第80話 銃器・大砲MOD

 盾に着弾した火球は周囲に爆風と熱風をまき散らして拡がっていく。ルシアとピヨちゃんは盾の加護によって火球の効果を免れていた。


 ちぃ、当たらねえか……。まったく敵が見えねえのが、こんなにも面倒臭いとは思わなかったぜ。せめて巻き込めればいいと思ったが……やっぱり、クソゲー仕様だったな。


 音も匂いも姿も見えない敵との戦いは、完全に主導権をあちらに握られてしまっている。


「あぅ」


 イルファの鎧に敵の拳の痕が打ち込まれていく。痛みで苦悶表情が顔に浮かんで膝を地面に突いていた。


 埒があかねえ。こんなクソゲー仕様に合わせて付き合ってやる必要もないか……。幸い敵の攻撃力は俺達に致命傷を与えられるほどではない。先に全力で神像をぶっ壊すことにしよう。


 俺はイカレタ魔王が作ったダンジョンボスを無視して、イクリプスの力を取り戻すことに戦力を集中させることにした。


「みんな神像の前に走れ。先にアレをぶっ壊す」

「「「「おー」」」」


 みんなも考えたことは同じようで、ハチが飛ばされていた木槌を咥えると一目散に神像に向けて走り出していく。ルシアもピヨちゃんに跨るとタタタと駆け出して、イルファとルリも追随していった。


「貴様等! 我を無視するのか! おい! 戦え! 我はこのダンジョンのボスであるのだぞ! 無視するなっ!」

「あーはいはい。どこかの誰かが何か言ってるようだけど気のせいだな。みんな、とっとと神像壊しておうちに帰ろうぜ」


 あえて、ダンジョンボスを挑発するように完全無視を決め込む。匂いも、音も、姿も見えない奴は空気と一緒だ。殴られたら、痛いけどな。


 みんなも俺の意図を察したようで、見えない敵をdisり始めた。


「ツクル様。ここにはダンジョンボスなんておらへんがね。おいらはさっき出っ張りに躓いて転んでまった。ちょっとだけ痛かったけど、大したことにゃーで」

「ハチちゃんもおっちょこちょいね。あれだけ足元はちゃんと見てねって言ったのに転ぶなんてねー。それにしてもボスがいないなんてね。あたし、結構期待していたのに残念だわ」

「ルリもハチもそう言ってやるな。どうせ、強い俺達がきて殺されたくないから、ダンジョンのどっかに隠れてしょんべんちびってるんだろさ」

「ひゃぁ!? そら、大層こわがりさんのボスはんやね。前のダンジョンのボスもタマちゃんはえろう強かったのにね。ねぇ、タマちゃん」

「ワシとここのボスを同じにするニャ。どうせ、物陰から見て『やべえよ。こいつらと戦ったら僕、殺されちゃう』とか思って膝をガクガクさせてメソメソ泣いてる奴ニャ」

「タマちゃんは強うて、ラブリーで、カッコイイダンジョンボスやったもんね。アタシはそぎゃんボスが好いとるばい」


 神像の前に集まった俺達の罵詈雑言は、見えないダンジョンボスを憤慨させているようだが、見えないのでしかたあるまい。


 ドンと強い衝撃が来ると、背中に鈍い痛みが走るがグッと歯を食いしばって耐える。ハチから木槌を受け取ると、神像に向けて振りかぶった。


「馬鹿! やめろ! 我の守りし神像を壊すなっ!」


 振り下ろした木槌が神像に当たる寸前で何かに押し戻される。その瞬間を俺達は狙っていた。


「今だ! 罠に掛かった。敵は神像の前にいるぞ! ありったけの攻撃をぶち込めっ!!」


 イルファが大身槍を突き出すと、何も居ないと思われた空間に槍先が突き刺さり、青い血が漏れ出し始める。目印ができれば、後はこっちのものであり、ハチの猛毒の鉤爪の連撃を受けて毒状態にされ、ルリの紫電の金鎖によって身体を拘束され、氷の息で足元を凍らされ移動不可になり、ピヨちゃんの会心のくちばしを頭部と思われる箇所に受けるとパッと青い血が周囲に飛び散り、更にルシアとタマのダブル火球をその身に受けて炎上を始めた。

 

 鮮やかな連携攻撃の前に、ダンジョンボスは青い血に塗れ、ようやくその姿を俺達の前に現していた。


「馬鹿なっ! 我がぁ……我がこんな奴等にぃ……!!」


 明らかに瀕死の重傷に陥っているので、最後のトドメを刺してやることにした。星光の剣に付いたセレクターを光剣モードに切り替える。そして真銀製の剣身を引き抜くと、蒼い光を宿した剣が出てきた。


