第89話 第二次改装完了
仮眠を取ると、崖の上に向い水源の近くにきていた住人が増えたことで、住居不足になることを見越してダイニングとキッチンをこの場所に移設することにした。キッチンスペース用の石造りの水路を作り、汚れた排水は専用水路を通って防壁外に作った沈殿池に溜まるようになっていた。ルシアの居城であるキッチンスペースはバージョンアップを遂げており、冷蔵庫が三つに増え、食器棚や調理器具も種類が増えて備え付けられていた。更にレンガのかまども三つに増え、石窯の設置もしており、料理の幅が拡がるためルシアたんが喜ぶ顔が目に見えていた。最近では兎人族の奥様達がルシアから料理を習おうと食事の準備をお手伝いしているため、キッチンスペースは倍増させてゆったりと料理ができるようにしてあった。
ダイニングはラストサン砦にあった兵士達の食堂で使用されていた長机を繋げてならべ、数十人が一緒に食べられるようにしたのと、食事の前の礼拝をしやすいようにイクリプスの神像を設置しておいた。燭台やシャンデリアで室内は明るくするとともに、大き目のガラス窓を設置しておいた。暖炉も今まで通りに設置してある。これで、住民全員が揃って美味しくルシアの作った食事を楽しめる素敵ダイニングに早変わりしている。そして、お手洗いは八個に増設して、それぞれ個室としてあり、排水は専用水路を掘り抜いたことで農地の近くに作った肥溜めに集まるように作り直しておいた。新しく作り直したキッチンとダイニングを作り終えたので、俺とルシアたんの愛の巣である寝室を崖の上側に移動させ、大き目のガラス窓と天窓を設置して解放感ある寝室として作り直して、窓の外に見えるように作った小さめの庭園に花を植えておいた。
続いて、旧ダイニングと旧キッチンは個室に作り直すことにした。旧ダイニングとキッチンを十畳程度の個室に区切り一〇部屋作り、そのまま二階を同じように作って廊下を階段で繋いでいった。これで個室が二十五部屋でき、内装はベッドとタンス、サイドテーブルといった物はラストサン砦の物を流用して作らせてもらっていた。これで、個室は完成し各人が練れる場所をが確保することができていた。最後に新しく作ったダイニングに繋がる通路を旧屋敷の二階部分と直結させることで導線を確保することになった。
これにより、屋敷の改装を終え、外で作業していた住民達を呼び集めてそれぞれに新しくなった場所を説明していった。個室はくじ引きで割り当てを決められていき、部屋を見た女性や有翼人の子供達は大いに喜んでいた。
「ツクルおじさん……こんないい部屋を俺達がつかっていいの?」
「小僧! ツクルおじさんじゃないぞ。『お兄さん』だ」
「あっ、ごめんなさい。ツクルお兄さん、本当にいいの?」
「ああ、お前等が自由に使っていいぞ。ただし、飲食と火の取り扱いは禁止するからね。冬までには全室暖房を入れるし、三度の食事はダイニングでみんな一緒に食べようと思っている」
住民となる女性達からはわっと歓声があがった。彼女達もすでにルシアの食事の虜となっており、三度の食事がルシアから提供されることになったことを知り喜んでいた。
イルファ達が砦から保護した女性達は、一〇代~三〇代の女性達で先のラストサン砦の徴発によって砦に連れてこられた者達のうち、身寄りのない者で行く当てがなく、我が家に住人として迎え入れることになった人達も『働かざる者喰うべからず』の国是の元、農作業や綿花からの糸より、そして織機にて反物の生産も始めてくれていた。俺みたいなデタラメビルダーの力でなく、みんな自身の力で織布を織ったり糸を紡いでくれていた。
おかげで織機や糸車を量産して、作業スペースの隣に織布小屋を新たに作り地道に生産をしてもらっていた。綿の織布は色々と用途が多いので在庫があることに越したことはなかった。
一方ルシアにも新しくなったキッチンスペースを見せると、キラキラと目を輝かせて満面の笑みを浮かべていた。特に石窯を気に入ってくれたようで、狐耳がピコピコと小刻みに揺れ、尻尾もパタパタと左右に揺れて全身で喜びを現わしていた。
めちゃくちゃルシアたんが喜んでるなぁ……今度はどんな調理器具を贈ろうか……ミキサーとか圧力鍋とか贈ったら喜んでくれるかな……。
ルシアは宝石も好きだし、お花も好きな女子だが、それ以上に大好きなのは調理器具なので、作業台で作れる調理器具を色々と作って渡す度に驚きながらもとても喜んでくれていた。
「ツクルにーはん!! 石窯!! 石窯だなんてうちのおばーはんでも持ってなかったんよー。これをうちが使ってええの? 美味しいパンとかピザとか作れちゃいますよ」
「我が家の料理長様へのプレゼントですから、遠慮なく受け取ってみんなに美味しいご飯を振る舞っていただけるとありがたいです」
「にーはん……」
喜び過ぎたルシアが俺の胸にぶつかるように飛び込んできた。飛び込んだことによる衝撃は、大きな胸のエアバックにて緩和され、彼女を抱きしめるとほのかに甘く心地よいルシアの匂いが俺の鼻孔をくすぐっていった。
最近はルシアの方から人目を憚らずに抱きついてきたり、お風呂で背中を流してかいがいしく世話を焼いてくれている。それも、イルファがタマとイチャイチャしてるのを見ているからかもしれない。その二人の姿を見ているルシアも積極的に俺とのスキンシップを求めてきていた。
ルシアたん……俺はルシアたんがいれば他には何もいらないよ。できれば、耳マッサージと尻尾梳きは俺の仕事として毎日させてもらいたいし、その先も求めたい。そのためにはこの世界を救わないといけないから、俺は全能力を使い切ってこの世界を救ってみせる。俺は君と死ぬまで一緒に暮らしていきたいんだ。
「ツクルにーはん……うちとずっと一緒にいてな……」
「ああ、ずっと一緒にいる」
二人でギュッと抱き合うと心の奥がポッと温かくなっていく。俺自身が今までに誰かと一緒に居たいと思って生きてこなかった。両親は物心ついた時から仕事で忙しくしており、ゲームだけが俺の友達だった。一人で飯を喰い、ひたすらにゲームに没頭していた日々を思うと、今ルシア達と暮らしている日々の眩しさを感じている。
育ててくれた両親には悪いが、俺はこっちの世界が楽しくてしょうがない。綺麗な狐娘の婚約者とゆかいな仲間達に囲まれて暮らす日常は何物にも代えがたい。だが、この生活を守るためには魔王の設置した修練のダンジョンをクリアしていかねばならないのであった。それに、魔王軍もそろそろ俺達の動きを察知しているようにも思える。
「んんっ! ツクル様……ピヨちゃんが後ろで睨んでおりますが」
ルリが抱き合っている俺達に咳ばらいをして風紀委員長の存在を伝えてきた。
「ツクルにーはんがピヨちゃんに突かれてしまいはるから、これくらいにしときましょうかね。さぁ、夕食の支度をしないと」
ルシアが俺から離れると、真新しいキッチンスペースに戻って、割烹着を装着して夕食の準備を始めていった。そして、後ろを振り向くとピヨちゃんが不機嫌そうな顔をしていたので、必殺のブラッシングアタックをきめていくことにした。
こうして、我が家は新たな住人を受け入れることで屋敷が大きくなり、その防衛力も生産力も増していくことになった。
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