第109話 大物釣り
ピヨちゃんの制裁を受けたことで額に二つの大きなたんこぶをこさえるハメになったが、三度目の正直ということもあり、前後左右に気を付けてワームを付けた釣り竿を川に投げ入れていった。
「ふぅ、今回は何事もなく投じれたな」
「ピヨ、ピイイヨ」
ぴよちゃんもお怒りになることもなく、近くの草原でワーム掘りを始めていた。一方、ルシアも俺と同じようにワームを付けた釣竿を川に投げ入れていく。
「上手くできましたわぁ。何が釣れるんやろね」
「ミックに聞いたら、ニジマスとかアマゴとか川魚が釣れるらしいよ」
事前にこの付近を遊び場にしているミックに何が釣れるか聞いていた。この水源の川の周辺には鉄人形隊や門番君シリーズの警邏コースに入っており、魔物達はほぼすべて殲滅され尽くしていた。なので、子供達の遊び場として牧場と共に解放されている地区になっている。
ミック達は仕事の手伝いと勉強を終えると、日が暮れる前までこの川の近くで遊ぶのが日課となっており、その際に釣りをして成果を持ち帰り、コッソリとルシアの使う冷蔵庫に入れておくと言っていた。
「ああ、だから、知らないお魚が増えてたんですね。うちも食材が勝手に増えてて不思議に思ってんだけど、美味しそうな食材だったから色々と使ってましたが……ミック君達の仕業でしたか」
釣り糸を垂れながらルシアが驚いていた。ルシアは勝手に増えていた食材に驚かなかったのかとも思ったが、ルシアの使う冷蔵庫には畑で取れた野菜や牧場直送の肉類、乳製品などが住民達によって勝手に補充されていき、ルシアがその食材を見て毎日の献立を決めて作っているのだ。
「ミック達は美味しいご飯を作ってくれるルシアに喜んで貰おうとやったことだから怒らないようにね」
「怒るだなんてトンデモナイ。うちは喜んでますよ。食材が増えると美味しい料理がいっぱい作れますからね~」
ルシアも食材が増える分には怒るつもりはないようだ。ただ、夜中にコッソリと冷蔵庫を開けて、作り置きしてあったスイーツを盗み食いしたのがバレたルリには、カロリー消費の名の下に笑顔で屋敷周辺の警邏巡回一〇周の刑を処していた。
以来、盗み食いをする者は皆無となり、食事中におかわりを申告する者が激増していた。
「それにしても、ルシアと最初に出会った時に食べていた物を思うと、我が家の食事事情もかなり改善してきたね。うちの食事はこの世界でも有数の美味さではないかと思っているのだが……」
「ツクルにーはん、それはいいすぎやわ~。世の中にはもっと美味しい食事があるはずですよ」
ルシアは俺のお世辞に照れているようだが、ルシア成分の入っていない食事は美味さ半減となるので、やはり俺の一番美味しい食事となるとルシアの食事しかないのだ。
そんな風にルシアと一緒に釣り竿を垂らしていたら、不意に竿がしなって、魚が喰いついた反応を示していた。
「ツクルにーはん!? 引いてますよ!」
「お、おおっ!」
釣り糸を川の中へ引き込もうとする動きに、慌てた俺は釣竿を持つと釣り上げるタイミングを狙っていく。浮きが川の中に引き込まれていく。川の中では餌のついた針を咥えた魚が釣り上げられないように抵抗している。
針を外されないように慎重に竿を動かしていき、魚の体力を消費させていく。やがて、魚の動きが鈍った所で一気に釣り竿を引き上げて行った。
「うぉおおりゃああぁあ!!」
「おっきなお魚はんが釣れましたよ」
釣り上げたのは大きめのアユであった。まだ、体力が残っているようで地上に釣り上げられた後もピチピチと跳ねまわっていた。これまでにも食事で何度か食事で出てきていたが、水が良いため、彼らの餌になるコケも清浄な物が多く。身からは甘い匂いが微かに匂う美味い川魚であった。
「アユが釣れたね。ところで、ルシアの竿をも引いてるみたいだけど?」
「へ?」
俺の釣果に気を取られていたルシアが自分の竿を見ると、俺の時よりもさらに大きく竿が川の中に引き込まれていた。ルシアが竿を握るが引きが強すぎるようで、川に引き込まれそうになっていた。咄嗟にルシアの竿を持つ手を支えるように重ねていった。
釣り竿の引きは先程の引きとは比べ物にならない強さを発揮していた。
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