第88話 戦後処理

 

 ラストサン砦の連中を殲滅した戦いから一夜明けると、門番君シリーズと鉄人形隊によって屋敷周辺は綺麗に整備し直されていた。その際、戦利品として彼らの所持品や装備品、そして死亡時にドロップする素材まで庭園整備の傍ら、鉄人形隊が庭に集めてくれていた。


 武具は鋳つぶして金属インゴットにして、所持品は主に財貨か……フェンチネルでの開業資金と使わせてもらおうか、それとも難民救済の資金とするべきか……。まぁ、これは保留しておこう。あとはドロップされた素材は素材ボックスの肥やしとして、何か必要あれば使うとしよう。


 庭にうず高く積み上げられた戦利品の数々を見ながら、今後のことを考えていく。


 とりあえず、空っぽになったラストサン砦をあのまま残しておけば、我が家に侵攻される時の補給拠点として使用される可能性があるので、徹底的に素材化して更地に変える予定にしていた。そして、新たに住人となった有翼族の子供や砦に捕らえられていて、頼る先の無い保護した人達の住む場所も考えなければならない。


 いっぱいやることがあるな……。早急にラストサン砦を解体、素材化して物資を調達しないとね。


 ルシアの作ってくれた夜食を食べて、少しだけ仮眠をすると、ハチを連れてラストサン砦に繋がる転移ゲートを起動させ、砦に転移した。



「本当に誰もいなくなったね。数十名は残ってはずだけど……」

「まぁ、イルファさんとルリちゃんとピヨちゃんが滅茶苦茶に激怒してたから……おいらは雄として肩身が狭かったがね」


 残党が襲ってくる可能性は皆無だが、ハチを解体作業中の見張り要員として連れてきていた。ハチによると、この砦を解放する際にうちの女性陣が大激怒して大立ち回りを行ったようだ。

 

 我が家は女性上位なのがスタンダートである。唯一、タマだけがオラオラ君だが、あいつも実はイルファにぞっこんなんで、大きいくくりでみると女性上位者の仲間である。なので、風紀委員長を始めとした女性陣を怒らせることは我が家では死を意味することなので、十分に公序良俗を堅持して身持ちを固くしていきたいと思っている次第だ。


 けど、ルシアたんとは婚約者だからモフモフしたり、クンクンしたり、ギュッとしたりしてもそれは怒られないんだぜ。ムハッーー! ルシアたん、マジ天使!


「ツクル様、心の声が漏れてますって。おいらだけだからいいけど、ピヨちゃんに聞かれたら脳天をぶちまけることになるがね」

「おっと、いけない。男同士ということで心のガードが緩んでしまったようだ」


 ハチがジト目でこちらをみてくるので、お返しに少しからかってやることにした。


「ハチこそ、ルリとは夫婦なんだから、もっとイチャイチャしちゃいなよ。別に四六時中イチャイチャしても俺はかまわないぜ」

「おいら達は、仕事中は真面目にって約束してるんだがね。そーしんとルリちゃんがめちゃくちゃ怒るんだわ」


 ハチは照れている様子だが、ルリとはお互いにキッチリと仕事をしてからイチャイチャタイムをするように言い含められているらしい。真面目なルリらしい考えである。


 たまには仕事中でもイチャイチャしていいんだぜ。そうしないと俺もルシアとイチャイチャしにくいじゃないか。


 そんなことを思いながらも、無理に強要することはパワハラになるので、ここでは黙っておくことにした。


「分かった。分かった。じゃあ、この話はやめて仕事に取りかかるか。ハチは周辺を警戒して何かあったら、教えてくれ」

「分かったがね。じゃあ、その辺を散歩がてら偵察しとるでね」


 タタッと走り去ったハチを見送ると、砦の解体に取りかかった。まずは城壁から解体していき、【石造りの壁】を大量にゲットしていく。石材は火に強いので建物の建材として大量に使用する予定なので、生成する手間が省けて助かる。他にも【門の巻き上げ器】や【鉄の城門】、【跳ね橋】、【物見台】、【格子窓】などが手に入った。危惧していた火砲の類はこの砦には実装されておらず、ほっと安堵の息をついた。


 城壁を解体し終えると、続いて牢獄を解体する。砦の連中はここに捕らえてきた女性達を閉じ込めていたらしい。とりあえず、サクっと解体していくと、【鉄格子】、【手鎖】、【足枷】、【手枷】、【拷問器具セット】などが手に入ったが、使用することなく素材収集箱の肥やしとなるであろうと思われた。続いて宝物庫を解体していくと貴金属や宝石といった財貨以外に【装飾宝箱】、【魔結晶】、【魂石】、【呪器】、【白紙の羊皮紙】等を大量にゲットすることに成功していた。おかげで、門番君シリーズの新型機や鉄人形隊の拡充もはかれる。


 たっぷりと周りの村から徴発した財貨で潤っていやがるな。レア素材だけは対価を支払うことで使わせてもらって、宝石や貴金属は難民達の救済資金としてストックするべきだ。元々、この財貨はこの地域に住んでいた者達の物であり、俺が懐に入れていい物ではないのだ。


