第98話  二号店

 火山地帯でのルシアとのお散歩デート兼新型ゴーレムの実戦テストは大成功に終わった。圧倒的な性能を見せた『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』はそのままでは、量産化が難しいゴーレムであったため、今度は性能等を量産可能な素材レベルにまで落とし込んでの廉価版の設計をしていくことが決まっていた。拠点防衛型の門番君シリーズと自立強襲駆逐型ゴーレムが揃えば、並大抵の軍ではこの屋敷を攻略できないと思われる。

 

 魔王軍への敵対を表明している俺達は過剰とも思える防備を備えておかねばならなかった。そのためには資金もかなりいるため、フェンチネルでのクリエイト商会の事業も手広く展開していくことにしていた。現在、フェンチネルの外食トレンドを一気に塗り替え、中毒者を多数出しているクリエイト商会が経営する飲食店の一号店『旨味食堂』の人気は衰えみせず、日々行列が伸びる様相を呈していた。そこで、街の有力者に顔が利くクライットさんの力を借りて新たな店舗を探していた所、目的に合う立地の店舗が見つかり、早々にプチ高級路線の二号店『デリカトゥーラ』の開店に向けて、内装を作るのを手伝っていた。


 すでにメインシェフとなる料理人持ちの人も高額な俸給を提示して確保しており、屋敷でルシアがみっちりとレシピと調理手順を教え込むことをしていた。そして、店舗スタッフも一号店で優秀な接客をした者を中心に選び、新店舗の切り盛りを任せることにしている。『デリカトゥーラ』は『旨味食堂』より価格帯を上げて家族や恋人と月に一度の贅沢をする店としてプロデュースすることが決まっており、一号店より大きめの店舗にオレが素材コストだけで制作した高級な食器やテーブル、椅子、インテリアなどを設置して、非日常的な高級感溢れる店舗に仕上げている所だ。店の内装を見たクライットがフェンチネルの高級レストランに引けをとらないと太鼓判を押してくれていたので、かなりの上質感を出せていると思われる。


 けれど、コンセプトは月に一度のプチ贅沢なので、価格帯は高級レストランから比べるとかなり安い部類に入る予定である。低価格の理由はルシアがお金のない人にも美味しい料理と、非日常的な空間で明日への意欲を取り戻してもらいたいためだと言われ、それに俺も賛同したのだ。非日常感あふれる場所での美味い食事は、ストレスの発散になるのだ。そうすれば、また次来るまでの間頑張って仕事ができるような気がする。


 そのため、低価格を実現するために調度品は素材代のみで、俺が生成した物を使い、食材も屋敷で作った物を多く使用して、原価の低減に努めていき、庶民でも月一の利用ができるくらいの価格帯に収められるようになっているのだ。


「さて、内装は終わったな。後は看板と予行演習をして、最終チェックすれば開店だ」


 最後の内装工事である厨房を作り終えたことで、店としては完成し、後はルシアの筆による看板の題字の完成を待つのみであった。


「ツクルにーはん、看板完成しましたよ」


 店舗に現れたルシアがメインシェフとなる人とともに看板を抱えていた。


「おお、完成した。どれ? ほぉー、いいね。さすがルシア。字も上手い。じゃあ、俺はコレを取りつけてくるから、厨房のチェックしてもらっていいかい? 使い勝手の悪い所あったら教えて」

「分かりました。これから厨房のチェックさせてもらいます~」


 流麗な文字で書かれた看板を受け取ると、厨房の最終チェックをルシア達に任せて、俺は店外に出ると二号店『デリカトゥーラ』と大書された飾り看板を店の軒先に設置する作業を始めた。二号店も貸店舗であるが外装の改造許可も得ているので、外から見ても高級そうな佇まいを見せている。俺も日本にいた時にこういった店に入れるかと聞かれたら、まず気後れして入れないと思うので、プレオープン日を設けて一号店の『旨味食堂』に入れなかったお客様を招待するつもりであった。無論、価格はプレオープン価格で旨味食堂と同じ値段帯として提供させてもらうことにしている。


 そうして、店舗スタッフの予行演習も兼ねたプレオープンは一週間ほど予定しており、その間にこの店の正規値段をお客様に伝えていって、月に一度の贅沢日に家族や恋人達に利用してもらおうと考えている。店の雰囲気、提供される食事に対しての値段の低さを勘案すれば、お客が利用することに二の足を踏むことはないと思われるので、最初の宣伝を上手くやれば、こちらの店も軌道に乗ると思われる。


 こうして、開店準備を終えた二号店『デリカトゥーラ』は翌日に控えたプレオープンに向けてスタッフ達が夜遅くまで準備や練習をしていた。



 翌日となり、プレオープン日となると、朝早くから一号店の『旨味食堂』にできた行列に並んでいる人に声を掛け、新規開店になる『デリカトゥーラ』へのプレオープンに参加をしてもらっていく。行列にならんでいた人達も『旨味食堂』を経営しているクリエイト商会が出す飲食店ならと、喜んで参加を了承してくれる人が多く、新店舗を見た人達は一様に驚きの声を上げていた。


 そして、つい先日まで貴族の屋敷で執事長をしていた経歴を持つフロアマネジャーと、『旨味食堂』から選抜された接客技術を持つメイドウェイトレス達によるサービス提供は庶民の方にも好評を博し、更にルシア監修によるプチ贅沢仕様のランチメニューを見たお客様達からは歎息が方々から聞こえてきていた。


 完全に非日常感を演出することに成功したことで、お客様は食事する時間を優雅に楽しまれていった。『旨味食堂』に比べればお客の回転率は落ちるが、それを上回る客単価を設定している。そして、ランチタイムが終わると、もう一段階価格帯を上げたディナータイムが始まる。この時間帯は完全予約制にしており、商人が商談を円滑に進めるための会食先として使ってもらう予定をしている。もちろんランチで味を知った庶民の方が奮発して利用することもできる位の値段設定にはしてあった。フェンチネルは辺境にある都市だが交易都市でもあるため、それなりに住んでいる人口も多いので、楽に採算は取れるようになっている。

 

 一週間のプレオープン期間は瞬く間に過ぎ、クリエイト商会のプロデュースする二号店『デリカトゥーラ』はフェンチネルの庶民を中心にした口コミにより、開店してすぐに予約の取れない人気レストランとしての地位を確立し、ランチタイムには一号店の『旨味食堂』に同程度の行列ができるレストランとして認知されるようになった。


 『デリカトゥーラ』にランチタイムにできた行列を見て、ルシアが『おばーはんの店が復活できた』と泣いているのを見て、思わず俺も一緒にもらい泣きをしてしまった。


 こうして、フェンチネルのクリエイト商会は、『飯の美味い飲食店を神プロデュースする凄い商会』というよく分からない認知のされ方をより一層広めていくことになった。

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