「スマンな。俺はルシアとの生活を護る為には手段は選ばん。さらばだ」


 蒼い炎を纏ったかのような光剣をダンジョンボスの頭頂部から一刀両断に斬り裂いていった。


「がぁあああぁあ。お前等、卑怯だぞ! 我を罠にはめるとはぁあああああああぁ!!」


 半分に斬り分けられたダンジョンボスは恨めしそうな眼で俺達を見ていたが、姿を出して戦っていれば相応の扱いをしてやったが、影に隠れて戦った奴に何を言われても負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。


「あーはいはい。みんな、ここのダンジョンボスはいなかった。それでいいね」

「「「「ですねー」」」」

「我を無視するなぁーーーーー!!」


 断末魔の叫びをあげていたダンジョンボスが消え去ると、改めて木槌で神像を破壊した。



「コングラチュレーション!! さすがツクル君ね。やっぱ、クソゲーマーにはゲーム馬鹿を宛がうに限るわね。あっ、痛い、なんで無言のチョップするの。あっ、あっ、痛いわ」


 神像を破壊したことでいつもの空間に呼び出されて、目の前に俺が一番、侮蔑してやまない上司であるイクリプスがいた。


 見目麗しい女性ではあり、転生の腕は最高級であるのは確認済みだが、致命的なほど管理者に向かないのが、俺の大事なルシアのいる世界を管理しているので、腹立ちを抑えきれない。


「もしかして、怒ってる? あっ、あっ、チョップに力入って結構痛いわよ。仕方なかったのよ。ツクル君が『激☆ルシアたん神聖帝国』なんて破廉恥な名前を入力するからぁ。あぅう、ほっぺた引っ張らないでぇー」


 これで三度目の邂逅であり、二度は世界の危機を救ってやったので、いいかげんこの無能上司に対して強気に出ることにした。


「まぁ、これぐらいで許しといてやる。国の名前は、あのまんまでいいぞ。ルシアがお前のことを気に入っているみたいだからな。さて、二個目クリアしたから、メンテナンス権はどれくらい返ってきた? それと、また変なMODの権限も引き継いでいるんだろ? ささっと白状した方が身のためだぞ」

「ひぃい。なんで、そんな強気なのよ。私は女神なのよ」


 ギロリとイクリプスを睨みつける。女神であり絶大な力をもつはずのイクリプスは小動物のようにビクンと震えて視線をはずす。


「『無能な』と冠名が付くがな」

「ひぃーん。ツクル君がグレた。せっかく転生させた子に苛められるなんて屈辱だわ」

「なら、有能さを示せ。そしたら、敬ってやる」

「ちょっと待ちなさい。私が有能だって見せてあげるわよ。今回のクリアでメンテナンス権は四割程度復旧したわね。私が寝ずにバグ取りに精を出せば……これで年は越せそうよ。よかったわね。イチャラブ生活延長決定よ。あぅ、無言チョップ止めなさい」


 四割か……あと幾つあるんだっけな……とりあえず、しばらくの時が稼げたということか……その間に次のダンジョン探しつつ、屋敷の改修を進めねば。


「それと、MODだけど『銃器MOD』、『大砲MOD』の使用権限が追加されたわね。銃器や大砲の製造が可能になるMODね。ユウヤもかなりイッてる」


 おいおい、『クリエイト・ワールド』に大砲とか銃器なんてなかったぞ。バリスタと連発式クロスボウが最大の飛び道具だったはず。マジかぁ、こんな危ないMOD入れるなよ。まさか、魔王軍持ってねえだろうな。そうなると、城壁の強度が怖いが……。クソ、もっと防衛力を上げないとオチオチ寝られねえ。


 イクリプスから伝えられたMODにより、新たに魔王軍に銃器や大砲の備えがある疑惑が浮かび上がってきた。修練のダンジョンを攻略している今現在、古の魔王が軍を率いて屋敷に攻め込んでくる可能性もゼロではない。


「マジかぁ。もっと、もっと強化しねえと……」

「さて、伝えることは伝えたから、私はバグ取りに勤しむわよ」

「ああ、過労死してもいいから、寝ずに頑張れ。とりあえず、ルシアがお前の神像を欲しいと言っていたから、庭にでも聖堂立ててやるよ。とりあえず、お供えはルシアの料理な」

「ほ、ほんとに! それなら、あと十年は寝ずに戦える! 期待してるからちゃんと作ってね!」

「ああ」


 そういうと、いつもの如く、意識が遠のいていった。

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