第83話 子猫と竜女

 作業場に戻り、万能工作機械から大砲のメニューを開く。形状選択は『カノン砲』、『榴弾砲』、『野砲』、『無反動砲』、『対空砲』、『機関砲』、『速射砲』があった。拳銃でもかなりの鉄や銅などを使ったので、更に威力の高い大砲は素材の消費が半端ないと思われた。なので、まずは小型砲の『野砲』で試してみたい。


 『野砲』を選択すると、口径選択が現れる。『七五ミリ』、『八〇ミリ』、『八五ミリ』、『九〇ミリ』、『百ミリ』、『百五ミリ』から『七五ミリ』を選択。続いて砲身長の選択が現れた『三〇口径』、『三五口径』、『四〇口径』、『四五口径』の中から、一番短い『三〇口径』を選択する。その後は『駐退機』の有無、『防盾』の有無、砲車の種類、砲の名前は分かりやすくするため、砲口径と砲身長と大砲の種類で名付けた。


 【七五ミリ三〇口径野砲】……砲車付きの火砲 消費素材 鉄のインゴット:20 銅のインゴット:20 真銀のインゴット:5 中魔結晶:3 硫黄:5 リン鉱石:20


 やはり、消費素材は多かったが、砂漠での修行と並行して多くの素材の収集を行っていたので、作成は可能だった。


 ボフッ。


 目の前に鉄製砲車と防盾が付いた野砲は飛び出してきた。インベントリにしまって先程の射撃場へ戻っていくことにした。


「さて、威力のほどはいかほどか?」


 砲車を地面に固定し、目標である百メートル先の木に照準を合わせていく。セットされていた弾薬箱から砲弾を取り出すと、尾栓を開けて砲弾セットし、閉める。そして、撃発用のりゅう縄を思いっきり引っ張った。


 ドゥン。


 腹に響く音とともに発射のエネルギーが駐退機によって拡散されていく。狙った木は木っ端みじんに吹き飛ばされて、跡形もなく消え去っていた。

 

 ふむ、中々の威力だ。ゴーレム兵と連動させて城壁上から、攻撃してもいいし、大砲用の陣地を作ってもいいな。対空砲なんかもあるし、上空への備えもしていかないとな。にしても、結構レアな素材を消費する……。採掘や収集もしないといけないが、街で買い求めるのも考えていかないとな。


 でも、一番近い街だと北の雪原抜けた最果ての村から、東に進んだレッツェンか。でも、多分そこはルシアが壁をぶっ壊した街なんだよなぁ。ルシアが嫌がるだろうし……。大森林抜けて西のフェンチネルを目指すか……でもなぁ、近くに魔王軍の最前線基地のラストサン砦があるんだよな……。南は砂漠地帯で大きな街は無いはずだし……。

 

 頭の中で、『クリエイト・ワールド』の地図を思い出していた。初期位置は大陸でも南部の方にあり、かなりの僻地にあるため魔王軍の影響下に無い場所であるが、資源は意外と豊富にあった。けれど、前世ではゲーム攻略を目指してプレイしていたため、初期配置の場所はほとんどのプレイヤーが未探索で拠点となる場所は大きな街の周辺に建てるのがゲーム攻略の定石になっていた。けど、この世界は古の魔王ユウヤが色々と改造しているので、街の位置も変わっている可能性もあるし、魔王軍に見つかれば、速攻で攻め込まれる可能性があるのだ。


 けど、ここだけだと資源の種類も限られるし、何とか大きな街で店でも構えてレアな素材を入手できるようになりたいなぁ。となると、辺境とはいえ海運と陸運の交通の要衝にあるフェンチネルの方がいいか……。あそこなら、大陸各地の物資も集まるし、商人も多いからな。よし、資材調達も兼ねて遠征に出るか。


 試射をした大砲をインベントリにしまい込むと、作業場に戻り、修練のダンジョンで新たに大量に獲得した魂石で鉄製の小型ゴーレムを量産し、早期警戒網として周辺警戒に当たらせることにした。資源の獲得に成功したら銃器で武装させて更なる防衛力の向上案も考えている。


