第10話 ビルダーと建造物破壊魔術
午前中に水路を開削することに成功したので、ルシアと昼食を取ると、今度は鉱物を掘り出すための【石のつるはし】の作成をしておかなければならなかった。
この【石のつるはし】が無いと鉱物系の素材を掘り出すことができず。鉄製の道具を生成できないので、序盤の最重要道具であった。
それと、ルシアのために魔術の発動体である【樫の杖】も作らねばならなかった。これを作ってあげれば、魔術師としてのルシアの強さが飛躍的に向上することは間違いなく、魔物に襲われても自衛が可能になると思われるので、優先的に作成することにしていたものだ。
まずは、【石のつるはし】を作成することにする。
石の作業台から表示されたメニューから【石のつるはし】を選択する。
【石のつるはし】……攻撃力+20 付属効果:鉄鉱石、銅鉱石、石炭の素材化可能 消費素材 石:5 棒:3
作成を選択すると、インベントリの素材が消費されて【石のつるはし】が生成された。とりあえず、大量に鉱石掘りをするので一〇本程度作っておく。
「よし、できた。これで【鉄鉱石】と【銅鉱石】が掘り出せるようになる」
「ひょえ~。つるはしもこないに簡単にでけるのどすか……」
相変わらず、ビルダーの道具生成はこの世界ではチート技術らしく、ルシアは驚いてばかりだった。
少し気になったので、自分の他にビルダーと呼ばれる職業の人がいるのかルシアに聞いてみた。
「ところで、ビルダーって存在はそんなに珍しいの?」
「へぇ、ビルダーちゅう職業はこの世界を根底から作り替えると言われてまして、魔王から狙われる存在と言われています。ビルダーを名乗る方が数百年前には何百名もいたと言われてますが、皆はん魔王軍によって滅ぼされてしもたそうどす。魔王政権下になった今は伝説の職業とまで言われていますね。だから、ツクルにーはんも職業のことは伏せられた方がよろしいかと思いますぅ」
ルシアによってビルダーという職業が現魔王政権下では、危険分子の扱いを受けると教えられた。やはり、ゲームと同じように世界を支配しているのは魔王で、ビルダーである俺は命を狙われる存在でもあるらしい。
これは、ルシアたんとのイチャラブ同棲生活を続けるためには、この辺鄙な土地に完全無欠の大城塞を築き上げて魔王軍に発見されても撃退できるようにせねばなるまい。
レベルアップして【転移ゲート】が作成できるようになれば、大陸各地に設置して移動がスムーズにできるようになる。そうなれば、城塞建設の資材も入手しやすくなると思われた。
「そ、そうなのか。とりあえず、街には近づかない方がいいね。大概の素材は俺が生成できるし、道具も作れるからね」
「それがよろしいかと。やけども、魔王軍も平和な時代が長く続いていて、かなり平和ボケしているって話です。討伐も野生の魔物を討伐する程度ですし」
「油断は禁物。どうしても足りない物が無い限りは街には近づかないよ」
「うちもこの服では街には入れへんし……見つかったら問答無用で撃ち殺されますよって……」
追放者であるルシアは死刑宣告を受けた身であり、不用意に街に近づくと衛兵によって殺害される危険性があった。彼女が着ている黒い服はその識別のために着せられている服であるそうだ。
俺はルシアをギュッと抱きしめて頭をポンポンと撫でてあげた。そして、ほんのちょっとだけ、ルシアのピンと張った狐耳をモフる。
「あっ……ツクルにーはん……まだ、
狐耳をモフられたルシアが身体を俺の方に預けていた。このまま、永遠にルシアの狐耳をモフってやりたいが、あまりやり過ぎては彼女の不興を買う可能性もあるので、断腸の思いで狐耳を弄るのをやめた。
「ルシアとずっと一緒にここで暮らせるように、どんな敵でも跳ね返せる場所にしてみせるさ。俺は伝説のビルダーだからね」
「ツクルにーはん……」
ルシアも狐耳をモフられるのが止まったことで、俺に体重をかけているのが恥ずかしくなったのか、身体を離していた。
はぁぁああ! ルシアたん……カワイイ……何というカワイイ人なのだろうか……病的だと笑われてもいい、もう俺はルシアたんだけしか見えないよ。
脳内のかなりの部分をルシアによって占領された俺は、彼女が喜ぶと思われる【樫の杖】を作成することにした。
【樫の杖】……魔力+20 魔防+20 付属効果:なし 消費素材 樫の古木:3
石の作業台にメニューに表示された【樫の杖】を選択する。
すぐさま、魔力の発動体の部分である頭が丸くなった【樫の杖】が生成されていた。
「この樫の杖をこないなに簡単に作られるなんて……普通なら、樫の古木を加工して三日三晩の徹夜の儀式を行ってからでないと、完成せん品物なんだけど……こないなにパッと簡単に作られると拍子抜けしますなぁ~」
「とりあえず、性能は同じはずだよ。試してみる?」
生成した樫の杖をルシアに手渡す。受け取ったルシアは試しに火炎の矢を地面に向けて放った。
ゴォオオウ!!
