第54話 イベント勃発

 完成した【火山石】を急いで崖の上にある水源まで持っていく。飲料水用と沐浴用に分けてある水路の沐浴用の方へ【火山石】を設置すると、【火山石】に触れた水から湯気が上がり出し、湯気を孕んだ温水が滝を下って滝つぼに落ちていった。とりあえず、源泉の温度はかなり熱くなっており、手で触れないくらいに熱いので、落下する間にちょうど適温まで下がると思われる。


 【火山石】の設置と温度のチェックを終えると、沐浴場へ行き、浴槽スペースに溜まり始めたお湯の加減を手で確かめる。少しまだ熱かったのと、イルファやルリ達も入ることを考えて浴槽スペースを三メートル四方に拡張した。しばらくすると湯がたまり、少し熱めではあったが立派な滝つぼ露天風呂が完成した。


「ふぅ、ようやく完成か……待て、まだ【シャボン】が完成していない。アレがないとルシアを誘う口実ができないではないかっ!!」


 【シャボン】の制作を忘れていた俺は、一旦キッチンに向かうと、洗い物を終えたイルファとルシアがダイニングで談笑している最中、かまどで大量の木材を燃やし【木灰】と【木炭】を大量に生成していく。


「ツクルにーはん? そないに大量の木材を燃やしはって何されるん?」


「ちょっとね。大事な物を作り忘れていたから。できたら、ルシアにも持ってくるよ」


 ルシアとの話もそこそこに、生成した【木灰】と【木炭】を持つと作業スペースに駆け込む。作業台のメニューから【シャボン】を捜し出して選択する。


 【シャボン】×5……汚れ落としの洗浄剤 消費素材 木灰:10 油脂:2 塩:5 石灰石:5


 素材は足りているので生成を選択する。


 ボフッ!


 十センチ四方の四角い石鹸が五つ作業台の上に飛び出てきていた。結構な量の素材を消費するが、身体が綺麗になることを思えば、大した出費ではない。それにルシアたんとの混浴イベントを起こせるのであればとても安い出費なのだ。


「さて、【シャボン】も完成したが……どうやって、誘ったものか……『一緒に風呂入ろうぜ』なんて言えねえし……はっ! ルシアたんが欲しがっている調味料を出汁にして引き換えにお背中流し券をゲットしてなし崩し的に……グフフ、グフフ」


 名案を思い付いた俺は作業台のメニューから【発酵樽】を生成することにした。


 【発酵樽】……木製の樽で様々な穀物や果物を発酵させるために使用される道具 消費素材 木材:3 鉄のインゴット:3


 ボフッ!


 生成されたのは直径1メートルほどの円筒形の木製樽を作業スペースの端に設置する。そこに今日取ってきて一部素材化させた【大豆】を使いメニューから【味噌】と【醤油】を生成してく。


 【味噌】……日本風の調味料の一つ。大豆を蒸し、塩などを加えて発酵させたもの 消費素材 大豆:5 小麦:2 塩:5


 【醤油】……主に穀物を原料とし、醸造技術により発酵させて製造する液体調味料 消費素材 大豆:5 小麦:2 塩:3


 ボフッ! ボフッ!


 相変わらずのデタラメ能力を発揮して、設置した発酵樽から壺に入った味噌と醤油が飛び出して来た。とりあえず、味見をしてみる。


「……熟成の【味噌】と【醤油】だ。これでご飯あれば三杯は食べられるな……。よし、これを手土産に混浴お風呂タイムをねだってみよう」


 【シャボン】をポケットにしまいこむと、生成された【醤油】と【味噌】の壺を抱えてダイニングで女子談義に花を咲かせているイルファとルシアの元に走っていった。



「ツクル様? どぎゃんしたんと? そぎゃん慌てて走ってきたりして。それに壺ば抱えて走ると危なかばい」


 すっかりルシアと意気投合しているイルファが、こちらを見て危ないと注意してきていた。


 あれ? 何でそんなに仲がいいのさ。女子ってこんな感じですぐに仲良くなるのかよ?


 イルファとルシアが仲良くしていたことに気を取られてしまい、脳からの指令を口が離反することへの意識が薄らいでしまっていた。


「実は【シャボン】で混浴しようと思って、【味噌】と【醤油】を作ってみたんだっ!!」


「「……????」」


 俺の言葉を聞いた二人の頭にクエスチョンマークが浮かび上がる。改めて自分が発した言葉を反芻していく。


 ファッーーーーーーーーーー!!! 本音が先に迸っちゃっただけなののぉおお!!! 文章が意味をなしてないのぉおおお!!!


「あ、ち、ちが、違うんだ。別に変な意味じゃなくて、【味噌】と【醤油】ができたから、ルシアと混浴できないかなって思ってさぁ」


 ファッーーーーーーーーーーーーーー!!! 何が変な意味じゃなくだよっ! 言ってる意味わかんねーよっ!! なんで、【味噌】、【醤油】ができたら混浴したいにつながるんだ!!


 予想したとおりに口が脳からの指令に反発したおかげで、二人のクエスチョンマークが更に増えていく。


「あー、えー、ツクル様。話が見えんのやけど? 【味噌】と【醤油】ができるとなんで混浴と?」


「あぅあぅ、いやだから【シャボン】を作って、【味噌】と【醤油】を作ってルシアと温泉入ってぇ」


 ファッーーーーーーーーーーーー!!! カオスっ! カオスすぐるっっ!! 俺、なに言っているの!?


 混乱する俺を尻目に下を向いたままのルシアが小さな声で話し始める。


「……ちょっとだけなら、ツクルにーはんのお背中流してもよろしいですよ。で、でも、ちょっとだけですから。裸は見たらあきまへんっ!!」


「ルシア様? ……ルシア様がツクル様のお背中ば流すんであれば、アタシも手伝わんとマズそうやなあ。ルシア様、ツクル様に目隠しばしてもろうたらアタシらの裸ば見られんでお背中流すっばい。そぎゃんしたらどうばい?」


「ええ考えですわぁ。ツクルにーはんは目隠ししてください。それが、混浴の条件にしときますう~」


 ルシアが頬を真っ赤に染めて混浴を了承してくれていた。多分、同性のイルファが一緒という一点でガードがかなり緩んだものと思われる。


 ナイス、アシスト!! イルファ!! ……ファッーーーーーーーーーーーーーーー!!! 待て!! あまりに自然すぎて思わずスルーしていたが、イルファも一緒に入るとか言ってねぇか!!


 思わず、イルファの胸元に目線が注がれていく。隣にあるルシアの胸も凶悪ではあるが、それに輪をかけように凶悪化したおっぱいがたゆん、たゆんと揺れていた。


「あぁ、そうか……い」


 ルシアたんとのわくわく混浴温泉イベントが、なぜかイルファまで一緒に入るルートに迷い込み、いつの間にかハーレムルートに軌道が逸れ始めていた。


 ……俺はルシアたんLOVE……イルファなんかに、きょ、興味なんかないからねっ! 


 こうして、カオスな状況のまま、わくわく混浴温泉大作戦が発動されることになった。

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