第48話 ぶら下がる美女

 ツクル視点


 俺を先頭に目的の物を手に入れて、ようやく我が家が見え始めてきた時に、午前中に仕込んだ罠が発動している様子が見て取れた。どうやら。俺達が留守をしていた間に空き巣狙いで我が家に近づいた愚か者達がたくさんいたようだ。防壁の周りにたくさんの素材化した【ゴブリンの骨】や【コボルド銀】が散乱しているのをあまりルシアには見せたくなかった。


 今回倒された魔物達は狩猟によって倒された魔物ではなく、俺が仕掛けたトラップに引っ掛かって全滅させた魔物達であるので、男として愛するルシアにはカッコイイ戦士のようにタイマンで敵を倒す姿を見て欲しい。だから、陰湿なトラップマスターであることはできるだけ知られたくないのは俺のわがままであろう。しかし、知られたくない物は知られたくないのだ。『ツクルにーはん、かっこええどすなぁ~』と言ってもらえる男でありたいと思うと同時に、心血注いで作り上げる我が家を魔物共に荒らされるのは心外であるため、トラップ設置はどうしても必要な措置であった。


「ごめん、庭園の手入れをしないといけなくなったようだ。昼も言ったとおり、防壁の外の庭園弄りは俺の趣味だから、ルシア達は先に戻っていてくれていいよ」


「そうどすかぁ~、なら、先に戻ってお夕飯の支度して待ってますよってに、日が沈む前に帰ってきておくれやす~」


 ニコニコと返事をしたルシアは、新しく手に入れた食材を調理したくてウズウズしているらしく、ピヨちゃん達とともに足早に屋敷に戻っていった。


 よし、ルシアの気は完全に調理に向けられていたようだ。俺が死の庭園を造ったことには気づいていないはず。


 笑顔でルシアを見送ると、素材収集と罠の再セットを開始していく。留守宅を狙った敵はゴブリンとコボルトの集団らしく、落とし穴や飛び出る鉄杭、虎ばさみに見事に引っ掛かって命を散らしていた。数を数えてみると【ゴブリンの骨】が一〇〇個、【コボルト銀】が五〇個ほど散乱しており、雑魚とはいえ結構な魔物の集団であったものと推察された。


 罠を再セットするさいに新たに死の花畑の一部の落とし穴を【溶岩】仕様に改修し、与えるダメージを大幅に増量することに成功していた。


 庭園の改修作業を終えると、とりあえず林の中も巡回しておく。残敵に備えて失った鉄の剣の代わりに木こり斧を装備して林に歩を進めていった。


 林の中に入ると、こちらに逃げ込んだと思われる魔物達が括り縄に引っ掛かって逆さ吊りにされて死んだようで、発動した罠と地面に幾つも素材が転がっていた。


「助けて!! 誰かいまっせんかぁっ!! 罠にかかって死にそうと。お願いやけん誰か助けて!!」


 林の奥の方で女性が必死に助けを求める声が聞こえてきていた。『クリエイト・ワールド』の開始地点はゲーム世界の中でも僻地中の僻地から始まるはずであり、その世界を模しているはずのこの世界でも、我が家は世界の果てのそのまた果てであるはずであった。


 しかし、思ったとおり僻地であろうが、人が訪れる可能性が皆無ではなく、現に街を追放されたルシア以外にもこの辺りを訪れる人が存在していた。


 俺にとって第二現地人となる助けを求める女性の声がする方へ駆け出していった。



「ああっ!! そこん青年ば良かところに来てくれた。済まんが罠にかかってしもうたごたって、助けてくるっなら、恩賞ば弾むぞ。こう見えてんアタシは由緒正しか家の令嬢ばい」


 括り縄に引っ掛かり逆さ吊りにされた黒髪で露出度の高い衣服を着た女性が助けを求めてきていた。長い艶やかな黒髪が逆立ち、長い間逆さづりにされた顔は紅潮していかにも苦しそうに表情をしているが、それを助長している原因の物体が異常なほどの存在感を発揮して女性の顔を圧迫していた。


 餅つけ……いや、落ち着け、俺。あんなものがこの世界に存在してはいけないのだ。あれは幻なんだ。そうだ。そうに違いない。いけない、いけない。今日はとても寝不足のようだ。幻覚が見えている。


 目をゴシゴシとこすると、くるりと女性に背を向けて我が家に帰ろうとする。


「待ちなっせ。こぎゃんカワイイ女性ば逆さづりにしたまま、放置するつもりと。アタシにはぬしがゴブリンやコボルト達に巻き込まれて罠に掛かった可哀想な美少女ば見捨てる男とは思えん。お願いやけん、助けて!!」


 背を向けて去ろうとする俺を、逆さ吊りにされた巨乳美女が必死に助けを求めてきていた。どうも、ゴブリンとコボルト達に巻き込まれて罠に引っ掛かってしまった現地の人のようで、喋っている言葉はどこの方言かイマイチよく分からないがどうしても助けて欲しいらしい。


 と、とりあえず。助けるだけ、助けるか……ルシア以外の貴重な現地人だし、この世界のことをもう少し詳しく聞き出してみるのもいいな。今のところは『クリエイト・ワールド』とほぼ同じ流れできているが、今後も同じとは限らない。情報は幾らでもあった方がいいな。


 助けることを決めたので、彼女の足を吊り上げている縄を結んだ木の根元に行くと縛ってある縄を解いてあげた。

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