 そして、その日の夜に全員を集めて、今後の方針を伝えた。街へ行くことは誰も反対をするものがなく、バニィーが街にたどり着いたら、街はずれに転移ゲートを設置して常設にしておけば、俺の力で色々と物資が持ち込めるし、こちらの物資も運べるとのアイディアをもらったので、フェンチネルに着いたら、空き家を探してそこにこことの常設ゲートを設置することに決めた。翌日から、屋敷をバニィー達に任せ、北西にある大森林へと足を踏み入れていった。



「ツクルにーはんと一緒にさまよう木を倒したのが、ついこないだのようやね。うちもにーはんと出会わなかったら、オオカミはんの餌か角ウサギはんに突かれて死んでたやろね」


 最近、ルシア成分の不足によるエロ夢を見たということもあり、本日はルシアたんと腕を組んで森林の中をお散歩デート気分で歩いている。


 よし、今日は尻尾もフサフサにして、枝毛一つなく梳きあげたし、狐耳もシッカリとマッサージをして血色、色つやともに良し。おっぱいは……ピヨちゃんの眼に殺意の波動が灯ったので、グッと我慢することができた。その上でのルシアたんとのお散歩デートなのだ。腕を組んでの森林散歩は気持ちいい。


 何がって、そりゃあ、ルシアたんとの距離が近いし、その上で腕を絡めて一緒に歩けるし、更にはおっぱいが腕に当たるという至極の境地が生まれているのだよ。


「俺とルシアの出会いは必然の運命だったという訳さ。俺はルシアに会うためにあの場にいたとしか思えないね」

「嫌やわ、つくるにーはん。そないに言われてしもたら、うちもそう思てるだなんて言えないでっしゃろ。でも、うちはあえて言わしてもらうの。うちもあの場に居たのはツクルにーはんと会うためやったって」


 顔を真っ赤にして、俺の腕に顔を隠そうとするルシアの姿は、可愛いを通り越して女神であった。そういえば、女神と言えば例のイクリプスの神像を屋敷の庭に作り、雨避けの屋根を取りつけた即席の聖堂も昨日作ったが、ルシアがご飯を祭壇に奉納すると、光とともに綺麗に中身が消え去っていたと聞かされた。


 あの無能女神は食い意地だけは一人前かよ。奴にはしっかりとバグ取りしてもらって社畜の如く、扱き使ってやるとしよう。


「まぁ、ルシアと出会わせてくれたイクリプスには感謝はしておこうかな」

「イクリプス様はほんまにええ神さまやね。うちのお供え物もちゃんと受け取ってもらはったし」


 ルシアたんよ。奴の本来の姿を見てもその言葉が口にだせるかな……あの女神が転生とバグ取りだけが得意な使えない女神なのだよ。本物と会ったオレが断言するから間違いない。


「ツクル様! 敵が来るがね!」


 ルシアと腕組みお散歩デートを楽しんでいると、先頭を走っていたハチが敵の匂いを嗅ぎつけたようだ。


「アタシの出番が来たわね。ちょっとイライラしとるけん、手荒うなってん責任は取れんばい」

「ちぃ、イルファ! お前、ちょっと張り切り過ぎにゃあ! 落ち着けニャ!」


 俺がルシアと腕組みデートをしているのを、さっきからチラ見していたイルファの機嫌が凄く悪かった。イライラのオーラがこっちにまで漂ってきていて、実は背中に冷や汗をかいているのだ。


「このバカ女めっ! ワシがいるのに何ゆえにそうツクルに執着するのニャ!」


 猛るような声で唸るイルファに業を煮やしたタマが、彼女の顔を肉球で挟むと唇にキスをしていた。


「なっ!? タマちゃん!?」


 呆気に取られたイルファをよそに、口づけをしたタマの姿がドンドンと大きくなっていき、その姿が人のように変化していった。白銀髪に黒い猫耳を生やし、金色の眼をした細面のスラリとしたイケメンが白い着流しを着て現れていた。