 宝物庫を解体し終えると、残ったのは兵舎と連なって作られていた司令官室だった。その二つも解体していくと【豪華な革椅子】、【応接セット】、【武器棚】、【防具掛け】、【通信結晶】、【簡易ベッド】、【魔導発電機】などが手に入った。そして空堀を埋め戻し終えると、ラストサン砦は綺麗さっぱりと地上から消え去っていた。


 これで、屋敷まで進軍するにも無人地帯になった街道を進み、霧の大森林を抜けてこないといけなくなった。これは、魔王軍の補給線が伸びることになり、砦を再構築するのには一定の期間が必要となるはずなので、その間に色々と動けるようになるのはありがたかった。あとは、霧の大森林を本格的な迷路に変えたいが、あそこにはクアロスの妖精族が住んでいるため、実現は難しいと思われた。


「おーい。ハチ、屋敷に帰るぞ」


 辺りを走り回って警戒に当たっていたハチが駆け戻ってきた。一日がかりで走り回って満足したようで、顔がニヤニヤとしていた。


「今日はよーさん動けて身体の鍛錬になったわ。最近、ルリちゃんに腹が出てきてるとか言われとるできーつけんといかんのだがね」


 どこかの中年妻帯者みたいな発言であるが、確かにルシアの飯が美味すぎるので、俺も体重は増えているかもしれない。自分の腹も心なしか脂肪がのってきているかもと思い始めた。


 学生時代も社会人の時も飯食わないでゲームしてたとかあったもんな……こっちの世界来てから、歩くとはいえ三食キッチリ食べるし、美味いからおかわりするのが当たり前になってるし。これは、デブる前兆であろうか……。マズいなデブってルシアたんの隣に立つのは非常に恥ずかしいぞ。これは筋トレ必須か……。


 ハチのおかげで、忍び寄るメタボ腹への危険を察知した。もちろん、食事制限なんていうのはルシアたんに失礼なので、論外としても食べたカロリーを消費する運動をせねばならぬことを自覚させられていた。


「そうだったな。ありがとうハチ。お前のおかげで未然にデブ化を防げそうだ」

「ツクル様の走るのきゃ?」

「いや、夕食後に屋敷の大改装を徹夜でやろうと思ってね。それでカロリーを消費しようと思ってるのさ」

「ツクル様はよー働く人だわ。ルシア様も心配されるで、あんまり無理しないどきゃーよ」

「分かってる。適度にやるよ。適度にね」


 その後、転移ゲートで屋敷に戻ると、ルシアの作った夕食を食べて腹を膨らませ、第二次大規模改装計画を実施していくことにした。まずは、旧防壁を解体し防壁を新たに死の庭園や水源の川、牧場の外側に一キロ四方で囲い直すことにした。これは、人口増加による食料生産の増加必要性と居住スペースの確保も兼ねている。一キロ四方を囲うとなると多くの【鉄筋コンクリート】が必要となるが、鋳つぶした武具によって金属材料やコンクリート素材はたくさんあり、今回の防壁は外側を鉄筋コンクリート製にして内部を石造りの壁で流用することにした。そうすれば、強度的にはさほど変わらずに素材を節約できるのだ。


 新しい防壁を作っている間に鉄人形隊にトラップの撤去と落とし穴の埋め戻しを命じておく。魔王軍を潜んでいた林の近くに作られた新しい防壁は前と同じ高さ一〇メートルで地下一〇メートルほど埋めてある。そして水堀は深さ五メートルあり、城壁側から操作して鉄の槍が水面まで突き出すトラップもしかけてある。泳いで渡ろうとしたら下からズブリと腹に穴を開けられるという寸法だ。防壁も今後物資が整い次第、量産する火砲類を設置できるように砲座を二〇メートル間隔で設置してあり、バリスタや連弩はその間を埋めるように設置しておいた。更に四隅と各城門には高さ三〇メートルの物見台を設置し、新たに視覚特化に制作する予定の鉄人形を配置して敵の動きをゴーレム内で共有化する予定にしている。


 わが屋敷は防壁の中に居住スペースと生産スペースを取り込んだ城塞となるため、最終防衛ラインの防壁の火力は幾らあり過ぎても困らない。そのため、防壁には魔術除けや矢避けの膜を張る結界障壁装置も完備して魔素線マナラインで繫ぎ、屋敷に設置した【魔導発電機】によって敵発見と同時に自動展開されるようにしている。これでかなりの防衛力をはっきできるはずだ。


そして、スペースを拡げたことで新たに水源から水路を一本引いて新農地を開墾し、バニィー達が食料生産や綿花などの素材生産をしやすいようにしておいた。牧場も防壁内取り込まれたことで飼育小屋や放牧地も広がり、屋敷から門を出ずに歩いて行けるように改善されていた。これはバニィーから要望が出ており、彼の要望に対応した改善だった。


 そして、新たに増える住民の住む場所を確保しなければならなかったが、ここで朝を迎えてしまったので、残りは一旦仮眠をとってから行うことにした。

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