第68話 転移ゲートというドコデモゲート


 チチチ、チュン、チュン、チチチ……。


 天窓から朝の眩しい光が差し込んで……。


 ファッーーーーーーーー!! 何で、俺ベッドで寝ているの!? 確かお風呂入ってたよね!? うぅ、頭が……!?


 頭が割れるような鈍い痛みを感じ、額に手を持っていくと、濡れたタオルがのせられ、見事なたんこぶが盛り上がって存在を主張していた。


 あ、ああそうか。ルシアの尻尾をマッサージしようとして、ピヨちゃんの鉄槌を我が身に受けて気絶してしまったためにルシア達が俺をベッドに寝かしてくれたのだろう。


 ……また、多分、着替える時に二人にポロリを見られてしまった……もう、お婿にいけない……。


 ルシアとイルファによって、ベッドに運ばれたことを思うと、自らの全裸を二人に見られたことを感じて全身が火照っていってしまう。だが、起きてしまったことをクヨクヨしてもしょうがないので、気分を切り替えて起きることにした。


 目を開くと白い毛玉が寝間着にとなっている作務衣の中からはみ出していた。


 んっ? 白い毛玉……違った。タマか。


 よく見ると毛玉はタマのようで、隣で寝ているイルファの胸から脱出して、俺の胸元で寝ている様子だった。


 結局、イルファの胸を脱出しても胸で寝るのかい!


 思わず、タマに突っ込みそうになるが、その時、寝間着用にルシアとお揃いの純白のコットンパジャマを与えたイルファの手が、胸元に居るはずのタマを探してパジャマをはだけさしていく。イルファの乳はあの大きさで寝ていても型崩れをせずに存在を主張していた。


「ふぁぁあぁ、タマちゃん……どこかいったらいかんばい」


 寝ぼけているイルファが近くにいた俺の頭を掴まえると、タマと勘違いしたのか、そのまま胸元に抱き寄せられて、神秘の谷間に押し付けられていった。


 うわっぷ……ぷに、ぷにして柔らかすぎる……イルファ、こんな凶悪な武器を持っているとは恐ろしい子……うわっぷ、溺れてしまう。極楽地獄に溺れてしまう。


 柔らかいイルファの谷間に押し付けられて、息が吸えなくなって窒息していく俺は、あらぬ天国へ召されないように、寝ぼけているイルファの頬を軽く叩く。


「タマちゃん。お顔は叩いたらいかんばい。ふあぁああぁ」


 息ができないまま、身体を動かしていたので、残っていた貴重な酸素が徐々に消耗されていってしまい、酸欠になりかけている頭は白い靄がかかったように意識が遠のいていった。



 朝食後、イルファが床に額を擦り付けるように見事なまでの土下座をして謝っていた。


「すみまっせん、すみまっせん!タマちゃんが居らんて思うて、寝ぼけてツクル様の顔ばタマちゃんと間違えて失態ば犯してしまうとは。この上は、この身体ツクル様の好きにしてよかけん、どうか許して下さい」


 着ている服を脱いで、もろ肌になろうとしているイルファを押し留める。


「まぁ、待て! ここで裸になられるとピヨちゃんに額を貫かれてしまうではないか。今回の件は、気持ち良かった……ゲフン、ゲフン。水に流すことにするので、より一層職務に励むように!」


「ああぁあ!! ありがとうございますっ!!! タマちゃん、おかしゃん、許してもらえたばい!!」


「うわっぷ、ワシは別に何も悪いことをしとらんぞ。せいぜい、窒息して死にかけていたツクルをお前のおっぱいから救出してやっただけだ」


「そうだな。タマのおかげで、別世界にいかずに済んだ。礼を言っておこう。ああ、そうだ。礼よりもこれがいいか?」


 そう言うと、竹ひごに綿毛を括り付けた即席の猫じゃらしをタマの前ので揺らしてやる。


「ニャ! ニャアアア!! ニャ! やめろ! ワシの前でそれを振るニャニャ! クソ、すばしっこい奴めっ! ニャアアアア!」


 イルファの胸に収まっているタマが必死に猫じゃらしに視線を巡らせて、捕獲を試みようと前脚を動かしているが、華麗に猫じゃらしを動かして掴まえないようにさせていた。

 

