第84話 心霊イベント勃発!?
その後に現れた魔物はハチ達によってあっさりと討伐され、濃い霧が包む大森林の中を歩いている最中にイルファが、俺に視線を送る度にタマが焼きもちを妬く。そして、お仕置きと称してチューをしてイケメン着流し男子に変身すると、腰に手を当ててイルファを自分の方へ抱き寄せて一緒に歩いていた。
イルファも美女だし、変身したタマもスラリとした長身の猫系イケメン男子なんで、並んで歩いていると一幅の絵のような美男美女のカップルであった。
「……ツクルにーはん……うちも、イルファはんとタマちゃんみたいにして、一緒に歩きたいけど、無理やろか……」
先行して歩く二人の姿を見て、ルシアたんも積極的に俺に身体を寄せてきてくれていた。
ファッーーー!! いいの? ルシアたんの腰を抱き寄せてお散歩デートしていいの!? マジか、今日はルシアたん成分を充足しすぎて滾りすぎちまうぜ。はふー。だが、しようとすると背中に熱視線を感じてしまう。いや、まぁ、熱視線の持ち主は心眼を会得した(嘘)俺には誰だか見えているのだ。この視線の持ち主はピヨちゃんに違いないのである。
「はいはい……ごめんな。風紀委員長からのご指摘が……んっ!? んん!?」
ピヨ、ピヨヨ?
熱視線の主であるピヨちゃんが、俺の後ろではなく、ルシアと反対側の左手側を歩いていた。その瞬間に背中にぞっとするような怖気が走った。
ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! じゃあ、俺の後ろから熱視線を送っている存在は誰ーーーーーーー!?
自身の想像外の存在が後ろにいると感じた瞬間に背筋がゾクゾクと震える。しかも、おあつらえ向きなほど、霧も深く、周囲は五メートルも目視距離が取れない霧が立ち込めていた。
「ああぁ、ああ、ああぁ」
「ツクルにーはん? どうしたん? めっちゃ顔色悪いわぁ……それに、震えてはりますよ? ホンマどうしたん?」
様子が急変した俺を気遣ったルシア心配そうに顔を覗き込んできた。
いやだって、後ろに誰かいるんですよ。熱視線を送る人が、ピヨちゃん以外の方が……。
「……おじさ……ん……たす……け……て……」
ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 絶対これはアカンやつやぁーーーーーー!
ルシアを連れて走って逃げ出そうとしたが、身体が強張り、金縛りにあったように動けなくなってしまう。おまけに膝がガクガクと震えている。
俺、そんなに霊感強くなかったけど、ここって異世界だし、そういった存在も皆無では無いであろうし、振り向いたら呪われるとか『クリエイト・ワールド』ではそんなイベントなかったし、ああぁ、不意打ちの恐怖イベントヤメテ!
「ツクルにーはん。ホンマ大丈夫なん? 額にびっしり汗かいてはりますし、膝がガクガクと震えてはるから、熱とかありまへんか?」
様子が急変した俺を心配したルシアが汗拭き用の布で額の汗を拭ってくれていた。おもわず、ルシアを声の主から守ろうと抱きついてしまう。
「俺が絶対にルシアを守るから! 大丈夫だから! 心配しないでくれ!」
「ひやぁ!? ツクルにーはん、ピヨちゃんの前でこないに激しく抱きしめたらピヨちゃんが……あっ」
真っ赤にした顔を俯かせて抵抗しなくなったルシアの体重が俺にもたれかかってきた。
絶対にルシアだけは俺の命に代えても守り切るんだ。
「……おじさん……たす……けて……」
「ふあっ!?」
さっきよりも声はしっかりとした大きさになって、さきほどよりも近づいてきているような気がする。先行するハチやルリ、イルファ達との距離は開き、姿が見えなくなってきていた。だが、声は確実に俺の近くに寄ってきているのだが、ルシアもピヨちゃんも声に気付かない様子だった。
「おじさん助けて」
ついに耳元で存在感を伴った声が囁いてくる。
いる。俺の真後ろに誰かいる。意を決して後ろを振り向くことにした。
「誰だっ! ……ファッ!?」
振り向くとそこには赤い液体に塗れた子供の顔が間近にあった。
ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! いたぁあああああああああああぁ! やばいの居たぁーーーーーーーーーー!!
