第99話 雑貨取り扱い始めました
新型ゴーレムの開発や、二号店『デリカトゥーラ』の成功により、商会の商売が広がることに面白味を感じていた俺は、本来やらなければならない魔王からのメンテナンス権を取り返すための修練のダンジョン攻略を忘れそうになっていた。
屋敷に聖堂を設置おかげで、別次元にいるイクリプスとの会話は楽にできるようになっていた。あの無能女神の声を聴くだけでこめかみの辺りがきりきりと痛むが、ルシアの奉納する毎食の飯を糧にバグ取りに勤しんでいる。その、イクリプスの言ではしばらくは世界が安定したと言われていた。
なので、しばらくは屋敷の拡張と商会の拡張に時間を投じることができるようになった。なので、商会の仕事を拡張させるため、屋敷で生産過多になりつつある野菜や綿織物を販売する『雑貨屋プロスペリッティー』を、新たにフェンチネルの下町に程近い商店街の空き物件に開店させることにした。
『雑貨屋プロスペリッティー』は、屋敷の広大な畑でそだてられた生鮮野菜や果実類、牧場で増えた家畜の肉類などから始まり、ルシアが見つけたハーブの調味料や、薬草類を使った各種回復系ポーションや販売、そしてフェンチネルで手に入れた各種染料を使って、我が家に移り住んだ女性達が衣服に仕立て上げた物も販売する予定にしていた。
この店を開店する前に、色々とフェンチネルの街を見て回っていたのだが、高級食材や衣料品を扱う店は多数見かけられたが、低価格帯の食品や衣料を扱う店は少なく、規模も個人商店クラスで品揃えは微妙なものばかりだった。そこで、屋敷にて生産される量が多くなりすぎて、自己消費できなくなりつつある素材を、フェンチネルの下町街に住む人達へ廉価販売して更にクリエイト商会の名前を住民達へ浸透させ、低価格帯の顧客を一気に獲得するつもりであった。
俺の開店する『雑貨屋プロスペリッティー』が個人商店の顧客を奪いかねないが、この雑貨屋事業に関しては、飲食店とは違い、オーナー制として個人商店の店主達に『雑貨屋プロスペリッティー』の看板を掲げてもらい、商品類を提供していく準備も同時に進めていた。まぁ、ぶっちゃけチェーン展開しているスーパーマーケットみたいな方式だが、安い食材、衣料をお客に提供することを目的に店舗を増やして行きたいと思っている。
フェンチネルは辺境でも人口の多い都市なので、一定の需要が認められ、商売としては儲けの種になると思われる。フェンチネルの高い物価に喘いでいる庶民に対して良質な物を安く大量に提供することで、庶民の生活を少しでも良くできればと思っている。
「ツクルにーはんはまた、お店出すんですなぁ。『デリカトゥーラ』も繁盛しているから、そんなに頑張らなくてもええんとちゃいます?」
『雑貨屋プロスペリッティー』一号店の開店準備をしている俺に、店の視察をしにきたルシアが話しかけてきた。
「そうなんだけどね。なんだか、飲食店があれだけ繁盛すると、今度は雑貨屋もやってみたいなと思ってさ。フェンチネル人達が高くて微妙な品質なものを消費しているのを見て、うちの屋敷で余ってる物を売れないかなと思っててね。腐らせるのも倉庫に積み上げるのも勿体ないなと思ってさ」
「ツクルにーはんはホンマに働き者やねー。クライットはんも感心してますよ。こんな短期間で三つも店を出す商会は初めてだって言ってましたよ」
フェンチネルの領主の家人であるクライットさんには、空き店舗の情報をもらったり、他の商会の偉い人との顔つなぎを助けて貰っていた。彼の伝手がなければ、短期間に三件も店を持つのは無理だったし、領主や他の商会からの妨害もかなり受ける可能性もあった。けれど、街の顔役といっていい彼が色々と動いてくれたおかげで、既存の商会との関係や領主との関係も良好さを維持していた。
「クライットさんも義理堅い人だもんなぁ……この前、お礼の品を持って行ったら、見事に突き返されたからなぁ……。何か、彼が喜ぶことないかなぁ」
「そうですなぁ。でも、『雑貨屋プロスペリッティー』が繁盛すれば、クライットはんも喜ばれるんじゃないですか? なにせ、領主様に物価高をどうにかしましょうと訴えられている方と聞いてますんで」
「そうだな。クライットさんの要望に沿った店を繁盛させて恩に報いるとするか……」
その後、『雑貨屋プロスペリッティー』の開店準備は進んでいき、開店の日がやってきた。すでに『旨味食堂』の客や『デリカトゥーラ』に来ていたランチの客に『雑貨屋プロスペリッティー』の開店を伝えてあり、開店前から店舗の前には長蛇の列ができていた。スタッフも新たにフェンチネルの住民から雇い入れていた。屋敷の方も先に雇った職人達が好待遇の生活環境により、自分の親族もこちらに呼び寄せたいと言い出したので、移住をすることを認めていた。これにより、働く人が増え、生産物の増加が著しく向上することになり、今回の『雑貨屋プロスペリッティー』開店の話へ繋がっていた。
開店すると俺も品出しをするスタッフを手伝い、屋敷直送の取れたての野菜を陳列棚に並べていく。周辺の店舗との値段差は群を抜いており、お客たちは先を争って野菜や肉を手に取り、会計を済ませていった。
一方、衣料品も周辺よりも二割近く安い値段で上質の衣料品が並べられ、カラフルな原色の衣料が主婦たちに受けて、飛ぶように売れいった。
「ああ、予想を超える人気だね。これは入場制限かけた方がいいね。売る物はいっぱいあるけど、お客が怪我しないようにしないと」
俺は安い物を買うために過熱して周りが見えなくなっているお客に危険を感じ、スタッフに指示を出して入場を制限することにした。お客は入れないことに怒る者もいたが、売る物は十分にあると説明させ、ゆっくりと買い物をさせることにした。
そうして、開店初日の喧騒は夜が更けるまで続くこととなった。
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