 ああ、これは癒されるな。タマの仕事は俺を癒すことに決定だな。


 猫じゃらしをタマに向って揺らす俺の顔は、多分とても緩んだ顔に成り下がっているであろうと思われた。


「んんっ、ツクルにーはん。顔がだらけてますよ。もうちょいキリっと、しはったらどうですやろか。確かにタマちゃんはカワイイ子だけど」


「あ、ああ! すまないな。ということだ。イルファは不問に付す。それよりも、屋敷の整備も一通り終わったし、食料も自給できる態勢が整ったから、今日からは素材収集と魔物狩りを重視していくことにした。それに皆の装備もパワーアップさせていきたいしね。タマみたいにクソ強い魔物に出会っても全滅しないですむくらいには強くなろうと思う。それでだ、昨日タマにもらったコンパスが示す方角である南の方へ向けて武者修行の旅に出ることに決めた」


「武者修行ですか? あたし達が? お家はどうするんですか?」


「ルリちゃんの言う通りだがね。屋敷を無人にしてほったらかすのきゃ?」


 ルリとハチは、二人の愛の巣があるこの屋敷に愛着を感じ始めているようで、武者修行の旅に出るのを不安そうな顔で眺めてきていた。


「ああ、武者修行といっても、昼食はこの屋敷でとるし、夜はこの屋敷で寝るさ。実はタマが昨日くれた【転移石】で【転移ゲート】を作ったんだ。これさえあれば移動はスムーズにできる。ものは試しだ。ルリ、ハチ。このゲート通ってごらん」


 ダイニングの床にゲートを据え付けると高さ三メートルほどのゲートが稼働して紫色の膜が形成されていく。


「さぁ、入ってみてくれたまえ。大丈夫。けして、死んだりとかはしないから、安全性は自分で実験済みさ」


「ツクル様がそこまで言うなら……入ってみよか……」


 ハチが恐る恐るゲートが展開した紫色の膜の中へ身体を入り込ませていった。そして、すべて入り込むと、作業スペースの方から声が聞こえてきた。


「ああっ!? ここは作業スペースだがやっ! おいら、一瞬でこっちに移ったのかや。すげえ、すげえよ。ツクル様っ!!」


 作業スペースから走って戻ってきたハチがゲートの凄さを感じて、目をキラキラと光らせていた。他のみんなも転移ゲートの力を目の当たりにしてポカンと口を開いていた。


「ということだ。皆さんのご理解が得られた所で、遠征の準備を開始しようか……といっても、いつでもこの屋敷に帰れるから、必要装備だけでいいんだけどね」


「はぁくんっ!! ツ、ツクルにーはんっ!? 今、そこを通ったハチちゃんがあっちから出てきてましたけど、うちは夢を見ているんやろか?」


 ルシアはゲートをくぐったハチが作業スペースから出てきた意味が理解できていないようで、目をぱちくりとさせて驚いていた。


「あら、じゃあルシアも体験しよっか?」


「え!? ええ!?」


 ルシアの肩をポンポンと叩くと、俺と一緒にゲートの奥へ歩みを進める。そして、紫色の膜を通り抜けると、見慣れた作業スペースに移動していた。


「というわけさ。理解してもらえた」


「え? あっ!? えええぇ!? うちはダイニングにいたはず……ここはツクルにーはんの作業スペース? ひゃあぁあ!? えらいとこに、うちがなんでいるの?」


 ルシアの混乱は更に広がってしまったようだ。この、転移ゲートは一般人にはほとんど目に触れない場所に設置されているはずで、ルシアがその存在を知らないことも不思議ではなかった。


「まぁ、距離は関係ないから、いつでも一瞬で屋敷に戻れるというわけさ。さぁ、武者修行に出発しようか」


 未だに混乱するルシアとともにダイニングに戻ると、装備を整えて皆と一緒に武者修行の旅に出発することとなった。

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