第107話 乗馬訓練


「ツクルにーはん、頑張ってなぁ~。ああ、落ちてしまいますよ。しっかりとたて髪を掴んで下さい」

「わ、分かっているけどさ。あうぁああ」


 俺は今、絶賛格闘中だ。もちろんルシアたんとではない。俺としてはルシアたんとくんずほぐれつとイチャイチャしていたのだが、それは朝の段階で色々と済ませていたので、今はこの暴れ狂う生物から振り落とされないようにしなければならなかった。


 だが、たて髪を掴んでいた手がすっぽ抜けると俺の身体は大きく空中に放り出されることになった。


「ぐえぇえ」


 地面に背中からドサリと落ちたため、息が詰まって呼吸が止まりかける。すでに、朝からこの状態を一〇回以上は続けていた。一体何をしているかと聞かれれば、乗馬用の馬を調教していると言うしかなかった。なぜ、そんなことをしているかというと、クリエイト商会が大きくなったこともあり、フェンチネル近隣の場所にも仕入れや商談に行くことが増え、移動時間短縮の必要に迫られていた。


 本当なら馬車でも作って移動すればいいのだが、成り上がりの商会である俺達が馬車を仕立てたと知られれば、領主が事業税を過大に取り立てる可能性があると、領主の家人であるクライットからの助言があり、俺が乗馬を習得する羽目になった。


 そして、飼育担当者であるバニィーの弟であるモニィーは、馬に乗るなら裸馬をキチンと調教して自分の言うことを聞かせないと、いざという時に言うことを聞いてくれないというので、目下の所、裸馬を乗りこなすチャレンジをしていた。


「ブルルッ!」


 モニィーが俺のために選んでくれた馬は体高二メートル越え、体重が一トン近い巨大な体躯をした黒い毛並みの馬であり、世紀末系のラスボスが乗っていた馬のような姿をしていた。オレは心の中でこの馬にイワンと名付けていた。理由を聞かれるとよく分からないというしかないが、面構えがどう見てもイワンとして思えない。

 

 イワンは不敵な顔で俺の方を見えており、未だに乗り手として認めてくれてはいなかった。この獣め、人類の英知の力を見せてくれるわ。


 俺は再び立ち上がると不敵な顔をしているイワンの背中に回り込み、その大きな背中に飛び乗っていった。


「ツクルにーはんっ!! 頑張ってくださいっ!! そのお馬さんに乗れたら、うちが後でお背中流してあげますよって」


 ファッ!? ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 唐突な混浴ご提案キターーーーー!! ルシアたんとの混浴権だとぉおおおおぉ!!


 ルシアとの混浴を提示されたことにより、脳内のアドレナリンが異常分泌され始め、俺は今まで最高のライドを見せると、イワンのたて髪をギュッと掴む。イワンは俺を乗せるのを嫌がり、飛んだり跳ねたり、走ったりして振り落とそうとするが、ルシアとの混浴権が掛かっている俺を振り落とすことができずにいた。


 イワンと格闘すること二時間近くが過ぎ、さすがの俺も疲労困憊になりかけていたが、それ以上にイワンの方が背中からびっしょりと汗をかき、その汗が蒸発して白い煙のように立ち上っていた。


「そろそろ、観念して俺の乗馬になりやがれっ!!」


 最後の一暴れをしようとしていたイワンの首根っこを抑え込むと、ようやく力尽きたのか、イワンは抵抗を諦めて大きく嘶いた。


「ツクル様、お見事です。今、手綱をお付けしますね」


 成り行きを見守っていたモニィーがイワンに駆け寄ると、口にハミを噛ませていく。そして、装着を終えると手綱を俺に手渡してきた。乗馬の経験など全くないが、モニィーの説明よれば地面に対して騎手の踵、腰、耳が垂直の直線で結ばれリラックスした状態を取り、馬の腹をかかとで圧迫してやると進み出し、行きたい方向の手綱を強く引くと馬がそちらに進路を変えると言っていた。そして、止まる際は身体を反らしつつ肘を引いてハミを食い込ませて馬を止めるのだと教えてくれていた。


 モニィーから手綱を受け取ると、イワンのお腹をかかとで圧迫してやると前に動き始めた。先程までの暴れっぷりが嘘のように俺の指示を聞いて牧場内をゆっくりと走り出していた。


「ツクルにーはん。うちも一緒に乗ってみたい」


 乗馬している姿を見ていたルシアが目をキラキラとさせて一緒に乗りたいと申し出てきた。チラリとモニィーの方を見ると、頷いていたので、ルシアを乗せるためにイワンを一度停止させてやる。


 俺が降りると、モニィーがイワンの身体の鞍を付けていくが、まったく抵抗を見せる様子はなかった。


「モニィーが許可をくれたから、一緒に乗るとしようか。ちなみにこいつの名前はイワンにしたよ」

「イワンはんですか。よろしくね。イワンはん」


 ルシアに鼻面を撫でられたイワンはブヒヒヒンと嘶いていた。こやつもやはり牡であったか。だが、ルシアたんは俺の嫁になるんだからね。お前にはやらんぞ。だが、働き次第では見目麗しい牝馬との見合いをセッティングしてやらんでもないからな。


 俺はマイ乗馬になったイワンに乗ろうと奮闘しているルシアたんに肩を貸すと、下から見えるパンツをチラ見していた。


 ファッーーーーーーーーーー! 刺激が強すぎるよっ! 今日も一日頑張れそうですっ!


 パンツの余韻が冷めやらぬ中、ルシアを鞍の前に乗せ俺が後ろで手綱を取ると、イワンをゆっくりと走り出させていった。


「ピヨちゃんとはまた違った乗り心地ですわぁ」


 前に乗っているルシアは普段はピヨちゃんに乗っているため、乗馬技術は俺よりも上手かった。けれど、イワンの足並みに合わせて揺れるおっぱいに俺の目線が釘付けにされてしまう。


「ツクルにーはん。柵が近づいてますよ」


 ルシアの警告でふと我に返る。目の前には牧場の柵が近づいていた。右手の手綱を引き絞りぶつからないように進路を変えていった。商談や仕入れは俺が中心でやっているけど、魔物狩猟の際はイルファも馬に乗ってもらって、移動速度の上昇を検討した方がいいな。行動範囲が広がることは色々と有利に働くし、それよりも移動で体力を消費しないで済むのが一番ありがたい。よし、今度の狩猟からはイルファにも馬に乗ってもらおう。


 愛馬イワンを得たことで、狩猟における移動の効率化をしようと思い立ち、翌日、イルファを呼び出して馬に乗れるか聞いたら、貴族のたしなみなので当たり前に乗れるとの回答を頂き、腕前を見せてもらった所、見事におっぱいが波打つという素晴らしい光景とともに乗馬の腕も素晴らしかった。ただ、谷間に埋もれていたタマが激しい振動により酔ったらしく、乗馬の際は絶対に人型でイルファの腰にしがみつくと言い張ることになっていた。

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