悪霊からルシアを庇うように地面に押し倒す。柔らかなルシアのおっぱいが顔を埋め尽くしていたが、彼女を守ることに必死な俺は覆いかぶさって悪霊の眼に触れさせないことにした。
「ひゃあ!? ツクルにーはん、落ち着いてください。こないなことしたら、ピヨちゃんが……それにあの子は大丈夫ですから」
「ルシア! 君は俺が、ぜ、ぜったいに守るから、来るなら俺に憑りつけ! その代わりにルシアには指一本触れさせねえ!」
ピヨ、ピヨヨ、ピイイイ!
ピヨちゃんが何やら激怒している様子だが、こっちとしてもルシアが万が一でも呪われたら困るので、退くに退けないのである。そして、俺の後頭部にはピヨちゃんの鉄槌がくだった。
「あんぎゃーーー!!」
目を覚ますと、後頭部に大きなたんこぶができていたが、ルシアたんの膝枕をゲットできたので、痛み分けということにしておこう。
「気付かれはった」
周りを見ると先行していたルリ、ハチ、イルファ、タマ達も戻ってきており、その中に先程の赤い液体に塗れていた子供も一緒にいた。
「ああぁああ。いる!」
「ツクルにーはん。あの子は妖精族の子供やわ。悪戯好きでお調子者が多いさかいに、うちもピヨちゃんも無視してたんですけど、ツクルにーはんが怖がりはるから、この子がノリノリで……ご丁寧に赤い染料まで顔に付けてはるし……」
ピヨちゃんもルシアもこの子供の存在には気づいていたようだが、あえて無視していたということだ。
だが、『クリエイト・ワールド』にはそんな種族は登場しなかったはずだ……。クソッタレ魔王が作ったMOD種族か?
「おじさんのノリが良すぎて、おれっち頑張ったぜ!」
赤い染料に塗れた顔のまま親指を立ててニカッと笑う妖精族の子供だった。一瞬、ぶん殴ろうと思ったが、暴力はイケナイと自制することにした。タダでさえルシアに醜態を晒している上で子供への暴力は致命的になるとの高度な政治的判断の賜物である。
「……HAHAHA、おじさんの怖がり方も迫真の演技だったろ? 君が喜んでくれて何よりだ」
妖精族の子供はジト目になり、プイっと顔を背けると、すぐにルシアに喋りかけていく。
「お姉さんも大変だね。こんなおじさんのどこがいいの?」
「どどど、どこがって……そりゃあ……全部素敵やわ……今回も必死でうちのことを守ってくれようとしはったし……うちもその姿にまたキュンとして……何言わさはるのっ!」
「へぇ~良かったね。おじさん。このお姉さんから愛されてるね。ヒュ~」
妖精族の子供から囃し立てられると、ルシアの膝から伝わる熱量が増えて、ポカポカと温かさを感じさせてくれていた。
ふぅ、良かったぜ。あれだけの大醜態を晒して見限られたら立ち直れない……。
「夫婦だから当たり前だ。ところで、君の名は? 俺はツクル。一応、旅の商人だ」
出発する前に今回は村や街に寄るということもあり、ビルダーであることは隠そうということで全会一致し、俺達は旅商人として行動することにしていた。ルリとハチは飼い犬、イルファとタマは女護衛と飼い猫、ピヨちゃんは南方生まれの大きな騎獣、そしてルシアと俺は夫婦の旅商人という設定だ。
「おれっちはクアロス。霧の大森林に住む妖精族の村に暮らしてる。ツクルは旅商人か……だったら、霧の大森林を抜けた先にある有翼人の村にも寄ってあげてよ。ここ数日、彼らの顔を見なくなって、寂しくってさ。いつもなら、誰かかしらと出会うんだけどねー」
「ほぅ、そんな場所に村があったか……いいだろう、その村に寄ってクアロスが、君等の顔が見えなくて心配していたと伝えればいいか?」
どうせ、フェンチネルを目指すので、街道付近にある村々は元々、情報収集のために寄る予定を立てていた。
「ああ、そうしてもらえると助かる。村の大人達も気にしてたからね」
「分かった伝えておく。そして、二度と俺に悪戯をしないように! 次、ここを通った時に悪戯をしたら、もしかして剣を抜いてズンバラリと斬り捨ててしまう可能性もあるからな」
二ヒヒと薄ら笑いを浮かべたクアロスに俺の言葉が届いたか定かではないが、警告はしたので、次回通った時に悪戯をされたら、ちょっと痛い目に会わせてやろうと心に誓った。
こうして、俺達は妖精族の子供であるクアロスの要請に応じて霧の大森林を抜け、有翼人達の集落へ足を運ぶこととなった。
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