもるイルファを見て、彼女も俺の毒を吸い出す際に麻痺毒に犯されたようで動きがぎこちなくなっていた。


「で、ツクルにーはんは、イルファはんと何をされてました?」


 ピヨ、ピピイ、ピヨ!


 近づいてきたルシアが砂漠に倒れ伏す俺の前で、腰に手を当てて仁王立ちになっていた。無論、ピヨちゃんも同じ格好で俺を見据えてきている。頭を貫かれたくない俺は必死に身体を動かし、大サソリに刺された傷をルシアに差し示した。


「こ……これ……見て……」


 ルシアの視線が肩口の傷に注がれていく。途端に蒼ざめた顔となって半狂乱となった。


「ひゃあぁあ!? ツクルにーはん! 死んだら、死んだらあかん。うちを残して死んだら絶対に嫌やわぁ!」


 必死で身体を動かして、インベントリ画面から瓶入りの『毒消し』を取り出す。『毒消し』を見つけたルシアがすぐさま瓶を手にした。


「これを飲ませればええんやね! 待っててなぁ! 今、うちが飲ませてあげますさかい!」


 瓶を開けて中身を口に含むと、俺の半開きの口の唇を重ね、毒消しを口移しで飲ませてくれてきた。


 ファッーーーーー! 二回目だけど、やべえぇえ! ルシアたんの唇柔らけぇえーーーー! いく、逝ってしまうぅのぉおお! これが天国というものか……カクリ。


 ルシアの口移しの『毒消し』のお陰で身体中を支配していた麻痺毒の効果は消え去り、身体中に力が漲り始めていた。長い口移しの『毒消し』の投与が終わると、ルシアが照れたように顔を真っ赤にしていた。俺も多分、顔は真っ赤に火照っていると思われる。


「あ、ありがとう。ルシアのおかげで助かった。実は、大サソリに刺されてね。イルファが毒を吸い出してくれていたんだ。おっと、イルファも解毒しないと」


 インベントリから『毒消し』を取り出して、痺れているイルファの飲ましてあげた。


「そ、そそ、そうだったんやね。うちはてっきり、イルファはんと……その……」


 ルシアは自分が大いなる勘違いをしていたことを恥ずかしがってスカートの裾を持ってモジモジとしている。おかげで、俺の眼にはルシアの白いパンツがチラチラと見え隠れしていた。


 むぅ、殺気を感じる!


 不意に後ろに殺気を感じたので、イルファの方へ身体を傾けた。ビュっという風切り音とともにピヨちゃんのくちばしが空を切る。


 ふふ、俺も遂に殺気を感じ取れるようになったか……これで、突かれることも…………むぅ?


 くちばしを避けるため身体を傾けた際に、手を付いたところが、妙に柔らかい弾力を発していた。視線を柔らかい弾力を発している手に向ける。そして、時が止まった。


「ツクル様……ルシア様の前でアタシの胸ば揉みよるとは……」


 ファッーーーーーーーーーーーーーー!! 今日に限ってなんでこんなにラッキースケベに遭遇するんじゃああぁああ! くそう、柔らけぇええ! おっぱいが柔らかいのぉおおお!

 

 手にしたイルファのおっぱいの柔らかさを確認するのが、止まらなかった。すると、今度はルシアが俺の手を取り、恥ずかし気な顔をして自分の胸に当ててくる。


「イルファはんだけズルいわぁ。うちのも確かめてくれまへんか?」


 そう言って、自らの胸に俺の手を押し当ててくる。


 俺は異次元ルートに侵入してしまったのだろうか……待て、この状況はマズい、非常にマズい。だが、ルシアたんのおっぱいからは手が放せないし、イルファのおっぱいから手を離すのも惜しい……。


 両手におっぱいの状態を維持しようと奮闘するも、俺の上に跨った巨大ひよこのくちばしが砂漠の厳しい日の光を反射して鈍く光を放っていた。


 あああぁ……両手は楽園……だが、目の前には地獄が待ち受けている……俺はどうすれば……。このまま、時が止まってくれるなら……。


 しかし、無情にも時は止まることはなく、ピヨちゃんのくちばしは俺の額を会心の一撃で貫いていった。


 ズビシュ。


「あんぎゃぁああぁぁあーーーーー!!」



 しばらくして目覚めると、出発前にピヨちゃんに搭載していた巨大ビーチパラソルもどきの下で、ルシアに膝枕されておでこに濡れたタオルを置かれていた。周りにはルリやハチ達も集まってきていた。


「目覚めはった。ピヨちゃんがえろう怒ってましてなぁ。うちがアカンよと言っても聞きしまへんのや。堪忍なぁ。ツクルにーはん以外のことはよく言うことを聞いてくれはるんだけど……」


 奥の方でプリプリと怒っている様子を見せるピヨちゃんを確認した。どうも、最近は反抗期を迎えているようで、俺に対する風当たりも強いが、ルシアには懐いている。しかし、俺のセクハラ行為に関しては譲れない物があるようで、ルシアの意見も聞く耳を持たないようだった。


 これはいかんな。今度、お風呂場でご機嫌を取らねば、俺の命が危ういぞ。よし、今夜あたりピヨちゃんに例のマッサージを施行しようか。


 ラッキースケベが連発したことで機嫌を悪くされたピヨちゃんのご機嫌取りもしなければならなかった。だが、その前にルシアたんのご機嫌取りもしておかないと明日からのルシア成分補充に齟齬をきたしてしまう可能性があるのだ。


「ピヨちゃんは今夜ご機嫌取りしておくよ。それよりも、ルシアが俺に嫉妬してくれたのが、凄い嬉しかった。それだけ、俺のことを好きでいてくれるなんて思ってなかったからさ。マジで嬉しいよ」


 膝枕されたまま、思ったことを素直にルシアに伝えてみた。すると、赤面したルシアがポコポコとお腹を叩き始めていく。


「ツクルにーはんのいけず~。うちがこんなに好きなのは知ってはるでしょ。でなきゃ、にーはんと同衾してまへんし、ご飯なんか作ってあげしまへんやんかー。もう、馬鹿、馬鹿」


 照れてお腹をポコポコと叩いてくるルシアはマジで天使のように可愛くて、何に変えても守り抜きたい一番の宝物だと実感することができた。


 ……絶対に俺が何とかしてこの世界を破滅から救ってやるからな。そうしたら、寿命が尽きるまで俺と一緒に暮らしていこうな……。


 俺はルシアに対して、異世界に転生して出会った運命の人との確信をさらに深めることとなった。彼女と寿命が尽きるまで暮らし続けるには、あの能無し女神が魔王から奪われたメンテナンス権を奪い返して、この世界を再構築していくしか道は残されていないのだ。

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