 タマが人化したのか!? というか奴は人化できるのか。


「あらあら、タマちゃんが男前にならはったね~。でも、うちはツクルにーはんの方がええ男と思いますよ」


 突然現れたイケメンにルシアも驚いているが、さすが、我が嫁であるルシアたんなので、俺を不安にさせる言葉を発しはしなかった。


「イルファ! お前はワシのパートナーって言ったニャ! そのパートナーたるワシから余所見すると一体どういう了見だニャ」


 茫然としているイルファの顎をクイっと持上げて自分の方へ向けさせた。突如、イケメンになったタマちゃんに混乱している様子だが、反抗しようという気持ちは無さそうにも見えた。


「本当にタ、タマちゃんと? こぎゃんよか男だなんて知らんかったけん、ごめんばってんアタシはツクル様の奴隷と。やけん、ツクル様に身ば捧げにゃいけんの」

「うるせえニャ……イルファはワシのパートナーだって言ったニャ! 他の男に色目を使うニャ」


 着流しイケメンのタマはそういうと、再びイルファの唇を奪っていった。


 ファッーーーーーーーー!! イケメン過ぎるぞ! これがイケメンの言動という奴か……。俺にできるのか……『ルシアは俺の物だからな』……キャァーー!! 恥ずかしすぐるぅうう。


 目の前で見せられたタマのイケメン行動に悶絶していた。イルファの好意は薄々察していたが、俺としては嫁はルシアだけと心に決めているので、彼女にしっかりとしたパートナーができると思うとホッと安心できる。


「タマちゃん……ツクル様が見てるから……これ以上は……許して」


 イルファは意外と押しに弱いと知っているが、いい男にあれだけ強引に言い寄られると断れないと思われた。目の前で行われているイルファとタマのやり取りに俺達を始め、ルリもピヨちゃんも興味津々だった。


「ツクルにはワシから言っておくから、お前はワシだけを見てればいいんだニャ。返事は『はい』しか認めないニャ」


 大きくなったタマは近くの大木に両手を付いて『壁ドン』ならぬ『木ドン』してイルファを逃さないように囲い込むと、視線を逸らさずにイルファを見つめていた。


 これがいわゆる『オラオラ君』という奴か……お、俺もルシアに『オラオラ君』してえけど、ムリィ……。


「そんな。急に言われても無理ばい」

「返事は『はい』だけって言ったニャ」


 顔を近寄らせたタマにキュンときてしまったイルファは遂に陥落していた。


「は、はい」

「いい子だニャ」


 着流しイケメンになったタマが、イルファの頭をポンポンと軽く叩くと、『ポフ』という気が抜ける音がした。


 ファッーーーーーーーーーーーーーーーーー!! なにそれ! 意味わかんねぇ! 猫に戻っていらっしゃるぅう!!


 気の抜けるような音とともに、タマの身体はさっきまでと同じように猫の身体に戻っていた。そして、俺の前に来る。


「ツクル、イルファはワシの女にするから、今日からはイルファとの同衾は禁止だニャ! もししたら、ワシの爪で顔に十字の傷ができると思うニャ。分かったかニャ」

「あ、はい。イルファをよろしく頼んます。タマさん」


 タマの気魄に押されて頷いてしまっていた。子猫に戻ったタマは腰砕けのように地面に座り込んだイルファの胸元へと戻っていき、いつもの聖域に鎮座した。


「タマちゃんもやりますなぁ。イルファさんもメロメロにされてしまったようやし。うちとしては……良かったかな……」


 隣で腕を絡ませていたルシアが心なしか喜んでいるようにも思えた。一方、イルファは胸元のタマちゃんに熱視線を送っていた。

 

 ……夢じゃないよな?


 俺はギュッとほっぺをつねり、今起きたことが夢でないことを痛みとともに確認した。

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