昨日見た火炎の矢より倍以上太い矢が飛び出して地面を黒焦げにしていた。火力的には倍以上の威力が出るようになっていた。
続いて、ルシアが別の魔術を詠唱し始めている。聞き慣れた火炎の矢の詠唱ではなかったので、不安が頭をよぎっていった。
雷光のような光がルシアの杖から発せられると、地面に命中して地表がえぐり取られてぽっかりと大きな穴が開いていた。
「……ルシア……まさか……建造物破壊の魔術使ったのかい!?」
まさかの事態に少しだけ声を荒げてしまったことで、ルシアが驚きビクリと身体震わせる。
「堪忍どす。怒らないでおくれやす~。うぅ……ちょいと試してみたかっただけですねん……そないに怒らなくてもいいじゃないですかぁ~。うぁあああん~~!!」
ヤバイ、泣かしてしまった。別にそんなに怒っている気はなかったのだが、ルシアには俺がかなり怒っていると取られてしまったようだ。
「違う、違う。怒ってないよ。ただ、急に違う魔術の威力を見せられてビックリしただけなんだ。ルシアを怒った訳じゃないよ」
「ふえぇぇえ~。うぅ、うぅ、うぐぅ。本当にどすか?」
瞳からポロポロと大粒の涙を流して泣いているルシアを見ていると、心にグサグサと棘が突き刺さっていく。
うぐぅ……ルシアたんは怒られると泣いちゃう子だったのか……これは早急にメモしておかねば……怒るの厳禁!! でも、泣き顔もカワイイぜ!! 畜生っ!!
「本当です。
「ホンマに怒ってへんどすか~?」
「ええ、でもできるなら建造物破壊の魔術のご使用は控えて頂けるとありがたいです。色々と壊れると修繕の手間ができるのでよろしくお願い申し上げます」
ひたすらに低姿勢になってルシアの協力を仰いでいく。予想したとおり、建造物破壊の魔術はこの世界を構築している構造物を消し去る力を持っているようで、大盤振る舞いに使いまくると、この世界の構造物が無くなってしまう可能性があった。
なので、俺的に建造物破壊の魔術は禁呪指定をさせてもらうことにした。
「ツクルにーはんが、そない言われはるんなら、建造物破壊の魔術は使いません。だから、追放だけは勘弁して欲しい。うちはここでツクルにーはんと一緒に暮らしていきたいんどす~。ホンマに堪忍どす~」
樫の杖を地面に置いて土下座を始めたルシアをゆっくりと立ち上がらせる。
「追放なんかしないさ。でも、共同生活のルールとしてさっきの魔術は使わないことを約束してくれるかい?」
「あっ、はい。絶対に約束は破りまへん」
ルシアはグシグシと涙で濡れた目元を拭う。その姿にドキドキしてしまった。
「よし、じゃあ、あの穴は俺が塞いでおくよ。塞ぎ終わったら、夕食の食材探しと鉱石掘りに行こうか」
「へぇ。調味料になりそうな物も見つけられるとええどすなぁ~」
機嫌が直ったルシアが素材収集の準備をしている間に、建造物破壊の魔術でえぐり取られた穴を土ブロックで埋めていった。
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