第41話 頭上の凶器

 チチチ……チュン、チュン……チチチ。


 新しい朝が、新しい屋敷で初めてやってきた。崖を削って作った寝室には、ガラス製の天窓から朝の眩しい光が差し込んで朝が来たのを告げていた。


 ふにょん、ふにょん。


 寝相の悪いルシアが、昨日より更に危ない恰好で足にしがみついていた。純白のコットンパジャマに着替えたことで、とてもいいところのお嬢様っぽい感じが増している。だが、相変わらず理由は不明だがお尻が捲れて尻尾が飛び出し、右に左にユラユラと揺れて触ってくれと誘惑をしていた。


 ……今日も素敵なお尻をありがとうございます。今日も尻尾のフサフサを堪能させてもらいます。


 両手で合掌すると、左右に揺れている尻尾に手櫛でサーっと柔らかく梳いていく。引っ掛かりなく、スーッと梳かれ至極の感触が指先を楽しませてくれる。


「ふぁうん……おばーはん……尻尾の手入れは自分でやりますよって……あ、うぅん……」


 ふみゅ、ふみゅと寝ぼけながら悶えるルシアを見ていると、もう少しだけ悪戯をしたい気になる。両手でフサフサの尻尾を揉み揉みしてみた。ビクンと身体を震わせたルシアが艶めかしい吐息をもらしていた。


「あ、あうう。おばーはん、そんなに揉んだらあかんのよ~……ふみゅ」


 おうおう、俺のハンドマッサージに反応してくれるとは……ええのぅ、サイコーだぜ。


 ズビシュ。


「ひぎゃああっ!!」


 ルシアの尻尾を弄んで楽しんでいた俺の額に、突起物が突き刺さったような激痛が突き抜けていた。


 ピヨ……ピヨヨ。


 俺の額を貫いたのはピヨちゃんのくちばしであった。彼女も非常に寝相が悪いらしく、床で寝ていたと思ったが、今はベッドの上で丸まって寝ていたようだ。


「なんですのぉ……ピヨちゃん、まだ、朝じゃ有りまへんよ……ふぁ」


 うつら、うつらとしているピヨちゃんのくちばしが、再び俺の額に向けて落ちてくる。


 ファッーーーーーー。らめっぇえええ!! あのくちばしで貫くのはらめぇええ。


 咄嗟に首をひねり、頭上からの凶器の落下をかわす。


 ズビシュ。


 ピヨちゃんのくちばしを紙一重で避けると、くちばしは誰もいなくなった枕の上を貫いた。


 あ、あぶねえ。あんなのを喰らったら、頭蓋骨が粉砕骨折してしまう。だが、ピヨちゃんを起こすと、せっかくのルシアの尻尾モフモフタイムが終了してしまうじゃねえか……。クッ、まだ触り足りねえ……。


 ルシアの尻尾を弄り倒す誘惑に囚われて、頭上から落下するピヨちゃんのくちばしを避けつつ、堪能することを決意した。


 フワフワの尻尾に手を入れると、柔らかく反発するルシアの毛並みを堪能していく。


 ああぁ、これだ。俺が求めていた癒しはこれなんだよ。ルシアたんの尻尾最強だぜ……ああぁ、俺このまま死んでもいいぜ……。


「はぁ、はぁ……おばーはん……そない激しく触ったらあかんえー……うぅん」


 俺の足の間で、もぞもぞと動くルシアの胸が、ふとももにふにょん、ふにょんと柔らかな刺激を送り込んできていた。


 ファッーーーーー!!! ルシアたんっ!! この感触はイカンよ!! 実にけしからん!! あぁ、これが天国という場所か!!


 フサフサの尻尾と、おっぱいの感触を堪能していた俺の注意力は、太ももと指先に集中していて、頭上から迫るピヨちゃんの凶器の存在を忘れ去っていた。


 ズビシュっ!!


 会心の一撃が俺の脳天を貫くと、激痛の余りに悲鳴を上げてしまっていた。


「ひぎゃああああぁああぁっ!!」

「ふあ!? あ、あああっ~~。 ピヨちゃん? ツクルにーはん? ああぁ、ツクルにーはんのおでこから血が出ておますよ」


 悲鳴で目が覚めたルシアが眠たそうな眼を擦って、俺のおでこを撫でてくれていた。心配そうに俺のおでこを撫でるルシアのコットンパジャマからは、はだけた胸元が視線に飛び込んできていた。


 ファッーーーーーーーーーーーーー!! ルシアたんっ!! おっぱいっ! おっぱいしまって!! ラメェエエ!! 某はエッチなしのお約束をしている身の上。だが、そんな危険な恰好をしては行けませぬーーーーー!!


「あー、ルシア君大丈夫だ。どうやらピヨちゃんが寝ぼけて俺を突いていたようだ」

「そうどすかぁ? ピヨちゃん、ツクルにーはんの額を突いちゃいけまへんえ~」


 ルシアが、目覚めたピヨちゃんのほっぺたをツンツンして、注意をしていた。ピヨちゃんは『あたし、そんなことしたのかしら?』とでも言いたそうに、小首を傾げてルシアと俺を交互につぶらな瞳で眺めていた。


 うぐぅ、そんなにカワイイ顔を見せられると叱れないじゃないか……くそう、小悪魔ピヨちゃんめ……可愛いぞ。


「ピヨちゃんもワザとじゃないから怒れないよ。さて、起きようか。ルシアは朝ご飯よろしく。ピヨちゃんは朝の畑仕事を命じます」

「はぁ~い」


 ピヨ、ピヨヨ。


 二人とも身支度をすると、ベッドから降りてそれぞれやるべきことをするために寝室を出ていった。ベッドに残された俺はたんこぶになりかけていた額をさすると、本日予定している防壁改修工事の下準備をすることにした。

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