第69話 砂漠の村

 タマがくれたコンパスが南を指していたため、武者修行を兼ね、次の修練のダンジョンを探すことにして、屋敷を出ることにした。門では昨日作成した鉄のゴーレムである『門番君一号』に留守を任せると、彼のお見送りを受けて、皆でトコトコと南の方角へ向けて歩いていく。


 途中でハーブマスタールシアが【マスタード】、【唐辛子】を見つけると、苗化と素材化してゲットし、食い意地が割とはっているルリが【ブドウ】、【オリーブ】、【オレンジ】などの果樹を見つけ出していた。そういった食材を新たに獲得しつつ、ハチが見つけた大マガモや大蛙などを討伐して進んでいく。


 南に向かう道中では、タマはイルファの胸に揺られ過ぎて、爆睡してしまうという微笑ましい弄りネタ案件もゲットできていた。


 湿地帯を抜けると、ルリと出会った草原となり、そこを更に南に進むと、緑が少なくなって砂漠化していき、サボテンが少し自生しているだけの荒涼とした黄色い大地に変わってきた。


「あっつい。そろそろ、日暮れも近いのにまだ暑いなぁ……砂漠地帯だと分かっていたけど、鉄の鎧が焦げるわぁ……あちいい」


「ホンマですなぁ。えろう、暑くてお水をよーさん飲みたくなりますわぁ。でも、あれですやろ。ツクルにーはんが作ってくれといわはった、この【塩飴】を舐めながらじゃないとえらい大変なことになるんですやろ」


「ああ、ルシアがぶっ倒れるとこまるから、キチンと摂取してね」


 出発前に南の砂漠地帯まで行く予定をしていたため、ルシアに頼んで砂糖で飴を作ってもらい、それに塩をまぶした飴をインベントリにしまい込んで持ち運んでいた。


 砂漠地帯は乾燥こそしているものの、摂取した水分が汗となって排出され、それによって塩分も体外に排出されてしまい、水だけでは塩分不足を誘発するので、エネルギーとなる糖分と必要な塩分を摂取できる【塩飴】は大いに役立っていた。


「皆もちゃんと塩飴溶かした水分を摂取するように。屋敷にはすぐに帰れるが、身体を壊すとすぐには回復できないからね。体調が悪いものがいたら報告するように」


「はーい。ハチちゃん、飴が溶けたみたいだからこれ一緒に飲もう」


「ええのきゃ? そ、その、一緒の椀で飲むんだが」


「何、アタシとは一緒に飲めないの?」


「え!? あっ、違うがね。そ、その恥ずかしいぎゃ。みんな見とるし」


 ルリとハチが、塩飴を溶かしたお椀の水を二人で飲もうとイチャイチャしてる。

 

 ……ごちそうさまです。ルリとハチは甘々カップルだな~。いいな~。


「タマちゃーん。お水ばちゃんと飲まんといけんよ。おかしゃんが飲ましてあげるけん。ひゃぁ! タマちゃんはむぞらしゅう可愛くてて仕方なか。んちゅ、んちゅ」


「バッカっ! この乳でか女! うわっぷ、水がンガガが。ワシを殺す……ンガアア……気かぁ!」


 イルファは完全に俺のお世話を忘れてタマちゃんに首ったけになっているが、個人的なことを言えばルシアたんとイチャイチャできるので、それもありかと思う。


 タマよ。頑張れ。いやまぁ、君もあのおっぱいは、いいクッションだと思い始めているんだろう。精々、俺がルシアたんとイチャイチャするために、人身御供となってくれたまえ。南無。


 完全にイルファの玩具になったタマへ祈りを捧げると、大きめの椀を持って地面に座り込んでいるピヨちゃんの元に向った。


 ピヨ、ピピピ、ピヨ。


 ピヨちゃんはあの混浴マッサージ事件後から、機嫌を悪くしていたため、顔をそむけてきていた。そこで、ご機嫌取りも兼ねたお水接待を開始する。


「はいはい。ピヨちゃん用のお水を持ってきたよ。いいかげん機嫌直してよ。あの件は、俺が悪かったことでいいからさ。その、もし気に入ったなら、また今度してあげれるけど。どうよ?」


 ピヨちゃんがチラチラと周りを見て、ルシアが近くにいないことを確認したら、お椀の水を勢いよく飲み始めていた。


「これは仲直りということでよろしいか?」


 ピヨ、ピピピ、ピヨオ!


 ピヨちゃんは『しょ、しょうがないわね。あのマッサージしてくれるなら、仲直りしてあげるわよ』とでも言いたそうにしていた。まことにツンデレなフワモコ生物である。


「よしよし、今度、お風呂でしっぽりとしてあげよう」


 ピヨちゃんの頭をそっと撫でると、小休止を終えて、日暮れまでコンパスの指す南に向かって歩くのを再開した。



 そして、日暮れ近くまで砂漠を歩いた俺達の前に、建物が集まった場所が見えてきた。


 ……村か……おかしいな……『クリエイト・ワールド』の世界に砂漠の村は存在しないはずだが……魔王のMODの影響か……。


 砂漠のど真ん中に現れた村の存在に、訝しみを感じながらも、転生して初めて訪れる村の存在に、はからずも胸が高鳴ってしまっていた。


「と、とりあえず。あの村に行ってみようか。ルシアもその恰好なら追放者だと思われないだろ」


「え、ええ。そうですなぁ。こないな恰好なら冒険者だと思ってくれはるでしょうな。でも、ピヨちゃんとかルリちゃん、ハチちゃんは一緒に連れていくと、村の人がえらいびっくりしはると思いますよ」


