第12話 初狩猟


 無事に到着した草原には、角ウサギや双角鹿に並んで、毛長牛も優雅に草を食んでいた。彼らには罪がないが、俺達の生きる糧となってもらうことにした。


「ルシア、準備はいいかい?」


「よろしいですぅ。ツクルにーはんの攻撃した魔物を狙い撃ちすればいいんですよね?」


「そうだね。一匹ずつ確実に屠ろう」


 ルシアがコクンと頷くのを確認すると、石の弓を取り出して装備する。


 腰を屈めて気配を消すと、ゆっくりと目標の毛長牛に向かい石の矢をつがえて弓を引き絞り、そして矢を放った。

 

 トスッ。


 放った矢は見事に毛長牛の首筋を貫いたが、絶命させるには至らずに、ルシアの放った火炎の矢が身体を炎で包んでトドメを刺していた。


「次行くよっ!」


「へぇ」


 近くで一緒に草を食んでいた子牛と思われる毛長牛に向かい二射目を放つ。


 やはり、威力が足りないらしく、一発で絶命させられなかったため、ルシアの火炎の矢でトドメが刺された。


「まだ、行く。ルシアは角ウサギ狙って。俺は双角鹿を狙うから」


 とりあえず、見える範囲にいた毛長牛は倒したので、近くにいた別の魔物を狙うことにした。


「角ウサギでいいんどすなぁ? ほな、そちらを退治することにしますわぁ~」


 ルシアが角ウサギを狙って火炎の矢を放つ。


 轟音を響かせて必中の矢が飛び出し角ウサギを炎が包んでいた。


 その間に俺も矢をつがえて、双角鹿に狙いをつけて、矢を放った。


 矢は見事に双角鹿の眉間を貫き、一発で絶命させることに成功していた。そして、俺とルシアが光の粒子に包み込まれていった。


 >LVアップしました。


 LV2→3


 攻撃力:16→20 防御力:15→19 魔力:7→9 素早さ:9→11 賢さ:10→12


 ルシアも同じようにレベルアップしており、能力値は上昇していた。このゲームでの魔術の習得は魔術書で行う仕様のはずなので、【白紙の書】と【儀式の祭壇】を作成しないと魔術書は作り出せないはずだ。


「あらまぁ、うちも強おなってしもたんえ~。ホンマにツクルにーはんと一緒にいると、すぐにレベルアップしてしまいますなぁ~」


「ルシアが強くなってくれると俺の出番が減っちゃうかもしれないなぁ……俺としてはルシアにいいところを見せてあげたいんだけど」


「ツクルにーはんは、ビルダーという大層な能力をお持ちどす。うちは料理と魔物と戦うことくらいしかできないのですから、ちっとはツクルにーはんのお役に立たせてくれませんかぁ?」


 料理と魔物退治でも役に立っているが、それ以上に俺のモチベーションを維持するという重大任務をこなしているルシアには感謝の気持ちが溢れ出しそうだった。


「ルシアには感謝しているし、君と出会えて本当に俺は幸せだと思うんだ。出会ってまだそんなに経ってないけど、ルシアがいないと俺はダメみたいだ……ずっと一緒に暮らしてくれ……」


 小柄なルシアの身体をギュッと抱きしめると、ルシアも俺と同じように抱きしめ返してくれた。


「ツクルにーはんは、追放者にされたうちを嫌がりもせずに温こう迎え入れてくれたし。こないなワガママなうちを大事な人だと言ってくれた方。こんなに優しい方がうちの旦那さんやったら、なんぼ幸せかとも思っています。せやけど、物事には順序ちゅうものがあるさかい、ツクルにーはんとは、健全な関係を築いていきたいんでどす。だから、まずは恋人同士ちゅうとこで手を打ちませんでしょか? でも、どうしてもツクルにーはんが、辛抱できないって言うなら……」


 ルシアは何かに怯えるように抱きついた身体を震わせていた。多分、俺がルシアの身体を求めていると思っているようで、そうしないとあの場所から放り出されてしまうのではと恐れているのかも知れなかった。


 怯えているルシアの額にそっと口づけをする。


「ひあぁ!」


「ありがとな。ルシアの気持ちは分かったから、健全なお付き合いから始めさせてくれ。俺にとってもルシアは大事な人だ。その人が嫌がることは絶対にしたくないからね。ルシアの気持ちが固まるまでずっと待つよ」


「ツクルにーはん……堪忍なぁ……こないなワガママな子でホンマに堪忍なぁ……」


「あ!? でも、朝起きた時にルシアの狐耳をモフモフするのだけは許して欲しいんだけど……ダメかな?」


 抱きついて見上げていたルシアの顔が下を向いた。


「……すこしだけなら、してもいいですよ……でも、妖狐族の耳や尻尾を弄る行為は婚約と同じことなんですよ……ツクルにーはんは、知らなかったかと思うんだけど……」


 は、初耳だったぁーーー。ということは、俺は初対面のルシアに婚約を申し出ていたということかぁ! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! なんという拙僧無しの男だ!


 ルシアによって妖狐族の婚約方法を教えられて、俺の人に語れない黒歴史が誕生した瞬間だった。


「あははは……そういった習慣があるとは露知らず、ご無礼をいたしました……でも、明日からのモフモフは婚約前提で大丈夫だよね?」


「……よろしいですよ……でも、あんまりいっぱい触ったらあきまへんよ……」


 恥ずかしいのか、ルシアは俺の腹にグッと顔を埋めて小さな声で返事をしていた。


 あかんっ! 可愛すぎるぅ!! もう、その仕草だけでご飯三杯は食べられる。神よ! 何ゆえにこのようにカワイイ生物をつくりたもうたのですかっ!


 猛烈に保護欲をくすぐるルシアの仕草によって、脳内が一気にルシア一色に染め上げられていく。今の俺からルシアを取り上げようとする奴がいれば、どんな敵であろうとも全身全霊を振り絞って撃退してやるつもりだ。


「……なごりおしくはありますが、早いトコ素材と食材を手に入れへんと日が暮れてしまいます」


「あ、ああ。そうだな。さっき倒した魔物の素材を取りに行こうか。うん。そうしよう」


 しばらく抱き合っていたが、身体が離れると途端に二人の動きがギクシャクとしていた。

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