第59話 敗北?
探索を再開した俺達は、幾つかの小部屋でゴーレムを作るのに必要な【魂石】や、魔力のステータスを上昇させる【魔力の種】などのレア素材をゲットしつつ、スケルトン軍団やゴブリン軍団を撃破し、第二階層の最奥と思われる場所にたどり着いた。その場所は広く見通せる開けた場所で、奥に進むと、この世界に俺を転生させた女神に良く似た造形の像が置かれた祭壇のような場所に出た。
「あれは祭壇? 魔術書を作る祭壇とは違う気がするが……。それに、あの神像はあの女神だよな……?」
「ツクル様は邪神イクリプスば知ってられるのか? 古の魔王様ば滅ぼすための勇者ば幾多も送り込んできた悪辣な堕女神。そういえば、ビルダーの神でもあると聞いた事があったが……何にせばい。魔王様ば滅ぼしてこの世界ば再構築さすっていう危なか考えば持った神で、初代魔王様と死闘ば繰りひろげて、この世界のどこかに封印されとるとも言われとる」
イルファが語ったイクリプスという邪神の話は、俺をこの地へ転生させたあの女神ことに思えてきた。あの女神も世界を作り直すどうのこうの言っていたような気がする。
……ふむ、あれは邪神だったのか……確かに世界を作り直してみませんかと勧誘されていたが、そういった意味を持っているとは考えが及ばなかった……。
神像を見上げながら、やけにテンションの高い、怪しげな女神のことを思い出していた。
すると、祭壇の背後から何かがのっそりと現れた。ズシン、ズシンと重そうな足音をさせて、こちら側に現れたのは巨大な三毛猫であった。猫といってもピヨちゃんよりもデカく天井に頭がすりそうなビッグサイズである。
「ワシが古の魔王様より、この修練のダンジョンをお預かりして管理しておるタマだ。貴様らが侵入者かっ!」
巨大な三毛猫はこちらを一睨みすると、いきなり火球を幾つも作り出して狙い撃ちをしてきた。
「おっ、おいっ!! 問答無用かよっ! 俺達は間違ってこの修練のダンジョンに閉じ込められただけだっ! けして、荒らしに来たわけじゃない。話せば……ひゃぇ!?」
シュゴウっと風切り音を残して火球が掠めていく。ギリギリで避けた火球が背後の壁に当たると、猛烈な爆風を発生させて身体が煽られてしまう。
「ツクルにーはん、この方がこの修練のダンジョンのマスターはんだと思わはりますぅ。話おうても無駄な気がしますわぁ~」
「ルシアさんの言う通りですね。さっきの火球は下手したら、死んじゃいますよ。みんなで団結して退治して脱出しましょう」
「ルリちゃんに賛成だがや。マジで死んでまうわ」
ピ、ピイヨ。ピピ。ピヨ!
ハチもルリもピヨちゃんまでも、イキナリ敵対行動を見せた猫の化け物に容赦をするつもりは欠片も持ち合わせていないようだ。ちなみに、俺もさっきの火球を見てヤバいと感じているので、退治をする気は満々だ。
敵意を見せた者に遠慮する必要はない……俺にはルシアを守るという大命題がある。それを実行するのが最優先だ。
松明を地面に設置して光源を確保すると、鉄の盾と鉄の剣を装備して再び火球を放とうとしている化け猫に吶喊をかけていった。しかし、みんなが戦闘意欲を高めていっている中をただ一人だけ、締まりのない顔をして涎を垂らしている人物がいた。その人物『ぬこ、ぬこち゛ゃーーん!』と意味不明の言語を発し、蕩け切ったように弛緩した顔を晒している。
「ツクル様っ! ぬこば苛めてはいけまっせん。ちゃんと話し合うて理由ば話せば分かり合うてくるっはず。その役目ばアタシに任せてくれまっせんかっ!」
イルファは俺の許可を待たずに化け猫に飛び込んでいき、モフモフの毛に顔を埋めると『ぬこ、ぬこち゛ゃーーーん!! あふぅう!! この毛並み素敵っ!!』等と言い放ち、そのぬこによってひょいと持上げられて壁に叩きつけられた。