「そのことなら、うちにお任せあれ。こう見えてん、まだ現役魔王軍士官で竜人族やけん、ツクル様ば始めとした皆ば部下やて言い張れば、追求する者もおらんはず」


「そうか、イルファは魔王軍士官だったな。なら、俺達はイルファの部下という形で村に乗り込もう」


 猫好きおっぱいメイドと思っていたイルファが魔王軍士官だったことを失念しており、彼女自身からの提案により、俺達はイルファの部下として発見した村に向かうことにした。



 村は日干し煉瓦で組み上げられた粗末な建物が数十棟連なっており、日が沈んで暗くなり始めていたが、灯火の類はまったく焚かれておれず、人の気配こそするものの、皆建物の中に籠っているようで、暗く寂れた印象の強い村に感じられた。


「……人はいるみたいだけど……活気のない村だね。食事時間だと思うのにほとんどの家で炊煙が上がっていないし……」


 周りの家々を覗こうかとも思ったが、木戸は固く締められており、他人を拒絶している感じの村に感じられた。しかし、イルファが場の空気も読まずに名乗りをあげる。


「あたしは魔王軍リモート・プレース方面軍、ラストサン砦所属の魔王軍士官イルファ・ベランザールだ。この村の代表者と話がしたいから、出てきてもらえぬだろうか」


 イルファがいつもの方言を使わずに、普通の言葉で話を続けていく。


「出てこない場合は、アタシの部下のフェンリルやヘルハウンド。それにコカトリスや超絶美人な妖狐族の魔術師、トンデモ狂戦士までがこの村を完膚なきまでに略奪させてもらうつもりだ。五つ数える間に出てこい」


 なんだが、イルファが標準語になってノリノリなのか、盗賊団の首領のようなことを言い始めていた。


 ……トンデモ狂戦士は俺か……いやまぁ……ハッキリ言って見た目は世紀末風な出で立ちだが……。


「五・四・三・二……」


 イルファがカウントを言い終わる寸前に村の中央にある家のドアが開いて、未知の生物が飛び出して地面に平伏していた。


「何卒! 何卒! 略奪だけは勘弁してくださいっ! このまえ、物資は納めたではありませぬか。これ以上、この村に納められる物はありませんっ!! 本当にもう自分達が食べる物すらないのですっ! 今は緩やかに死を待っているだけの我々に納められる物があるとしたら、我等の死骸のみなのですっ!! それでも、略奪するというなら、村人をすべて殺してから行っていただきたいっ! どうせ、我々に明日はこないのだからっ!」


 ボロボロの服をきて、元は白かったであろう毛並みを茶色く汚し、痩せこけた生物が目の前に必死な形相で泣きながら、自分達を殺して略奪をしていけと申し出ていた。その様子を見ながら、平伏している生物の姿を観察していく。


 ……この種族って『兎人族』だよな……兎そのものが人間のように二本足で歩いている種族であると、ゲームでは説明されていたが、兎にそのものだ……。

 

 平伏する生物が『兎人族』だと分かり、彼の栄養状態が非常に悪いことがあらためて確認できた。『クリエイト・ワールド』では『兎人族』は草原に村を作って住み、農耕をメインにコミュニティーを拡大する種族であったと記憶している。その彼らが、この砂漠マップのど真ん中にコミュニティーを作っても食料が自給できずにジリ貧になるのは当たり前のことだ。


 ……ちぃ、魔王のMODによるバグの影響かよ。『兎人族』の生活範囲指定がおかしくなってやがるのか……。


 ありえない位置に村を築いてしまった『兎人族』達はそれでも何とかして、この砂漠を開拓して生き延びていたのだろうが、魔王軍に見つかり、物資を召し上げられて干乾し寸前に追い込まれている状況だと察することができた。


 不意に、背中が引っ張られた。振り向くとルシアがメチャメチャに涙を流して、大号泣をしているのが目に入った。


 ファッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! ルシアたんが泣いてるっ!! アカンよっ! これは大至急ご機嫌をとる方策を考えないと、ルシアたんの涙によって俺の精神が崩壊しちゃうぅうううーーー!!!


 ルシアは『兎人族』達の境遇に感化を受けて、同情し深い悲しみの衝撃を受けて泣いていた。


「ヅグルにーはんっ! えっぐ、この人ら、ホンマに可哀想で、可哀そうでぇ、えっぐ、うちは耐えられません。うぁあああぁん。ヅグルにーはぁああん」


「ああ、ルシア君、泣かないでくれたまえっ! 泣かれると俺の心臓がバクバクしちゃうわけだよ。今、大至急、この人たちをどうするか考えるから。大丈夫、俺が絶対どうにかするからね」


 ルシアの号泣を見たところで、俺の腹は決まっていた。そして、その方法を実施するためにイルファの元に駆け寄り、耳打ちをしていく。

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