第108話 釣りに行こう
乗馬ができるようになり、イワンの乗っての移動がスムーズになったことで、クリエイト商会の支店長としてフェンチネル周辺の街や村を駆け回る日々を過ごしていた。忙しく過ごしていたため、久しぶりに休養を取り、今日はルシアとピヨちゃんを引き連れて、屋敷の北側を流れている川のほとりに来ていた。
水量が豊富なこの川は北の山岳地帯から流れ出しており、我が屋敷の重要な水源として大いに活躍してくれている川であった。
山からの湧き水であり、透明度の高い川の水はそのまま飲料としても使えるほど美味い水で、この水を使って作られるルシアの飯は中毒者を大量に発生させているのであった。そして、今日は久しぶりに休養日にしたので、この川で釣りを楽しむことにしていた。転生直後からのドタバタでこの『クリエイト・ワールド』では釣りによる食料調達もできることを忘れており、この機会に川で何が釣れるのか確認すると共にルシアたんのお魚メニューの開発のために素材を手に入れることにしていた。
作業工房で【釣り竿】を二本製作すると、道具を担いでここまできていた。
「餌はピヨちゃんが掘り出してくれた【ワーム】でいけると思うよ。これを餌に何が釣れるかな」
「ワームはんをこの釣り針に通せばいいんですか?」
釣りをしたことがないルシアが餌の付け方を聞いてきた。俺も日本に居た時は釣りなんかやったことはないが、『クリエイト・ワールド』では釣りをしていたこともあり、なんちゃって釣り師を自称することにした。
「もう少し奥までかな。そうそう。それくらいでいいと思うよ」
「ワームはんも難儀やね。頭から針を通されて……」
餌となるワームは頭から針を通されてウネウネと動き、自らの窮状を訴えているようだが、ここは心を鬼にして釣りの餌として使命を果たしてもらおうと思う。
「よし、餌付け完了。投げる時は後ろに気を付けてね――」
釣竿を振って遠くに飛ばそうとしたが、途中で何かに引っ掛かった。引っ張っても解けそうになかったので、後ろを振り向くと釣り竿から伸びた針先は見事にピヨちゃんの羽に引っ掛かって絡まっていた。状況を確認すると目の前のピヨちゃんに向けて謝罪の言葉を発しようとする。だが、時すでに遅く紅蓮の炎を纏ったピヨちゃんからはスゴゴゴという擬音が聞こえそうな怒りの波動が漏れ出ていた。
「いや、ぴよちゃん。わざとじゃなくてさ……たまたま、引っ掛かってね」
ピヨ、ピイピ、ピヨ。
ピヨちゃんの鳴き声はなぜか、俺には死刑宣告のように聞こえてしまった。
「待って! 話せば分かるからぁ―――」
ギラリと鈍く光ったくちばしが、もの凄い勢いで俺の額に向けて振り下ろされてきた。思わず無刀取りをしようと手を出すが、まったく間に合わずにピヨちゃんのくちばしが俺の脳天を貫き、額に激痛が走るとそこで俺の意識は途切れていった。
「ツクルにーはん。大丈夫ですか?」
気が付くとルシアに膝枕をされて寝かされていた。ピヨちゃんのくちばしが額に直撃して轟沈した俺をルシアが救助してくれたらしい。周りを見ると俺を轟沈させたピヨちゃんも少しやり過ぎたと反省したのか、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
脳みそが漏れ出していないかと心配なため、額を触ると少し腫れているが、頭蓋骨は粉砕されておらず、今回も何とかくちばしには打ち勝った。
「イテテ、ピヨちゃん……突く時はもう少しやさしく突いてくれると助かるよ。今回は俺の後方不注意だったから、すまなかったとは思うけどね。このように、後ろを気を付けて投げないと大惨事を招くからルシアも気を付けてね」
「ツクルにーはんは本当にやさしい人やね」
ルシアがピヨちゃんに突かれて腫れた額に手を当ててさすってくれた。ヒンヤリと冷たいルシアの手がとても気持ち良くて、このまま、ここで微睡んでもいいかもしれないという誘惑に駆られるが、本来の目的である釣りを思い出した。
「今回のは投じる時に後方確認しなかった俺の不注意だしね。ピヨちゃんには悪いことをした。さぁ、それよりも釣りを楽しもうか」
俺はルシアの膝枕から立ち上がり、再び竿を握ると、周りの確認をしてピヨちゃんが後ろにいないことを確認して、二度目の竿を投じた。
「きゃあぁああああぁあ!!」
ルシアが悲鳴を上げたので、驚いて後ろを振り向くと今度は釣り針がルシアのスカートに引っ掛かって綺麗なお尻と尻尾を丸出しにしていた。
ファッーーーーーーーーーーー!! 違うんですっ! 全国二四〇〇万人のルシアたんファンの皆さん、これは事故なんですっ! けして、ルシアたんのスカート釣ってやるぜとか思ってやったわけじゃないですっ!
動揺した俺はルシアのスカートに引っ掛かった釣り針を解くことも忘れて、ルシアと共にワタワタとしてしまう。その間もルシアの日焼け一つない綺麗なお尻が真っ白なパンツとともに俺の眼に飛び込み続けていた。
ピヨ、ピヨヨっ!!
ルシアのスカートを釣りあげてしまった俺に再びピヨちゃんが怒りの波動をまとって近づいてきた。
「違う! ワザとじゃないんだっ! た、助けてっ! お慈悲を!」
再び俺に向けて振り下ろされたピヨちゃんの鉄槌をなんとか掴もうと、手を出すがやはり早すぎて捕まえることはできずに俺の額を二度目の衝撃が貫いていった。
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