第126話 新たなる仲間?
「夕飯のおかずもゲットして、必要な素材も手に入れることができたから帰ってもいいけど、せっかく営巣地まで遠出しているんだから探索してみる?」
「ワイバーンが襲うてこんかね? あれだけん大群に囲まれるとこちらも結構大変だと思うばってん」
イルファが黒龍を追い払ったワイバーン達が去った方向に視線を巡らせている。黒龍と死闘を繰り広げたワイバーン達は傷を癒していると思われ、少しの間なら探索しても見つからない可能性の方が強いと思われた。
「さっと軽く探索するだけさ。オレとハチで偵察してくるから、イルファ達はここで待機してワイバーンが近づきそうなら援護してくれるとありがたい」
バックアップとしてイルファ、タマ、ルリ、ルシア、ぴよちゃんを灌木の茂みに身を伏せさせる。万が一、俺達を狙って降下してきたワイバーンがいたら待ち伏せして先制攻撃してもらうつもりであった。
「分かった。ルシア様の護衛兼バックアップに回る。気を付けてくれん」
「ツクルにーはん気を付けてくださいね。無理はしんといてください」
「ルシア達が援護してくれるなら、よっぽど大丈夫さ。ハチ、行くぞ」
「任せてちょー」
俺はルシア達に手を振るとハチとともに前方の急斜面に削られたように作られたワイバーンの営巣に駆け上がっていく。斜面は岩肌剥き出しでかなり歩きにくいが登っていけないほどの急勾配ではないため、ゆっくりと慎重に足元を確認して登っていく。けれど、ハチは軽快な足捌きを披露して、かなりの速さで斜面を駆けあがっていった。
「ツクル様、巣はもぬけの殻だがね。それとキラキラと光るものが結構溜め込まれてる」
先にワイバーンの巣に入ったハチが巣の中を物色しているようで、落ちている物を報告してくれていた。ワイバーンは光り物を集める習性があり、その巣には宝石や武具などが落ちていることもあるらしい。
レアな素材や武具が落ちているといいなぁ。魔王討伐を考えるなら、装備的にはもう一段上の装備を作り出したいし。
俺は斜面を昇りきるとハチが先行して入った巣に足を踏み入れる。
木の枝で巣を囲っているワイバーンの営巣の内部には、宝石や素材、武具などが所狭しと蓄えられていた。宝石以外は餌として捕まえた人間や動物の素材がドロップして巣に溜まったものと思われる。
「結構な数が落ちとるようだわ。それに、まだ卵が一つ残っとった」
巣に落ちている素材や武具をインベントリに放り込んでいく間に、ハチが巣の奥からズリズリと身体で押してきた真っ黒な卵を押し出してきた。
ん? ワイバーンの卵にしては黒いな……。親鳥に育児放棄されて腐った卵だろうか?
ゲームで見ていたワイバーンの卵は真っ白な色をしており、ハチの押し出してきた真っ黒な色はしていなかったはずだ。卵を見るとなんだかデジャヴを覚えてしまう。前にもこんなことがあったような……。
「おっと、なんかうごとりゃーすで」
ハチの持ってきた真っ黒な卵にひび割れが一斉に走る。パキパキと音を立てて走ったヒビ割れから卵が欠け始めて、内部にいる謎の物体がちょろっと動くのが見えた。そして、内部で蠢く生物のつぶらな瞳と目がバッチリとあった。その瞬間、電流が走ったように痺れる感覚が身体を貫いた。
ファッ――――――――!! この感覚はなんだっ!! ま、待て! 俺にはルシアたんという心に決めた人がいるんだ。な、なんなんだこの感覚は……。
尚も目の前の卵は割れ目を大きくしていき、卵の中身の生物の姿を曝し始めていく。
「もしかして生まれるか?」
「多分、そうみたい」
割れた殻がパラパラと地面に落ちていくと姿を現したのは漆黒の翼と鱗を持つ、黒龍の幼龍であった。真銀すら溶かす高熱の炎や弓矢を弾き返す固い鱗、鋭く尖った鉤爪をもったオルグス山脈の最強生物と言われる黒龍の子供が目の前にいた。
ファッ―――――――!! 黒龍の子供じゃねええかっ!! さっき大人の黒龍がワイバーンの営巣地を襲っていたのは、ワイバーンに托卵していた子供を引き取りに来ていた奴だったのかよっ!
卵の殻を被ったままの黒龍の幼龍が俺の方をジッと見ている。そのつぶらな黒い瞳にたちどころに俺は魅了されてしまった。
クッ! そんな目で見ても駄目だからな! うちにはもうヘルハウンド、フェンリル、コカトリスがいるんだ。ここに黒龍まで揃ったらもう完全に魔王城の出来上がりなんだよっ!
ピギャ――!
黒龍の幼龍は俺を見て親だと思ったらしく、1メートルに満たない体躯で卵の中からトテトテと這い出してきていた。
ク、クソ。可愛すぎるじゃねえか……。だが、ルシアに見つかったら絶対にお持ち帰りにされてしまう。
大き目のぬいぐるみのような幼龍は俺の足元に近づくと身体を擦り付けて甘えてくる。もう、完全に親として認識しているような気がする。
「黒龍!? ツクル様、退治するきゃ?」
ハチも卵から這い出した生物を認識したようで、戦闘態勢を取ったが、手を出さないように制した。
「ま、待て! 殺すことはない! 無益な殺生は控えるべきだ」
「けど、こいついると親の黒龍が襲ってきますぜ」
「だが、殺せない……」
足元で身体を摺り寄せている黒龍はすでに俺のことを親だと思い込んでいるらしい。そんな魔物を無下に殺すことはできないでいた。
ピギャ―。
ク、ダメだ。可愛すぎて殺せねえ……。仕方ない、屋敷に連れ帰ることにするか……親龍が追ってくるかもしれんが……。なんだか誘拐犯みたいな気がしないでもないが。
幼い黒龍の姿に魅了された俺は脇に抱きかかえると、ハチへ撤退の指示を出す。
「ハチ! 早いところ親が再襲来する前に屋敷に帰るぞ」
「マジで連れて行くの? 黒龍です。おいら達より更にでっかく成長する子なんだけどなぁ」
「仕方あるまい。親とはぐれているのだ。きっと、俺達が保護せねば野垂れ死んでしまう」
「ツクル様がそこまで言うんであれば、おいらは反対はしないですけど、ルシア様が何と言うか」
「そこは大丈夫だ。ルシアが困っている子を見捨てるわけない」
俺は抱きかかえた黒龍とともにルシア達の待つ灌木の茂み戻ることにした。
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