第40話 クリエイト・ワールド
夕食を終えてルシアが後片付けを終え、コットンパジャマ姿に着替えて寝室にやってきた。すでにルリとハチはたらふくソーセージと汁物を平らげて、自室に帰り二人の仲よく熟睡中だった。
俺は寝間着代わりの作務衣に着替えると、ピヨちゃんの装備を外して床に置いておいた。
ルシアのお願い攻撃に負け、ピヨちゃんは俺達の寝室でルシアの抱き枕候補としてベッド横で眠るそうだ。
万が一、俺が寝ている反対側にすごく寝相が悪いルシアがベッドから落ちそうになっても、ピヨちゃんの上に落ちる予定なので一応安心だ。
「ツクルにーはん。今日はピヨちゃんを仲間にいれてくれておおきにね。うち、きっとピヨちゃんを立派なコカトリスに育て上げてみせますわ。色々と迷惑をかけるかもしれへんけどお願いしますぅ~」
ベッドの上で三つ指を付いて頭を下げたルシアにおもわず俺も正座をしてしまった。
しかし、ルシアたんピヨちゃんを立派なコカトリスに成長させてしまうと、毒のブレスや石化ブレスの恐怖に苛まれてしまうのだよ。それにコカトリスはひじょーにイカツイ顔立ちになってしまうのだ。ピヨちゃんのそのラブリーな姿は今だけなのだよ……。
成長して大人になると巨大なニワトリ身体と大蛇の尻尾を持つコカトリスなので、今のピヨちゃんの愛くるしい姿がいつまで続くのかは俺にも分からなかった。
こんなことなら、先に魔物育成系をコンプリートしておくべきだった。時間さえあれば、『クリエイト・ワールド』をやり込みつくしてから転生できたのに……。ストーリーモードをクリアするのを優先しすぎたか……。畜生、あの従業員軟禁会社にさえ就職していなければ、存分にゲームにのめり込める時間を取れたはずなのに……。
『クリエイト・ワールド』を模していると、思われるこの世界で中途半端な知識しか持ち合わせていない自分に苛立ちを覚える。数々のゲームをやり尽してきたゲーマーとしては、知らない知識があるのはやり込み型ゲーマーの矜持が傷つく。だが、転生してしまっているので、この世界は『クリエイト・ワールド』に似た世界だが、『クリエイト・ワールド』ではない。下手を打てば、自らの命だけではなく、ルシアを含めた家族達の命も危険に晒すことになるので、興味本位での知識収集は戒めておかねばならなかった。
「ピヨちゃんもカワイイし、人語を理解してくれるから俺としてはこのままでもいいかなぁ~とか思ったり」
「あきまへんっ! ご両親のいーひんピヨちゃんの親代わりとして立派なコカトリスに育て、ツクルにーはんが作られるこのお家の一員として恥ずかしゅうあらへん魔物にしないとあかんのやわ!」
下げていた頭を上げたルシアは、ピヨちゃんに母性を呼び覚ませられたのか、転生前の世界にいたような教育ママぶりを発揮していた。
……すでにフェンリルとヘルハウンドが住み着いているこの屋敷に、立派なコカトリスまで住むとなれば、知らない人が見たら、『どこの魔王城だよ』と突っ込まれそうな気がするぞ。後は、ドラゴンが住み着けば、魔物四天王が完成だ。『奴は四天王で最弱の……』とハチ辺りが言いだしかねない。
だが、万が一ルシアがドラゴンを飼いたいと言いだしたら、今度は俺の騎獣として相棒になってもらうことにしよう。
「わかりました。ルシアがきちっとピヨちゃんを育ててね。育児の予行演習だと思ってしっかりと頼むよ。そうだな。子供は三人くらいで女の子、男の子、女の子がいいぞ。みんなルシアの血を引いているから美男美女になるはずだ。そうそう、女の子には『絶対にパパと結婚するんだ』って言ってもらえると嬉しいし、男の子とはキャッチボールをしてやりたい。あー、一緒に風呂に入って洗いっこもしてみたいなぁ。俺、してもらったことないし、子供には絶対にしてあげたいぞ」
ルシアたんとの子供か……絶対にカワイイ子が生まれるんだろうな。家族かぁ……いいなぁ。
ルシアの両肩をポンと手をおくと、ボフッという音がしそうなほどの早さでルシアの顔が真っ赤に染まった。
「い、育児だなんてぇええええ……うちとツクルにーはんとの子供は、まだ早い思うさかい……もうっ! ツクルにーはんのいけず~。うちは先に寝るさかい、おやすみです~」
真っ赤になったルシアが恥ずかしさに耐えられなかったのか、布団を被るとそそくさと横になってしまった。
照れているルシアたんは非常に可愛くて、俺のハートがキュンキュンと疼いてしまう。転生した一番の喜びはゲーム世界に浸れることじゃなく、ルシアという女性に出会えたことだろう。
布団を被って隠れてしまったルシアにおやすみの挨拶をした。
「おやすみ。ルシア、ピヨちゃん」
そして、ローソクの火を消すと俺も布団の中に潜って身体を横たえた。
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