「……ぬこ、ぬこちゃん……ガクリ」
遠目だがとりあえず死んではいないようだ。だが、主力ガチタンクを一発で沈める化け猫の強さに恐怖を覚えてしまう。
「ワシの毛並みを勝手に触るとは罰当たりな奴め。お前等は全員生かしては地上に帰さぬ」
化け猫がイルファに毛並みを触られたことで激怒して、火球の数が先程よりも格段に増えていた。
「やべえ。みんな散開しろっ!!! さっきのが来るぞっ!!」
皆に注意を促すと、数個の火球がこちらに向かってきていたので、咄嗟に盾を構えて火球を弾く。相撲取りが突っ込んできたような衝撃が盾を通じて身体に響くと、ミシリと骨が軋む音が聞こえてきた。
いでぇえ……マジかぁ……やべえなぁ。こりゃあ、ロックゴーレムよりも強いぞ。
火球を弾いた腕は痺れて上がらなくなり、次の火球は防げそうになかった。一方、ルシアやピヨちゃん達は何とか火球を避けたようだが、爆風によって弾き飛ばされて地面に横倒しに倒れている。ルリやハチ達も爆風を受けて地面に転がっていた。
「ルシアっーーーーーー!! 無事かっ!!」
ルシアが地面に横たわっているのが見えると、慌てて駆け寄って状態を確かめる。とりあえず、規則正しく息はしているが飛ばされた衝撃で気絶をしているようだ。
「弱っちいな。お前等、そんな程度でよくこの修練のダンジョンに挑もうと思うたな。久方ぶりの修練者だから、張り切って相手をしてやったが、少しばかり手加減が足りなかったようだ」
化け猫は俺達との圧倒的な実力差を感じ取り、余裕を顔に貼り付けて見下してきた。前脚で髭を擦る仕草をすると、目を細め、再び先程と同じ数の火球を浮かび上がらせてくる。
「ワシの運動不足をちったあ解消させてくれんかのぅ!!」
化け猫が放った火球がすべて俺とルシアに向けて放たれ、轟音を響かせながら迫ってくる。今ここでルシアを庇わなければ、確実に彼女の命は失われてしまうであろう熱量と爆発力をもった火球を目にすると、反射的に盾を構えてルシアを庇うように立ちふさがる。
あんな火球が何だっていうんだっ!! 絶対に、絶対にルシアにだけは触れさせねえっ!!! 神様、仏様、邪神様、あーっ! 何でもいいから! 俺にルシアを守る力をくれっ!! そのための代償は眼でも足でも腕でも記憶でも、命だって持ってていいっ!! ルシアが生き残れるなら、なんだっていいんだっ!! 頼むっ! この世界に奇跡があるのなら、今この瞬間に起こしてくれっ!!
――汝が願い聞き届けた。奇跡が起こしたいと望むのであれば、今すぐその場にある邪神イクリプスの神像を破壊するのだ。
目の前に迫った破綻を回避するための奇跡を願うと、どこかで聞き覚えのあるような声が頭の中で再生された。声は神像を破壊せよと告げている。
それで、奇跡が起こるならっ! お安い御用だっ!!
声の主のことを深く考えもせずに木槌を取り出すと、神像に向けて勢いよくぶん投げる。それと同時にまるで車に衝突されたような衝撃と、皮膚が焼け爛れるような熱波が身体中を襲っていく。
グゥウウっう!! ち、ちくしょうっ!! 身体が引き裂かれて、溶けそうだぜ……ルシアぁ……ルシアぁ……頼むから君だけでも助かってくれ……。
鉄の盾はすでに溶けて原形を留めず、鉄の鎧も溶けて皮膚を焼き尽くしていた。尚も火球から発せられた熱量と衝撃は俺の身体を痛めつけていく。薄れゆく意識の中でぶん投げた木槌が神像に当たり砕け散るのが見て取れた。
「き、貴様ぁぁああ!! 古の魔王様よりお預かり大切な神像を壊しおって!!」
タマと名乗った化け猫が神像を破壊されると、背中の毛を逆立てて怒り狂っていた。そして、俺は激痛に苛まれて意識が遠のいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます