第18話 革の服と裁縫道具

 

 ザバンッ!


「ふぅううっ! ちべてえ!」


 滝から流れ落ちる水は水温二〇℃くらいで冷たさを感じる。これを温水に替えるには【火山石】を作成するしかないのだが、今の設備では作成できないため、しばらくはこの水浴びですませるしかなかった。


 沐浴場は、浴槽スペースが二メートル四方のスペースを取ってあり、二人で入るにはちょっと大きめに作ってあるが、しっかりと手と足をのばしてゆったりと浸かるにはちょうどよい広さになっていた。


「ふぅ。早いところ【シャボン】と【洗い布】も作りたいし、それに服もそろそろ作らないとな……ルシアもあの囚人服のままじゃ可哀想だし。早めに【綿の花】を採りにいくか」


 今のところ、着ている服しか持っていないので、洗い替えができない状態だった。


「そういえば、革製の服が作れるか……とりあえず、昨日手に入れた【牛の皮】で革製の服を作ろう」


 思い立ったが吉日なので、すぐさま浴槽から出ると、濡れたままの身体で衣服を身に付けて、バージョンアップした【鉄の作業台】に向った。


 作業台に着くと、メニュー欄を開き、【タンニン漬け樽】を作成することにした。


 【タンニン漬け樽】……草木のタンニンで皮をなめす漬け樽 消費素材 木材:3 鉄のインゴット:3 雑草:6 棒:3


 未取得だった【雑草】は周辺に大きく成長して生えていた草を叩くと素材化した。それらのものを使用して作成を開始する。


 ボフッ! 


 白煙と共に独特な匂いを発する大樽が目の前に現れた。匂いがあるため、小屋に近づけるのは憚られるため、【製錬炉】の近くに設置することにしておくことにした。


 設置の完了した【タンニン漬け樽】のメニューから【牛の皮】を選択する。


 【なめし革】×30……動物の皮をなめして加工しやすくしたもの 消費素材 牛の皮:1


 【牛の皮】一個からなめし革が三〇個作成できると表示されているので迷わずに作成する。


 ボフッ!


 白煙が収まると綺麗に整えられた【なめし革】が三〇個ほど、漬け樽から飛び出していた。


「さすが、ビルダーの力。本当ならもっと時間がかかるんだろうけど、即完了だね」


 手にした【なめし革】を衣服にするには、【裁縫箱(革)】が必要で【鉄の作業台】に戻りメニューから【裁縫箱(革)】を作成する。


 【裁縫箱(革)】……革衣服を仕立てるために必要な道具 消費素材 鉄:2 木材:2 革ひも:2


 確認したら【革ひも】が必要だったので、先に作業台で作成する。


 【革ひも】×10……なめし革を細くひも状にしたもの 消費素材 なめし革:1


 ボフッ!


 【革ひも】ができた所で、目的の【裁縫箱(革)】を作成した。


 ボフッ!


 一抱えある木箱が現れて、中には針や革ひも、ハサミまで一緒に入っていた。


「ふぅー。意外と服作るのも大変だな……でも、これでなんとか服を作れるはず……」


 完成した【裁縫箱(革)】のメニューを開くと、男性用、女性用で分かれており、それぞれに色々な服の型紙が用意されていた。


 まず、自分用に衣服を作るため、男性用の型紙を見ていく。選んだのは長袖のジャケットとロングパンツで、素材収集の探索の際に鎧の下に着込むつもりだった。


 革製であるため通気性が怪しいが、下草で切り傷を負うのや、毒虫に刺されるよりはだいぶマシだと思われる。


 【革の長袖ジャケット】……革の衣服 消費素材 なめし革:2 革ひも:2


 【革のズボン】……革の衣服 消費素材 なめし革:2 革ひも:2


 ボフッ! ボフッ!


 選んだ【革の長袖ジャケット】と【革のズボン】が生成された。ゲームではキャラアバターの扱いだった衣服は、一部を除き防具扱いされない仕様であるため、防御力の加算はされない。


 完成した革の衣服に早速着替えてみた。ピチッと身体に密着してくれて、革も柔らかくなめしてあるため、運動を阻害することはなかった。本当なら黒色が良かったが、染料がまだないので、色は茶色のままだった。


「おし。これなら問題ない。これで布の服は洗濯に回せるな。さて、続いてはルシアの分の服を作ろう」


 再びメニューを開いて女性用の型紙を見ていく。すると、とても刺激的な型紙を発見してしまった。


 【革のブラジャー】……革製の下着 消費素材 なめし革:1 革ひも:1


 【革のパンティー】……革製の下着 消費素材 なめし革:1 革ひも:1


 どちらも下着だが……女性にとっては必需品だと思われるので、迷いなく作成を選んでいた。


 ボフッ! ボフッ!


 完成した下着は、隠す面積が非常に少なく、紐を多用した作りになっていたが、必需品であるためルシアには我慢してもらうしかなかった。


 全国一千万人のルシアたんファンの皆様に申し伝えておきますが、けして、俺の趣味で選んだわけじゃないからね。型紙にこれしかなかったわけなのだよ。いや、ホントにマジだって!


 いつまでも下着を握り締めておくわけにはいかなかったので、後はルシアの衣服を選ぶことにした。


 【革のワンピース】……革製の衣服 消費素材 なめし革:2 革ひも:2


 膝上一五センチで七分袖のワンピースの型紙があったので、ルシアに似合うと思い作成することにした。


 ボフッ!


 完成した【革のワンピース】は下着とお揃いで茶色になっていた。


「絶対にルシアに似合うと思うな……早く染料とかで色を変えられようになるといいなぁ」


「ツクルにーはん、朝ごはんができましたよ~」


 服が完成したところでルシアが朝食の準備ができたことを告げていた。


「今行くよ」


 返事をすると、完成したルシアの下着と服を持って小屋に戻っていった。



 朝食後、革の服に変わっていた俺を見たルシアに、先程作成した革の下着と衣服を渡した。


「まぁっ! 新しい服どすかぁ……ひゃあぁ!! こないな派手な恰好の服を着るん。恥ずかしわ~」


「い、嫌なら、別に着なくてもいいけど……」


「そ、そないなことは言うとりませんっ! とっても嬉しいですわぁ……でも、ジッーと見たらあかんよ」


 下着と服を胸に抱えて、ルシアが顔を赤らめてこちらを見ている。


「りょ、了解でありますっ!」


「ここで着替えるんは恥ずかしいから、一回沐浴して着替えきますわぁ~。覗いちゃあかんどすえ~」


 ルシアは着替えの服を抱えると、沐浴場に向かって走り出していた。


 心なしか足取りが弾んでいるように見えるのは、俺の見間違いだろうか……


 ここで、俺の心に中に天使の声と悪魔の声が交差し始めた。


 悪魔:げへへ、ついに覗きイベントが発生したぜ。男なら、覗くしかねえだろ。あのルシアたんのナイスバディが拝めるチャンスだぞ。


 天使:待ちなさい。今ここで、ルシアの裸を覗きに行けば、この二日で築いた信頼関係も一発で崩れ去ってしまいますよ。そんな、馬鹿なことをする貴方ではないでしょう。


 悪魔:うるせえ奴が何か言っているが、男なんて一皮むけば、女の裸が見たくて仕方ねえ生き物なんだよ。カッコつけて我慢しても身体に悪いだけだぜ。


 天使:よくよく、考えるのです。信頼を裏切って覗くような男とルシアが一緒にいると思いますか? 理性的に行動しなければ女性の心を掴むことはままなりませんよ。


 悪魔:プリンプリンのムチムチが見えるんだぜ。


 天使:よく考えなさい。自分の欲に飲まれるのではなく、ルシアにとっての最善の選択を選びなさい。


 天使の声による『ルシアにとっての最善の選択を選べ』という言葉に心を動かされた俺は覗くのをやめて、開墾作業用の道具を作るために作業台に向かった。

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